先日、横断歩道で赤信号待ちをしていたら、ティーンエイジャーと思われる女性が、自転車に二人乗りで現れました。話の都合上、二人乗りの道徳上の是非(非に決まってますが)は、とりあえず横に置いておきます。
さてこの二人、どうやら、だれかとどこかで待ち合わせしているみたいです。
自転車後部に座っていた女性は、早く待ち合わせ場所に行きたかったようです。彼女が言いました。
「信号守るのと、約束守るの、どっちが大事なんだよ!」
話は変わりまして、ハーバード大学のマイケルサンデル教授による「ハーバード白熱教室」という番組が昨年話題になりました。この番組の第一回目は「人間の命の重み」についての講義の様子でした。
「きみは、今、ブレーキの壊れている路面電車の運転手だとしよう。このまま進めば、線路の上で作業をしている5人の作業員を殺してしまう。けれど、前方に待避用の線路が見えた。退避線に曲がることもできる。ここには1名の作業員がいる。君だったら、まっすぐ進んで5名の作業員の命を奪うか?。それとも待避線に入って1名の命を奪うか?」
5人の命と1人の命、どちらが大切か。道徳的、倫理的な問題です。究極の選択を迫られますね。
道徳的な価値は違うけれど、先ほどの自転車二人乗りの話も、彼女たちの中では、究極の選択です。
私たちは常に程度の差こそあれ、道徳的な問題も含めた選択を日々しているということですね。
そう考えていくと、学校で行われる道徳の授業を、実生活でのよりよい選択に結び付けていくためにはどうしたらよいのでしょうか?
私は長年、特別支援学級の担任をしていますが、特別支援学級の道徳の授業というのは、本当に難しいです。
特別支援学級の子どもたちは言語の力に課題が見られます。だから、言語から想像する力が弱くなり、通常の学級の道徳の教科書に出てくるようなお話の教材では、なかなか子どもたちが理解を深めていくことが難しいです。だから、生活のその場その場で対応していったり、事件が発生した瞬間にその事例をとりあげていくというやり方がベストと言われています。
でも、現場の悩みとして、授業として「道徳」をやっていかなければならない。東京都では、道徳の授業公開なんてのもありますし。
そういうわけで、特別支援学級の道徳の授業に困っている先生も多いんじゃないでしょうかね。私もその一人です。
ちなみに質問の仕方の技法に、オープンクエスチョンと、クローズドクエスチョンというものがあるそうです。
オープンクエスチョンは、いろいろな答えができる質問。「理由」を聞くことなんかがそうですね。クローズドクエスチョンは、イエスかノー、あるいは二者択一の質問です。
特別支援学級でも「いいこと悪いこと」という選択、「どちらの方がよいか」という選択が的確にできるように子どもの力をつけていくという視点で授業を展開していくことが必要かもしれません。その技法として、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンが有効活用できるかも。
増田 謙太郎(ますだ けんたろう)
東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。
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