2012.12.13
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知ってほしい姿勢のメカニズム(姿勢の大切さ(2))

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士 植竹 安彦

学期末に思い出すこと

 こんにちは、めっきり寒くなってきましたね。

 3学期制の学校では、通知表の記入で忙しいころだと思います。評価のころになると教員養成の学校へ通っていた時の恩師の言葉を思い出します。

 それは、評価を読んだ人が元気になるような「励ましの評価」を書けるようになりましょうという言葉です。

 「励まされる」「元気になる」評価ってどんな評価だと皆さんは思いますか?恩師もこれだというものは教えてくれませんでしたが、答えはきっとたくさんあると思います。

 個人内評価で書ける部分に「頑張りを認める」視点、「子ども一人ひとりの価値を認める」内容を具体的に伝えることで、児童・生徒本人だけでなく保護者も、来学期また頑張ろうと思ってくれるのではないかと思います。

 学級全員の価値を、小さな成長や頑張りまで見つけるためには、子ども一人ひとりに応じた定規(見抜く視点)を教える側がもつ努力をしないといけのかなと思います。また、学校の中で、子どもが現時点でもっている力を発揮できるような仕掛けをいくつもできていたかが大切なのだと思います。

子どもの「姿勢」気にしてますか?

 さて、今回も前回に引き続き、「姿勢と学習」についてお話していきます。

 冒頭でも書きました、子どもの価値を引き出すためにも、私は「姿勢」がとても大切なものだと捉えています。前回までのつれづれ日誌にも書きましたが、良い姿勢で学ぶことで、視空間から得られる情報量が増えたり、手が自由に使えることで活動のパフォーマンスが高まったりするからです。なぜかは後半で書きますね。

 では、「良い姿勢」とはどのような姿勢でしょうか?ちょっと目をつぶってイメージしてみてください。

  浮かびましたか?浮かんだ姿勢をちょっと言語化してみてください。なんとなくしか言えない場合は次の例で思い浮かべてみてください。

 私が思う良い姿勢とは、(1)背筋が伸び、(2)足裏がしっかりと地面につき、(3)少し前傾(ぜんけい)気味な状態です。

 では次に、みなさんの学級に、ちょっと気になるこんな姿勢の子はいませんか?

  1. 猫背で腰が後ろに丸まっている(骨盤が後傾している)子
  2. ひざを伸ばして、足を机から大きく投げ出している子
  3. 利き手と反対の腕のひじを机につき、その手であごやほほを支えて黒板を見ている子
  4. 利き手と反対の腕から胸をぴったりと机につけ、うつ伏せ気味に黒板を見る子
  5. 足を床から離してぷらぷら動かしながら座っている子
  6. いすのはじに片方のお尻だけ乗っている子や、今にもいすから滑り落ちそうな子
  7. 片足をいすの座面にのせて座っている子
  8. いすをブランコのようにゆらゆら揺らしながら座っている子


などです。「いるいるいっぱいいる。」という先生もいらっしゃるかもしれませんね。

 ついつい、「ちゃんと座りなさい!」や、「シャキッとしなさい」などと言ってしまいがちではないでしょうか?

 でも、ここで知っていただきたいことがあるのです。1から8までの姿勢をしている子どもたちのほとんどが自分の姿勢の自覚がないということと、ついついこのような姿勢になってしまい、そもそもの身体の育ちが、まだ未熟さを抱えているということです。

 産まれたばかりの赤ちゃんに、「そんなに首をグラグラさせてないで、しっかりこっちを見なさい。」とはだれも言わないと思います。姿勢の悪い子も、そもそも良い姿勢を保つだけの身体が育っていないことが多いことを分かってあげてください。サボっているのではなく、できない、できにくい子だという理解をしてほしいと思います。

 「でも、どうしたらいいんだよぅ」という声が聞こえてきそうですね。
 

 そこで、「姿勢のメカニズム」についてお話していきたいと思います。

 良い姿勢を保つためには、やはり「腹筋と背筋を鍛えなければ」と思われる方が多いようですが、実はそうではありません。確かに筋力は無いよりあったほうが良いのですが、一番大切なのは、「平衡感覚」の情報を正しく脳へ伝えられるように育ててあげることです。

 平衡感覚は、身体の傾きや加速度などを感じ取る感覚で、耳の奥にある三半規管というところを中心に情報を受け取っている感覚です。姿勢の崩れやすさの要因として、この平衡感覚からの情報がうまく脳へ伝わっていないからだと考えられます。

 「あなたの身体はこれだけ傾いていますよ。」だから、「傾きを戻すだけの筋肉の力の入れ加減を調整してくださいねぇ。」という「これだけ傾いている」という情報が正確に脳へ伝わっていないのです。そのため、本人的にはしっかり座っているつもりが、実は傾いたままの状態だったり、どの筋肉をどれくらい調整したらよいのか脳から正しい情報をフィードバックできていなかったりするのです。

 例えば、上記の姿勢の悪い子の3にある、「机にひじをついて、手のひらにあごを乗せて黒板を見ている子」は、「だらしのない姿勢」と捉えがちです。ところが、見方を変えると、「重たい頭を支え続けるだけの筋肉をうまく操作できないので、ひじ関節を曲げて固定させ、首のかわりに腕で頭を支えている」とも読み取れます。「机の上に横たわって黒板を見ている子」も「体を支える筋肉の調節がうまくできないので、体幹の大部分を机に乗せて安定させることで、ようやく頭を固定させて黒板を見ている」というように、自分でなんとかあみ出した技なのかもしれません。このように、関節をこれ以上曲がらない状態で固定させて姿勢をつくることを「ロッキングシステム」と言ったりするそうです。

 ちなみに、目玉(眼球)も平衡感覚からの情報を受け取って、目玉を動かす筋肉を動かして私たちは見ています。例えば、国語の教科書を読むと、一番下まで読んだ後に次の行を読もうとすると1行飛ばして読んでしまう子などは、平衡感覚がうまく脳へ伝わらず眼球運動がスムーズにできないことが原因だったりします(それだけの理由ではないこともあります)。

 平衡感覚を上手に脳へ届けることが良い姿勢をつくるための主電源スイッチになることがなんとなくわかっていただけたでしょうか。「ポチッ」とボタンを押せば正しく機能したらよいのですが、やる気スイッチと一緒でスイッチボタンは残念ながら見えません。

 さて、平衡感覚を育てようと言われてもよく分からないと思います。視覚、聴覚、味覚などは、見えた、聞こえた、味がした、と使っている感覚が分かりやすいのですが、平衡感覚は生きている間、みんな使っている感覚なのに、意識しづらい感覚だからです。

 

 次回、この平衡感覚の育て方についてお話していきたいと思います。どうぞお付き合いください。

 今年もあとわずかですね。よい一年のしめくくりができるようにラストスパート頑張ります。

植竹 安彦(うえたけ やすひこ)

東京都立城北特別支援学校 教諭・臨床発達心理士
肢体不自由教育からの視点を中心に、子どもたちの発達を支えるために日々できることを一緒に考えていきたいと思います。

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