「個に応じた指導」とか、「その子の特性を生かした指導」とか「得意な能力を活用した指導」とか言いますが、じゃあ具体的にどうやって教科を教えていけばいいの?というところまでは、なかなか話が及ばないことがあります。
アセスメントの手法も、WISCのような客観的データに基づくものから、普段の様子を基にしたものまで数多くあります。なので、一概に「このタイプの子には、この指導法が有効だ!」と言いきれないのが実情だと思います。でも、実際にどう指導したらよいかというところが現場では切実な課題です。
また、本などに載っていたり、先輩の先生がやっている数多くの指導法から、その学習の型だけ真似して使ってみても、なかなか効果が表れないことがあります。教師側が、子どもに効果があるかどうかということに気づいていないと、型だけ子どもに押しつけるということになります。子どもを型にはめるだけの指導は避けたいところですね。これは、なぜこのやり方が、その子どもに有効かというところを教師が理解できていないためだと思われます。
そこで、今回と次回のつれづれでは、「個に応じた指導法」という視点で、「かけざん」の覚え方や理解の仕方をいくつか挙げてみたいと思います。量が多いので2回に分けさせてもらいますが、今回はあえてマニアック編、次回はノーマル編です。
私は特別支援学級の小集団の一斉授業では、これらのやり方を同じ時間内で組み合わせて行います。そうすれば、認知面での様々なタイプの子どもに対応できるからです。個別学習では、その子にとって有効なやり方をチョイスして行っています。
【1】ナンバースクエア
写真にある100マスのマス目のものです。
例えば「3の段」の学習の時は、「1からスタートして、1・2・3と数えて、3つ目のマス目を塗りましょう。それを100までやってみましょう。」と指示を出します。塗りつぶしたところは、実は3の段の答えとなっているわけです。
また、塗りつぶしていくと、ある一定の幾何学的模様が完成します。そこから、何か法則を見つけていく活動をすると、かけざんの特徴に気づいていくことができます。例えば、5の段の答えは下一桁が5か0のどちらかだ、4の段の答えの下一桁は偶数だ、など。
これは視角優位の子や、同時処理タイプの子、絵が得意な子などには有効です。
ちなみに最近、消すことのできるマーカーペンが販売されています。それを使うと、間違えたときに直すことも簡単にできますので、オススメです。
【2】数字の聞き取り
これは、教師が読み上げる数字を、ノートに順番に書いていくというものです。
(1)まず、教師が読み上げた数字をそのまま書く。教師は、だいたい2秒くらいの間隔で「2・・・4・・・7・・・3・・・」のように、数字を1個ずつ読み上げるようにします。ノートのマス目の数にもよりますが、だいたい1回で10個くらいの数字を読み上げるとよいでしょう。これはほとんどの子どもができるはずです。
(2)ここからが本番です。「3の段」の学習の時は、教師が言った数に3を足した数をノートに書くように指示します。教師が「6」と言ったら「9」を書くわけです。これを①と同じ手順で行います。
この活動を行うことで、子どもたちは頭の中で、3ずつ増えるという感覚をトレーニングすることができます。かけざんは○ずつ増えるという性質を持ったものですから、このトレーニングはかけざんの本質に迫るためにはとても役立ちます。
タイプとしては、聴覚優位な子、継次処理が強い子には特に有効だと思います。
また副次的な大きな効果としては、子どもたちが、教師の話を集中して聞けるようになります。落ち着きのないクラスなどで、教師の話に耳を傾けさせるには、とても効果的です。
【3】棒の交差
かけられる数の分だけ縦棒、かける数の分だけ横棒を書きます。お互いにクロスするように書きます。その交点の数が、そのかけざんの答えとなります。例えば、「2×3」では、縦棒2本、横棒3本で、交点の数は6個になります。とても簡単なやり方です。
これは、かけざん九九を覚えることが苦手な子への手助けとなります。覚えることに主眼を置くのではなくて、なんとかして答えを出すためのとっておきの手段です。
視覚優位な子、処理速度が高い子、一対一対応ができる子などには有効と思われます。
かけざん九九ができないと、その先の学習においても苦戦することが予想されます。かけざん九九を覚えることができなくても、復活できるような予防策を講じておくことが、小学校の早い段階の算数嫌いを防いでいけるでしょう。
増田 謙太郎(ますだ けんたろう)
東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。
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