今回のつれづれ日誌は、通常の学級の担任の先生からよくある質問について考えてみたいと思います。
特別支援教育は、通常の学級においてもだいぶ浸透してきています。「特別な支援が必要となる子どもに対して、その子に合った指導を行うのが大事。」ということは、ほぼどの先生も理解されています。
でも、「言うは易く行うは難し」。
実際に自分のクラスでという話になると、多くの難しさがあるようです。
例えば、漢字ドリルの宿題への個別の支援のケース。担任の先生から、こんな質問がありました。
「私のクラスでは、クラス全員に毎日、新出漢字を10回ずつ書いてくるようにさせています。でも、漢字を書くことが苦手なA君は、他の子と同じではなく、1個だけ書くようにさせてくださいと、専門家の先生からアドバイスをされました。」
でも、この先生は、すこし抵抗があるようです。
「Aくんだけ、そんな特別扱いでいいんですかね? そんなことしたら、他の子が『おかしい』と言ったり、A君に対して特別な目で見たりするようになると思うのですが・・・。それって、学級経営上、まずいんじゃないですか?」
クラスをまとめるためには、みんなが同じ方向を向いて、同じことをする。特別扱いは、偏見や差別の元となり、いじめにもつながるんじゃないか・・・・。そのようなことを気にする先生は多いようです。
クラス全員が同じ方向を向いて、課題に取り組んでいく。それはとても理解できますし、いじめを生み出さない学級経営を目指す先生の考えは尊重したいところです。
私は、このような相談を受けたとき、その先生が、うわべだけではなく、本当に納得した上で個別の特別な支援を行ってほしいと願っています。
「なぜ特別扱いが必要かというところが納得していただけないのでしょうか? では例え話ですが、先生のクラスでは、骨折した子も体育をやらせますか? もし、やらせたとしたら、もっと骨折の症状がひどくなりますよね。A君は、それに近いと考えて下さい。A君は10回書き取りをすることで、漢字に対する症状が悪化していきます。やる気すらなくなってしまうということです。でも、1回なら、悪化することはなく、本人が努力できる範囲内ではないかと思います。だから、もし、この1回書く宿題をちゃんとやってこなかったときは、他の子どもと同じように厳しく指導されて構いません。」
「もしかしたら、先生は他の子どもへの説明で困っているのでしょうか? では、例えばこう言うのはどうですか?『先生は、クラス全員がしっかり漢字が書けるようになってほしい。そのために、A君に合った良い方法を、考えてきたんだよ。もし、他にも、自分に合った良い方法を見つけてほしいと思っている人がいたら、あとで、こっそり先生の所に相談においで。』と。他の子どもにしっかり説明してあげてほしいと、私も思います。」
形だけの特別支援は、その子だけでなく、周りの子どもへの危険性もはらんでいます。
形だけとならないように、担任の先生がちゃんと疑問を解消できることが大事です。
最近、私がとても気になっているのは、特別支援教育の専門家が、対象となる子ども個人の支援だけを非常に狭い角度で見てしまいがちなアドバイスを送ることです。担任の先生が、どのような信念を持って学級経営を行っているか、そのことに寄り添えるようなアドバイスを送ってあげられるようにすることが求められていると思います。
増田 謙太郎(ますだ けんたろう)
東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。
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