2012.08.29
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「色」はどうして分かるの?

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

突然ですが、皆さん「赤い」という言葉から何を連想されますか。
60秒時間を差し上げますから、思いつく限りの言葉を近くの紙
に書き出してみてください。

(60秒経過したとします)


皆さんはいくつ書きだすこと(思いつくこと)ができましたか。

私は16個書きだすことができました。


食べ物に関して(トマト、イチゴ、リンゴ、パプリカ、トウガラシ)

事物に関して(消防署、ポスト、信号、国旗、血、赤鼻のトナカイ、赤十字)
イメージに関して(勇気、情熱、思想)です。

私のように分類しながら思いつく必要はありませんでした。

私以上に、ランダムに色々な言葉が頭に浮かんだ人が多くおられ
たことでしょうか。


実はこれは、ある調査の一部なのです。

ある中学生と同じ年齢期の生まれながらに視覚障害のある生徒(先天全盲児)に対して、上のような調査が行われました。

ある中学生の集団は平均6個程度の言葉が浮かんだそうです。
先天全盲児の集団は平均4個程度でした。

みなさんの中で「えっ??」と思われた方はいませんでしたか。

生まれながらにして見えない生徒が「赤い」という色を知っているの?
どうして「赤い」から連想する言葉が思いついたの?

私は、「赤い」という語からの連想語の数の多い少ないという結果よりも、
どうして先天全盲の生徒が「赤い」という色彩語についての知識があるのか、
とちょっと驚きました。「赤い」色を見ることはできないはずなのに。

私たちの世界は好むと好まざるとに関わらず「色彩」情報に囲まれています。
ですから、青眼者に限らず、視覚障害者(先天全盲)であっても、
「色彩」に関して避けて通れない環境に置かれています。
そうすると「色彩」についても、直接見ることはないとしても、
知識として獲得される必要があるようです。
日常で洋服の色やファッションを始め、
食べ物や車の色など様々な景観にも色を目にしないことはないですね。

「赤い」以外の色についても行われました。
また「リンゴ」などの事物から、逆に色彩を連想するような調査も並行して行われました。

結果は、青眼者の生徒の方が、先天全盲の生徒よりも連想する語彙が多い傾向となりました。
これは想定していたとおりでした。

青眼者の生徒の方が、実際に日ごろから色に触れた生活や体験をしてきているので、
「赤い」という色に限らず、色彩に関して連想する場面や事物などの言葉を多く知っているのは当然と言えるのです。

2番目に、連想された言葉の中で頻度が上位3に入った言葉が、連想語の全体に占める割合を調べました。
これを「連想語共有指数」というそうです。先天全盲の生徒が青眼者の生徒より指数が高くなりました。
先天全盲の生徒が、「赤い」などの色彩語に対して、バリエーションが少ないことが分かりました。

最後に「青い空」のように、「色彩語+事物」で構成されたような言葉を用いて、
「色彩語」からどのような印象を受けるかについて、10対の形容詞を使った5段階の評定の調査をしました。
詳細は省きます。
結論から言いますと、印象の傾向は、先天全盲の生徒と青眼者の生徒とほぼ同様となりました。

これら3種類の調査から、「色彩語」に関して、視覚障害の特性から、
知識と連想内容には、全天全盲の生徒には限界があるようだと分かりました。
しかし、「色彩語」からの印象には類似性がみられることが分かりました。


生まれながらにして「色彩」を見ることができないとしても、「色彩語」についての知識やそれからの連想および印象は獲得できるということです。

では、どのようにして「色彩語」が習得されるのでしょうか。
先天全盲児は、たとえば「赤い」という色を実際見ることはありません。
しかし、幼小の時から、他者との関わりの中で「色」に触れる体験があれば良いのです。
次のような場面に出会うことは少なくないかもしれません。

「このリンゴおいしいね。赤いリンゴがおいしかったね」
 

「痛かったね。血が出ているね。赤い血が出ているから、傷版テープ貼ろうか。」
 

「プランターに植えたトマトが赤くなっているよ。さあ、とって食べようね」
 

「ケーキの上に大きな赤いイチゴが乗っているよ、おいしそう。」


これに似たような事物と「色彩」とその印象に関するものを含んだ会話や豊かな関わりによって、
無意識に耳から獲得されるようです。

この調査から、「色彩」に関して、幼い時期から楽しい経験をできるだけ多く積むことが必要だ確認できました。
視覚障害者に関わる指導者や保護者も含めて、
適切な認識を持って関わることが大事だそうです。
ただ、注意した方がいいのは、授業などで「色彩」に関する学習をするのではなく、
できるだけ生活の中で「体験」したものであることが大切だそうです。

夏休みが終盤を迎えております。
視覚障害には、「色彩」に限りませんが、できるだけ豊かで充実した「しくまれた」体験の必要性を再確認しました。

(注:今回紹介させていただいた内容は、夏季参加させていただいた講習会の内容を岩本のフィルターを通して咀嚼し匙加減を加えて調理し直したものであることをお断りさせていただきます。)

追伸:なお色を読み上げてくれる「カラートーク」という器械が
あります。(http://www.hokkei.co.jp/c_1.html

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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