期末考査が始まりました。
この原稿が読まれる頃は
期末考査が終了していることでしょう。
一人の先生が採点を終えたようです。
少し残念そうな様子です。
どうしたのかとお話を伺いました。
すると
A君の成績が芳しくなかったようです。
期待したほど点字で英語を読みとることが
出来なかったようです。
私は状況がこれだけではよく呑み込めなかったので少し突っ込んでお尋ねしました。
「点字の読み取りが遅かった」と判断されたのは何を理由にですかと聞いてみました。
「遅い」とB先生が言われたのは次の理由でした。
中間考査と同じほどの分量(内容は異なるが)の点字で英語の問題を出題したようです。しかし、テストを制限時間内で終えることが出来なかったようです。
最後まで読み切れず、未解答のまま問題を残したのです。
さらに、採点した点数も中間考査よりは低くなったとのことです。つまり、解答した問題の正答率もパッとしなかったようです。
B先生は、授業では順調に点字学習を積み重ねてきたはずなので、当然中間考査よりも向上した結果を期待したようです。
私たちは、上の例に限りませんが、生徒の成績や学習状況を話題にし、様々な生徒の日常の変化も含めて広く情報交換して生徒理解を深めることをできるだけ、日常的にするように心がけています。
このような一見簡単なことも、実は現在の教育現場では非常に成立しにくいほど、多忙感で覆い尽くされてきています(このことについては別の機会に触れることがあればいいのかも)。
さて、今回、私はあえてB先生にちょっと執拗なくらいに問答を続けてみました。
どうしてかと言うと、B先生が判断された生徒評価が客観的に正しいことなのか、それともB先生の個人的な主観なのか長年の経験知によるのかどうかに興味を持ったからです。
それで、私は、「点字の読む速さと言うのは、A4サイズ1枚を大体どの位の時間で読み切ると良いのですか」
すると、B先生は、「内容や文字数や行間の詰まり具合によって一概に言えないが、大体5分から7分位で読めると良いかも」と話して下さいました。
今回、A君の点字を読むのが「遅い」のではないかと心配されたB先生は、A4サイズ1枚を読む速度のことを念頭において話されたのではありませんでした。
単純に中間考査の時と比較されて、心配しておられただけでした。
私は、基準とされた中間考査の結果自体にもともと信頼性があるのかどうかについて話をしてみたくなりました。またA君の性格的な部分と学習意欲についても意見を交わしてみたくなりました。
たとえば、次のようなことは考えられないでしょうか。
中間考査の時は、確かにA君は頑張って勉強し、点字の英語の練習に時間を十分かけたので、時間内に多くの英文を点字で読み切ったし成績も良かった。
しかし、期末は中間で成績が良かったので、それほど頑張らなくても、総合的に評価は悪くならない程度に、(ちょっと打算を働かせ)手を抜いたのではないだろうか。だから、点字の読み取りの向上性云々とは関係があまりないのではないかということ。
また、期末考査近くに様々行事(弁論大会、北信越フロアーバレーボール大会)があり、A君はそちらにもエネルギーを少し削ぎ取られてしまって、勉強時間が取れないまま考査を迎えたのではないか。
そもそも、B先生は今回の期末をA君の点字の読み取り速度の向上か否かと位置付けていたようですが、A君当人には全くB先生の意図したことが事前に知らされていた訳でもないのではないか。
A君に、点字の向上を意識した考査であるという認識もなかったのではないだろうか。
私は、B先生ともう少し突っ込んで話を伺いたいと思いました。それは、次の3点でした。
1)点字読解力向上のために、平素の授業や課題で、どのような取り組みをおこなってきているのか。
2)この授業の取り組みを、適切に評価するために、どのような考査の出題をおこなったのか。
3)考査をA君が受けるに当たって、また目標としたことが達成されるために、どのようにテスト勉強することを求めていたのか。
この3点を踏まえて、A君の英語点字の読解力について向上したか否か等を分析評価判断することができるのではないかと考えています。
ですから、ときたま他の先生方の会話で「Cさんは中間が60点で期末が75点で頑張った、向上した」といったような内容を耳にしたりします。
私は、「どのような目標や計画のもとで、どんな指導を日々して、どのような内容の考査を行い、またCさんがどのようにテスト勉強をして、その結果がどうであったのか」という一連の流れを踏まえた話が、お互いにできるようになったらいいのにと思っています。
テストの点数のような数字だけが一人歩きするような会話はできれば避けたいものです。
幸い私は、英語をはじめ点字指導についてB先生に色々と話を伺う機会があります。そしてまだまだ未熟な私をいつも温かく包みこむように諭して下さることもあります。ほんの少しずつでも、B先生の経験知を徒弟制度ではありませんが、分けていただき吸収していくように心がけたいと考えております。
さて、今回は、点字の読解力向上についてから、生徒の評価について話が変わってきました。
英語点字の読解の課題や問題点については次回また一緒に考えてみたいと思います。
それでは失礼いたします。
岩本 昌明(いわもと まさあき)
富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。
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