2012.06.14
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「命の過去・未来」と題した授業

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

 先日、「命の過去・未来」と題した授業をしました。

 

今年度、年間を通して、「命」との関わりを考えながら様々な授業を行っていこうと思っています。

 

福山雅治の 「生きてる生きてく」 (ドラえもんの映画のテーマでした)を題材にした授業です。

前にも紹介したように、この曲は、命のつながりについて、分かりやすい言葉で書かれています。

それに、ドラえもんの映画で使っていたということもあり、子どもの関心度は非常に高いものです。

まず、歌を聴かせ、その後に歌詞を見せながら聴かせました。

そして、命のつながりについて具体的に考えていきました。

 

命に関わる授業などは、どうしても内容が漠然としてしまい、子どもが深く学べないということがよくあります。

「命を大切に」ということは、理解しているのだけれど、実感を伴った理解に至っていなかったりということです。

こういう授業の時に私はできるだけ「数値」を用いるようにしています。

 

「アフリカでは、たくさんの子どもが死んでいます。」 → (漠然としている)

ではなく

「アフリカのシエラレオネという国では、生まれた子どものうち約30%が5歳になるまでになくなり、2000年時点の平均寿命は40歳以下だった。」 → (数値を用い、実感できるようにしている)

というようにします。

 

今回の授業では、先祖の数に注目しました。

自分の血がつながっている人の数です。

福山雅治の歌では、「100年1000年前の人から受けついだ遺伝子」ということが書いてあります。

1000年だと数値が大きくなりすぎてしまうので、500年前(豊臣秀吉や織田信長の時代の少し前)まで、さかのぼって自分の先祖の数について、想像させました。

子ども達の予想は、少ない子どもで150-200人位、多い人で1000人、最も多い子どもで8000人でした。

計算すると分かるのですが、答えは、「約100万人」です。

子どもは「えー!?」と非常に驚きます。

こういった数値を使った子どもへの揺さぶりは、次の自分の考えを深める際にとても役立ちます。

 

授業の進め方には色々なやり方があります。

今書いたように、子どもに予想をさせ、それを裏切るという方法で子どもの興味を引くことは効果的な方法です。

今回の授業ですと、「500年さかのぼるだけで、自分の血のつながっている人が100万人もいる。」という事実で子どもの心情に変化が生じます。

驚きがあり、そこから疑問も生じます。

自らの思いで色々なことを考え出します。

こういったことなしに、教科書的に道徳などの授業を行っていくと、子どもは賢いので、一般的な正解「命は大切にした方が良い。」「友だちは大切に。」などを出すことで落ち着いてしまう可能性が大きいです。

こういった回答は、ほとんど頭を使うことなく、答えることができます。

もちろん、間違えではありませんが、あまり子どもの心に深く残るものではないと私は思っています。

 

子どもの心に刺激をあたえ、ゆさぶり、問題を自分のこととして捉えられるように教師が課題設定を工夫することが大事です。

的確な課題を設定すると子ども自身で動き出します。

 

・この500年だけで自分の祖先が100万人もいる

・100万人のうち、誰か一人でもかけていたら、今の自分は存在しなかった

・50万組のカップルが出会わなかったら、今の自分は存在しなかった

 

こういった事実を伝えていくことで、子どもは表情が変わってきます。

自分という存在が、貴重な存在であり、様々な奇跡の上に成り立っているものなのだということです。

多くの祖先の思いを受けついで、今の自分があります。

その思いとは、

・丈夫な人でいて欲しい

・賢い人でいて欲しい

・優しい人でいて欲しい

・人の役に立つ人でいて欲しい

などです。

これは、親が子どもに対して思うことと同様です。

非常にたくさんの人の自分を思う気持ちの上に今の自分が成り立っているということを知ります。

自己存在を肯定させていくことでもあります。

 

様々な事情で、自分の存在を肯定できていない子どももいます。

「どうせ自分なんて・・・。」

そういった子どもは、よくそんなセリフを言います。

そういった子どもに、今の自分は多くの人の温かい思いの上に存在していることを伝えていくことで、少しですが心に変化が生じることもあります。

一回の授業ですべてが変わるわけではないですが、子どもの心を柔らかいものにし、豊かなものにしていくには、こういった授業を繰り返していくしかないと思っています。

 

授業の最後には、「あなたは、どんなふうに生きていきますか?」という題でまとめの文章を書いて終わりにしました。

少し子どもの書いた文を紹介します。

 

「命がずっと絶えないで、ずっとずっと人がはかりしれないくらい後まで続いてくれることを願っています。そして、私が子どもを産んで、ちゃんと先祖にほめてもらいたいです。命をつなぐことがとてもとてもいいことだというのを知りました。」

「私の先祖、遺伝子に感謝しています。今、私が地球にいるということは、たくさんの先祖がいるということです。私はそれを受け継ぎ、大人になったら結婚して、子どもを産みたいです。」

「一番印象に残ったのは『つながり』です。自分と血のつながっている人がこんなにたくさんいるということを知りました。私も未来のだれかの先祖になりたいです。それなので、大人になるまで交通事故などにあわないようがんばりたいです。」

「ぼくは、想像を絶する少ない確率で生まれてきたということをほこりに思います。生きるということは、軽いことではないということが分かりました。」

「過去の人のくれた命を大切にしていきたいです。苦しみや悲しみなど色々なつらいことがこれからあると思うけれど、ちゃんと考えて生きていきたいです。」

 

子どもは、大人が思っている以上に色々なことを考えています。

子どもの文からこちらが色々なことを考えさせられます。

 

授業の後、子どもの感想を読みながら感じたことは、今回の授業は、「結婚観、子ども観によい影響を与える。」ということです。

近年、日本は、結婚をしない人や子どもを作らない人もいます。

勿論、個人の意思は尊重すべきものなのだと思いますが、それとは少し違った次元で、少子化などへの対策をしていくことはとても大事なのだと思います。

経済的な優遇などの施策がなされていますが、効果が十分上がっているとは言えないようです。

学校教育には、大きな可能性があるように思います。

今回の授業にように、子どもが結婚や出産、子育てに対してよいイメージを持つような授業を行っていくことで、状況に変化が出てくるかもしれません。

今、私が接している子ども達が、結婚、出産となっていくのは、10年より先です。

どんな状況になっているのか楽しみです。

 

 

今回の授業で使ったパワーポイントの資料が私のHPにあります。

興味のある方はご覧ください。 

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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