2013.01.01
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気になる子の姿勢の育て方(姿勢の大切さ(3))

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

  今年もよろしくお願いします。

あけましておめでとうございます。2013年もつれづれなるままに、お付き合いよろしくお願いします。

 あけまして、と言いつつもこの日誌を書いているのは実は年末でして、校内の仕事としては、来年度の教育課程の編成に追われている最中です。一般の学校は教育課程が1つだと思いますが、肢体不自由特別支援学校では、自立活動を主とする子どもたちが学ぶ教育課程、知的障害を合わせ有する子どもたちが学ぶ教育課程、そして、普通学校に準ずる教育課程と3つの教育課程があります。私は小学部の担当ですので、6学年×3課程の18学年の作成となり、同僚に助けてもらいながら、今年よりも学びやすい教育課程が作れるようにと奮闘中です。
 教育課程は、まさに学びの場を支える仕事ですので、頑張りたいと思います。

 気になる子の姿勢の育て方

 またまた今回も「姿勢と学習」についてお話をしていきます。前回のつれづれで、「姿勢のメカニズム」について簡単に書かせてもらいました(前回を読んで頂いてからの方が分かりやすいです)。その中で、良い姿勢を作るには「平衡感覚」の情報を脳へしっかりと伝えることが大切だと書きました。

 今回は、その平衡感覚情報を脳へ伝えやすくするための方法をお話ししていきたいと思います。

 まず、姿勢が崩れやすい子どもたち(大人もですが)の多くは、10ある平衡感覚情報が、脳へ3~4とかしか伝わっていない、平衡感覚の低反応という状態です。(姿勢が崩れやすいだけでなく、椅子をいつもユラユラ揺らして座っていたり、自分の身体をユラユラ揺らしていたり、授業中でも離席が多かったり、休み時間にクルクル回って過ごすのが好きだったり、転がってきたボールをうまく取れないような注視・追視が苦手だったりする子も同様です。)

 どのくらい平衡感覚情報が伝わりにくいのか測定する方法として、「回転眼振検査」があります。正しい方法は日本感覚統合学会等のホームページで確認していただきたいと思いますが、簡単な方法として、職員室によくあるような回転する椅子に座らせ、「20秒で10回転(2秒で一周)」させ、止めたところで、黒目が左右に揺れる時間(眼振)が何秒続くかを見ます。通常は15秒から20秒で眼振が止まります。これが低反応のお子さんは全く眼振が出なかったり、出ても数秒で消えてしまったりします。

 逆に過反応のお子さんもおり、数回転で「もう止めて」と、平衡感覚情報が過剰に脳へ伝わってしまう状態のお子さんです。上記の検査をすると、30秒以上眼振が続いたり、数回転でフラフラと目が回った状態になります。過反応のお子さんは、乗り物に酔いやすかったりするようなお子さんです。

 検査後の様子で低反応かなと思われるお子さんへの、姿勢が良くなるための支援策としては、通常よりも強い平衡感覚刺激を感じる活動が有効です。平衡感覚情報には、水平方向の動きと垂直方向の動きと2種類ありますので、中にはトランポリンは大丈夫だけど、ブランコは苦手といった子どももいますので、指導する際はそういった違いにも配慮してください。

 平衡感覚を育てる視点

 前ふりが長くなりましたが、いよいよ平衡感覚の育て方です。ここではどのくらい低反応な状態かで、必要な感覚刺激量が変わります。刺激量を考えるポイントとしては、頭の位置がどのくらい動くかという見方が良いでしょう。読んでくださっている方の学校や家庭の環境で使える道具が大きく変わると思いますので、できそうなものを取り入れてみてください。

 

1.垂直系平衡感覚刺激()の活動

 「トランポリン」がなんといっても効果大です。家庭用の小さいトランポリンの場合は、子どもが一人で跳ぶのではなく、大人が子どもの脇の下に手を入れて、子どもが自力で跳ぶのよりも高く跳ばせます。この時に大人は腰を痛めないように足を広く開くなど、ご自身と子どもの安全に配慮してください。また、テレビを見せながらなど、何か一点を注視しながら跳ばせると、眼球運動の調整練習も兼ねられますので、一石二鳥です。

 もし、肢体不自由のお子さんを跳ばせる際は、上へ跳ぶよりも、床面が下へ沈むようなイメージでトランポリンに乗せると、安全に運動ができます。跳ね上げて、子どもにケガをさせないようにしてください。

2.垂直系平衡感覚刺激()の活動

 「バランスボール」が代表格です。子ども一人でも手軽に取り組めますが、こちらも、感覚情報を多くするためには、大人がボールを足で挟み、子どもの肩を真下へ一瞬押すような感覚で乗せます。イメージとしては、お祭りの屋台で「ヨーヨー釣り」がありますよね。あの、ヨーヨーを使うような感じです。下へ押すとバランスボールの跳ね返りで、小さな力でも大きな動きを引き出せます。もし、腰が不安定なお子さんの場合は足の付け根辺りに大人が手を置き、骨盤を手で抱えるようにして真下へ跳ばせるとよいでしょう。平衡感覚情報が脳へ伝わりだすと、背筋が伸び、跳ばせやすくなったり、自分でずれたお尻を座り直そうとしたりとします。このしぐさが、平衡感覚情報が良く伝わりだしたサインになります。

3.水平系平衡感覚を育てる活動

 水平系は行い方で感覚情報の大きさが大小変わりますので、お子さんに合わせて調節してください。
 手軽なのが、「回転椅子」です。速く回せばその分刺激量が増えますが、転倒や手足をぶつけるなど、危険も伴いますのでゆっくりで良いので回転数を多くしてみてください。怖がる様子や、もしお話ができるお子さんでしたら、10回転や20回転したあたりで、目が回る感じがするか聞いたり、もっと続けたいか聞いたりしてもよいでしょう。さらに、右、左と数回転ずつ回転方向を変えると刺激が強く入りますが、こちらも危険が伴いますので、無理に行わず安全重視でお願いします。

 続いては「ブランコ」です。揺らし方で感覚刺激量が大小変化させられますが、子どもの乗っている様子を見て大きく揺らしても大丈夫か判断してください。また、乗り物酔いしやすい過反応のお子さんの場合は、お母さんが抱っこしたまま、頭1つ分が動くくらいの非常に小さい揺れで、身体を安定させて乗せ、表情を見て少しずつ揺れ幅を広げます。「怖い」という思いをさせないことが大切です。トランポリンなども同じようにすると良いでしょう。

4.いつでもどこでも平衡感覚を育てる活動

 いろんな方法がありますが、なかなか意識し辛い平衡感覚を意識するというのが一番の方法かなと思います。例えば、(1)椅子に座ったまま、目をつぶり、両足を上げてみる。さらに、身体を右のお尻に乗せて真ん中に戻す。左に乗せて戻す。(2)立った姿勢で、くるぶしとくるぶしをくっつける。続いて、目は開けたまま片足立ちをする。今度は目を閉じた状態で片足立ちをする。③散歩の最中など、横断歩道の白線の上をはみ出さないように歩くなどです。

5.教室で姿勢を良くする簡易法

 平衡感覚へのアプローチではありませんが、椅子に座った状態か立位で、あごを引き、背筋が伸び、足底も地面にしっかりついた状態です。頭のてっぺんから地面方向へ頭を押すと、姿勢を支える部位の筋肉へ強く刺激が入ります。すると、イメージ出来辛かった筋肉がイメージしやすくなり、しばらくの間だけですが、姿勢が保ちやすくなります。感覚統合療法の「アンカリング」という技法で、船が錨(いかり)を下ろすという意味の方法です。

 でも、一番大切なのは

 以上が姿勢を良くするための平衡感覚の育て方です。方法だけに走り、その理由など、なぜそうするのかという視点が落ちると、子どもに辛い思いをさせてしまったり、ケガの誘発につながったりします。今回は、理解を広げる意味でお話しましたので、実践する際はぜひとも学びを深めていきながら指導してください。

 そして、一番の姿勢を良くする方法は、授業がおもしろいこと、良く分かることに他ならないと思っています。姿勢が崩れるのは、「授業がつまらないですよ」という子どもからのサインの一つだと私は受け止めています。学ぶための姿勢づくりと合わせて、やはり授業の中身を良くしていくという両輪が大切だと思います。同じつれづれ日誌の関田先生や松森先生の楽しく学習をすすめるという視点を、私も取り入れて今年も頑張りたいと思います。 

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

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