2012.07.18
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点字の読解力とは(2)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

前回に引き続き「点字の読解について」考えてみます。

wpmってご存知でしょうか。
[1分あたりの単語数]を意味しています。‘words per minute'を省略した言葉です。たとえば100wpmと言うと、1分間に単語を100語読むスピードです。英語でもリーディング能力を測る時にもよく使います。

藤泰正・塙和明(1982)の「盲児の点字触読速度に関する発達的研究(1)」によると、中学3年までの限定調査研究ではありますが、
小学校低学年段階で、点字触読速度が急速に発達し、それ以降、次第にその伸長が緩慢になることを指摘しています。また晴眼児との比較では、約3.2~3.4倍の時間を必要とすることも指摘しています。


このことは、私たちがテストなどを作成する場合、テストの分量は、青眼者の場合のおよそ3分の1くらいの分量を目安にすべきであることが分かります。そうすると私がいつもこんな少しの分量で物足りないなあと感じていたことが、間違っていなかったのだと確認できました。
 

同じ論文の中で、Mommers(1976)は点字触読のために必要な技能は少なくとも15歳までは発達し続けると紹介しています。そして、中学3年段階が点字触読の発達の一応の区切りであると考えられると推測しています。中学部の生徒も担当しているので、少し気を引き締めて授業の中で、色々と英語の触読を試みなければならないと感じています。高等部以降の生徒については研究事例がないようです。

青木和子(1997)は「視覚障害者の英語学力と読速度」で、調査対象とした学生の読速度全体平均が65.4wpmであることを紹介しています。調査対象を学力で3のグループに分けています。学力上位グループの読速度平均が98.5wpmで、下位グループのそれが50.6wpmより、学力と読速度との相関があることも指摘しています。視覚障害者の目標とするのは90~100wpmでないかと述べています。

この数字は、私にとっても参考になると考えられます。読速度を高めるための訓練法としては、視認語(sight word)を増やすことを提案しています。点字においては、視認語に相当する一度の指の動きで読み取れる語がかぎられ、また必要な箇所に戻るという作業にも時間がかかることを紹介しています。

『けむしろの部屋別館(楽天blog)』[2006年04月06日作成]では、点字の触読がそれほど早くない被験者で1分あたり60文字程度、非常に習熟している被験者で1分あたり260文字程度の例を木塚泰弘(2011)の「中途視覚障害者の触読効率を向上させるための総合的点字学習システムの開発」から採用したものを紹介しています。このブログの中には、また点字以外に晴眼者の文章の読解速度を測定するサイトを2つ紹介しています。

1つは「あなたの読書速度を測定します!(日本速脳速読教会福岡教室)」もう一つは、読書速度の測定(kentei.com)です。ブログを書いた人は自分が600~700wpmであることをブログの中で報告しています。点字に習熟した人との比較では約2.5倍遅く、点字に慣れていない人だと約10倍も遅くなるのではないかと指摘しています。大雑把ですが点字で読むスピードと私たちの読書のスピードとは、大きな違いがあることが分かるかと思います。

この3つの研究では、1つが英語に関して、あとの2つは日本語での点字触読についてでした。少々堅い話になったかもしれませんが、数値が紹介されているので具体的になり、今後の一つの目標や目安にしやすいものとなるのではないかと思います。

私は個人的に忘れてはならないことは、レディネス(動機、やる気)ではないかと思っています。指導者がいくら方策を尽くしても、本人がその気になっていなければ、効果が期待できないのです。これは点字指導に限らず教育のあらゆる場面で、非常に難しい問題です。私なりに触読の練習を継続している例を、これからも少し紹介してみることができればと思います。

なお、点字による読書では時間がかかりすぎることを改善する方法として、デージー図書またはオーディオブックが最近非常に脚光を浴びてきています。このことについても考えてみたいと考えています。


追伸:大津市の事件の進展を見守りつつ、「経験ない大雨」等記録的豪雨に遭われた方々には心よりお見舞い申し上げます。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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