2012.08.01
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聴覚の刺激で頭の回転が速くなる?-DAISY録音図書について―

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

前回までは「点字とその触読」について触れてきました。
今回は、耳からの情報を得ることで、「DAISY録音図書」について一緒に考えてみたいと思います。

読書が大好きなA君やBさんは、最初の頃は点字で読書をしていました。しかし、点字を読むのに、墨字の場合よりも時間がかかるの(前回触れましたが、約3倍青眼者より時間がかかる)と、触読に集中できる時間も限られること(個人差があるようですが、生徒に直接尋ねると20~30分の継続が限界で、休憩が必要になってくるとのこと)と、点字にするとページ数が多くなり、持ち運びにも不便を感じることなどから、最近はDAISY録音図書を利用する機会が増えてきたようです。

1冊の本が点字やDAISY録音図書では、どのような違いがあるのか、点字図書館の蔵書の検索で調べてみました。たとえば村上春樹の『1Q84(1)』は、点字図書では、両面点字印刷 B5 32文字×18行で1256ページとなり10巻になります。これに対して、DAISY録音図書では、容量が251.4Mbで、時間は18時間4分で MP3で作られていることがわかりました。ちなみに墨字である単行本では554ページとなっていました。
[参考:サピエ図書館(https://www.sapie.or.jp/)]

さて、生徒は    DAISY録音図書をどのように使っているのでしょうか。たとえば上の『1Q84(1)』について考えてみます。朗読録音所要時間が18時間4分となっています。毎日1時間を聴く計画を立てれば、18日間かかります。興が乗って1日2~3時間聴くことに使えば、もっと少ない日数で聴き終えることができます。

A君やBさんの聴き方は、まず、平日毎日コツコツ聴くというよりは、土日や休日祭日を利用して、まとめて聴くことが多いようです。聴く速度は、倍速や3倍速機能を利用して聴いているようです。DAISY録音図書を聴くプレイヤーに、速度を調整できる部分があるのです。話の最初の内は登場人物や展開について、話の土台部分に慣れ、きちんと把握するために、等倍の速さで聴いています。ある程度話の展開や登場人物についてのイメージが頭の中に出来上がってくるようになると、聴く速度を速めるようです。
最初からある程度倍速で聴く場合もあるようでが、途中から倍速または3倍速にすることが多いようです。今日中に読書をし終えようなど時間の制約がある場合は、速く聴いたりするようです。スピードを上げると、筋を掴む程度の読書で終わってしまい、じっくり本の内容を味わうところまではいかないこともあるようです。
私が羨ましいと思うのは、最近老眼が入ってきたので、目で文字を追って読む行為よりは、耳からの文字速度をある程度自由に変えることができることです。ただ、朗読の速度を速めることで、声のピッチなども変わり、聴きにくいこともあるようです。また「耳」に集中力が必要とされるので精神的に疲れる読書(聴書?)ともなるようです。


さて、上で何度か用いてきましたが、DAISYというのはDigital Accessible Information SYstemの略で、「アクセシブルな情報システム」と訳されています。

視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためにカセットに代わるデジタル録音図書の国際標準規格として、50カ国以上の会員団体で構成するデイジーコンソーシアム(本部スイス)により開発と維持が行なわれている情報システムを表しています。

DAISYコンソーシアム公認のオーサリングツールを使ってデジタル図書を作ることができ、専用の機械やパソコンにソフトウェアをインストールして再生をすることができます。国内では、点字図書館や一部の公共図書館、ボランティアグループなどでDAISY録音図書が製作され、主な記録媒体であるCD-ROMによって貸し出されています。
(参考:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会のHPより「DAISYとは」)

DAISY録音図書の特徴としては、
(1)目次から読みたい章や節、任意のページに飛ぶことができます。
(2)MP3などの最新の圧縮技術で一枚のCDに50時間以上も収録が可能です。
なども上のサイトに紹介されています。

目次から読みたい章や節、または任意のページに飛ぶことができるように、大変細かくトラックが作られており、途中から聴いたり、戻って読み直したりする操作について利便性が良くなっています。
また、1枚のCDには50時間以上の分量が収録可能になっているので、ハリーポッターシリーズや村上春樹の1Q84なども1枚または数枚のCDに収まる。点字図書だと10巻を超えるのと比較すると、持ち運びでもコンパクトとなります。


話は前後しますが、聴く速度と学習または学力について、最近次の書籍に出会いました。
『聴覚刺激で頭の回転が驚くほど速くなる』(田中孝顕著 きこ書房)です。
簡単に言えば、聴くこと、聴く速度を速くすることなど、速聴による刺激や訓練を取り入れることで、頭の回転が速くなることを説明しています。
この本の中で、「ウェルニッケ中枢」が頭の回転に関係すると指摘しています。そして、速聴の刺激や訓練により、この「ウェルニッケ中枢」を鍛えられ、脳の関連する部位も連動して強化され、反応が速くなることも記しています。「メカニズムは解明されていないが、“すでに知っている”内容を4倍速で数回聴くと長期記憶として刻印される」と記述が印象に残りました。4倍速までは無理でも、倍速や3倍速または1.5倍速でも何か効果が期待できるのではないかと思います。
私はA君やBさんが、無意識のうちに、DAISY録音図書のデータで読書のスピードを上げることで、脳内の活性化に役立っているのではないかと仮説を考えています。DAISY録音図書が、視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためにカセットに代わるデジタル録音図書に終始するだけなく、また別の新たな付加価値が付くことも願っています。

1学期は終わりましたが、2学期からDAISY教材を用いて〈速さ〉を意識して英語の学習の実践を行って見ることができないかと考えています。
教科書の本文や英語に関わる英語素材をDAISY録音教材に加工して、できれば1.5倍速や2倍速と段階を追ってスピードを上げていくことと、理解度習熟度定着度について変化を較べることができないだろうかと思っています。DAISY録音教材を用いて、生徒一人ひとりが英語学習に対して好奇心や面白さを感じるようになり、やる気が出てくることになれば良いのですが。

猛暑に覆われている日本列島、ロンドンでの日本人選手の活躍に睡眠不足気味の日本列島、富山ではとやま世界こども舞台芸術祭と、北信越かがやき総体、そして全国高総文祭とやま2012とイベント目白押しに暑く燃えています。
暑さ対策にはくれぐれもお気をつけ下さい。失礼します。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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