2012.11.20
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小ネタです。

北海道札幌養護学校 教諭 郡司 竜平

ズーム

 前回は、タブレット端末の画面サイズについて私なりの考えと実際の取り組みについて載せさせていただきました。

今回はその派生版のような形でしょうか。

 本校では、自閉症等の児童生徒が多く在籍し、その児童生徒の特性の一つとして、シングルフォーカスやモノトラック、注意の転導性が挙げられます。それらの特性に応じたIT機器を用いた支援を考えて実践を行うことで、「見る」ことの力が高まり、それが学習の成果を高めると考えています。一般的に視覚優位と言われるお子さんたちですが、視覚でとらえる際にいろいろな課題があることもまた特性であると私は考えていますので、「見る」ことを意識して支援することは必然であるように思います。

 本校の「自閉症等への対応ガイドライン」でお示ししている中で、宇佐川先生の「感覚と運動の発達モデル」(感覚と運動の高次化からみた子どもの理解、宇佐川浩、学苑社から引用)から考えると、この「見ること」の重要性がおわかりいただけるかと思います。

 そこで、この特性に応じた支援方法を日々、試行錯誤しているところです。今現在は、iPhoneのカメラアプリを用いての支援を試み始めています。

 机上での課題学習では、直接的にしっかり対象物を見ることができているお子さんが、大きな集団での学習になると、急にどこを注視してよいのかわからなくなるという課題がしばしば見られます。さらに、大きな集団での学習となると、どうしても指示を出したり演示したりするメインの教員までの物理的な距離が離れてしまうため、必要な情報以外のさまざまな情報まで視野に入ってしまい、注意の転導性が見られるようになります。どこに注視してよいのかわからなくなるという課題が出てきます。もちろん、教員は指差しや声かけによって注視物への視点移動を促しますが、如何せん刺激物が多く、なかなか注視物のみを選択するのが難しくなるのです。また、見ていると思っても、実際は対象物のすぐ近くのものに視線がフォーカスされていたりすることもあるのです。

 そこでカメラアプリを用いて、見るべき対象物のみを画面枠内に収めて注視を促すという方法を試行しています。デジタルテレビの画面をはじめ、設定された枠があるとそこへの注視力が高まるという主旨のブログを以前書かせていただきましたが、今回はその応用編とでも言うかもしれません。写真にあるように注視してほしい対象物にズームして、注視を促します。これにより、不必要な対象物に視線がひっかかる前に必要な対象物へ注視できる確率が高まるのではないだろうかと考えています。また、iPhoneの枠が見るべき対象を限定させる働きもあるかもしれません。これは、デジタルテレビで検討した時と同じ理屈です。

 実際に20名弱で行う学年の学習場面で、何度か試みていますが、画面を食い入るような様子が何度も確認され、提示されたものから考え、行動に移す芽生えの反応が見られました。まだ、実践数が数回なので確証は持てませんが、児童のためになる方法であるならば引き続き活用していこうと考えているところです。
 

 蛇足 自閉症等のお子さんのカメラ目線の写真がなかなか撮れないと、保護者の方から尋ねられることがあります。うちの学級で写真を撮る時は、いわゆる自撮。iPhoneやiPod touchなどを用いて、自分にカメラを向けて撮るという方法をしばしば用いています。これは、画面に映った自分の動きからダイレクトにリアクションが得られるため、お子さんたちが集中しやすいのではないかと考えられます。この応用としては、デジカメのレンズ横に手鏡などを付ける方法です。こうすることで今までよりカメラ目線で写真に写れるお子さんが増えました。特に一人で撮る時にはかなり有効かもしれません。あくまでうちの学級での話ですが。

 さらには、歯磨き時などには鏡のアプリなどで口元を見せてあげると、自分の動きが感覚からだけではなく、視覚からしっかり入力されるので動きの質が高まるかもしれませんし、私の担当しているお子さんたちには実際に有効に作用していると考えているところです。

郡司 竜平(ぐんじ りゅうへい)

北海道札幌養護学校 教諭
小学校支援級、通常級と担当させていただき、現在は札幌養護学校小学部にいます。ここでは、私が取り組んでいる特別支援教育におけるICTの活用について具体例を交えながらご紹介していけたらと考えています。

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