2013.01.09
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「圧勝」という表現について

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

衆議院選挙が終わって、安倍内閣の組閣も終わりました。
新しい政権が誕生し、新年を迎えることになりました。
この連載が皆さんの目に留まる頃は、また変化しているかもしれませんね。

マスコミが選挙の結果について「圧勝」という言葉を使っていました。マスコミというよりは、あるレポーターであったり、テレビ番組のキャスターであったりなのですが。朝昼晩と一日の中でも何度となく、テレビで繰り返し用いられていました。私は個人的に、この「圧勝」という言葉が非常に耳障りに感じていました。私一人だけでなく、耳からの情報を頼りにしている視覚障害者の方々に、誤解を生じさせるおそれがあるのではないかと実は非常に心配になっていました。

「圧勝」というのは、あくまで当選した議員の数が自民党の候補者が多かったというだけで、それ以上でもそれ以下でもないはずです。しかし、「圧勝」という言葉がやけに耳に残り、この言葉から得る印象は、自民党が良いのだ、立派なのだという付加的2次的イメージに誘導される危険性を孕んでいたのではないかと思います。

幸い、安倍総理は、このところをわきまえておられ、自分の内閣のことを「危機突破内閣」と称しておられます。ただ、この「危機」という言葉も、実は玉虫色であり、様々な意味合いが含まれています。自民党の支持が「圧勝」でなく、民主党ではなかっただけで、消去法として消極的に選ばれたという現状であることも踏まえてもらいたいものです。

今回の選挙について、少しばかり簡単な算数の計算をしてみようと思います。少々お付き合いください。投票率が60%に満たない中で、自民党候補の獲得得票率が5割だと仮定してみましょう。なぜ5割を突然持ち出したのかと言うと、5割であれば、半数なので理論上は当選となるからです。では、全有権者数のどのくらいで当選することになるでしょうか。60%×5割を計算します。もちろんこんな計算はありませんね。0.6×0.5=0.3ですね。そうなのです、驚くことに全有権者数の30%程度で当選してしまうことになります。現実には、立候補者が乱立してる選挙区では、有効投票数の4割または3割5分でも当選しています。すると、全有権者数の2割4分(0.6×0.4=0.24より)または2割1分(0.6×0.35=0.21より)でも当選してしまうことになるのです。逆の味方をすると、およそ7割ほどが支持しなくても、有権者の思いと異なる候補者が、当選となり、その選挙区の代表となり、「民意」だという看板を背負うことになってしまうのです。

私は、高等部生徒に選挙の投票率の高低と、当選することのパラドクスみたいことを話しました。当選した人が必ずしも、選挙民の気持ちを代表しているとは限らない、不思議な民主主義のことに気づいて、驚いていました。

今回の選挙結果が、民意でもなく、自民党の「圧勝」でもないことを、皆さんと一緒にもう一度確認できたでしょうか。この小選挙区制というのは、「死に票」問題もあり、選挙制度としては、どうなのかという思いもあります。

投票しなかった残りの40%の人が、自民党に賛成であったかどうかはわかりません。様々な理由で投票しなかったことも取材を通して報道されていました。仮の話しですが、投票しなかった人全員が、別の候補に投票したらとすると、自民党の候補者は落選してしまっているかもしれない「危機」的状況であったのです。つまり、今回の選挙は、自民党が「ギリギリ」圧勝したような形になっただけの選挙とみることもできるのです。それも、敵失に助けられた部分が大きいのではないでしょうか。どなたかが今回の解散を揶揄されましたが、「自爆テロ解散」に助けられただけかもしれません。素直に「圧勝」という言葉を鵜呑みにしてはいけないのです。

同じことは、前回の民主党が「圧勝」した時も言えたことなのです。

話は戻りますが、視覚障害者が耳からの情報に主に頼っている場合は、今回の「圧勝」という何気ない一言についても、冷静に受け止めることができるようになって欲しいのです。しっかりした学力、知識、常識的な判断力というものも求められるのです。学校教育活動全般の中で、「コミュニケーション教育」がやはり大切になるのです。大げさなことではありません。言葉の真意や裏も理解できるようになることも大切なのです。

私は、マスコミ自身が正確に誠実にそして適切に言葉を、平素から選んで使っていただきたいものだと願っています。マスコミのフィルター越しに事実を認識することが難しい時代に生きているのではないでしょうか。

今回は「圧勝」という何気ない一語にこだわってみました。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
今年も良い1年のスタートなることを願っております。


追伸
松井秀喜現役引退のニュース入る。えっ??

2010の放火事件で、警察官が逮捕される。トホホっ!?

吉田松陰の本読了!!激動の江戸、明治の裏側を学ぶ!! 

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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