2012.05.23
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テストから考えること

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

中学や高等学校では中間考査の時期でしょうか。

ちょっと堅いかもしれませんが、次の引用を紹介させて頂きます。

特別支援学校では、幼稚園、小学校、中学校、高等学校に準ずる教育を行うとともに、障害に基づく種々の困難を改善・克服するために、「自立活動」という特別の指導領域が設けられています。また、子どもの障害の状態等に応じた弾力的な教育課程が編成できるようになっています。
(参考:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/005.htm

この引用の中の「準じる」という言葉は、「同様な」という意味で用いられています。

教育課程上の課題等については、別の機会に譲りたいと思います。ここでは、支援学校でも全日制や義務制と(基本的に)同様の教育が行われていることを確認させていただきます。

テストの時期が近づくと、不思議と体調を崩す生徒が見られるようになってきました。
A君は、「昨日よく眠れなかった」と授業中に正直に訴えてくれます。4月からほぼ皆勤だった、Bさんは試験期間先週から欠席がちになりました。

「テストがある」というだけで、不安になり、体調を崩してしまったようです。他にもいくつも理由が考えられるかもしれません。基本的には自信のなさから来ることが多いかもしれません。たとえば、テスト慣れしていないこと。テストに関して中学や小学校時代の何かマイナスのイメージが思い起こされること。低い点数を取って叱られたとか。クラスの中でバカにされたとか。兄弟と比較されたとか。テストで良い点数を取る自信がないなどでしょうか。私などは、全くプレッシャーをかけることはないのですが。少しでも自己成功感、自己成就感、自己達成感などを、テストをきっかけに持てるように願っています。

私は、少しでも生徒らの「テストへの負荷」を和らげようと考えています。もちろん「負担」からいつも遠ざかることばかりではいけないことも分かっています。少しずつ、「テストを受けることでのプレッシャー」に慣れる工夫を考えています。

私の行っていることは、もしかしたら全日制や義務制の方からは叱責を受ける部分もあることかもしれません。しかし、少しでも、テストというものへの重圧を軽減するために、そしてテスト勉強に取り組み易くするために心がけている一つの試みなのだと寛容であっていただければ幸いです。

1.まず、「テストはどうして行うのか」について、私なりの思いや考えを毎回伝えるようにしています。具体的には、生徒一人ひとりの理解度をみることと、同時に先生の教え方を振り返る機会でもあること。は話します。

2.つぎに、テスト範囲は、生徒と一緒に話し合って決めています。具体的に言うと、P30-P40までからテストにしたいと思っても、生徒らにその範囲の勉強が終えられる自信があるか問いかけます。ある時は、生徒からもう少しページ数を減らしてもらえないかとお願いされることもあります。生徒に妥協するのは良くないのではないかと思われる方もいるでしょう。でも心配はいりません。それだけ頑張ってくれることが多いのです。
逆にもう少し範囲が多くても良いよと言ってくれることもあります。これは試験の教科数や日程や本人の意欲などで、変更の余地を残しているのです。ただ、生徒の言われるままにする訳ではありません。最低限こちらも問いたいことがありますので、生徒と私との話し合いは、丁々発止となることもあります。これを私は密かにディベートもどきとして楽しんでいるのです。

3.できるだけ1週間前には、テストが出来ているように心がけています。そして、家庭学習用と称して、試験に出題する内容のプリントを配布します。生徒は最低限、このプリントを勉強してくれば良いようにしています。この種の取り組みは、ややもすると生徒が受身になりがちなことです。先生からもらうプリントさえやっておけばいいかなという安易な方法に走らないようにこちらが気を付けなければなりません。これに限りませんが、生徒のためをと思ったことが、逆の結果を招かないように気をつけたいものです。少しずつ、プリント以外に出題する割合を増やして、テスト範囲を自分で勉強する習慣もつけるようにしなくてはなりません。これは課題です。

4.全盲や弱視の生徒には、点字または拡大ポイントの墨字でのテストになります。私は、口頭での解答ができるように解答方法にも工夫をしています。英語の場合は、できるだけ発音とスペルの関係に親しむことも求められています。ですから書けるように要求することは大切で必要なことであると考えています。一方コミュニケーションの観点からは、話せたり聞けることに重点を置くことも必要な場合もあります。私はリスニングや、次の日本語を英語で言いなさいや、これから読む英文を日本語に直しなさいなど口頭で解答することも入れるようにしています。ただ、口頭だと言った言わなかったと公正さに疑義が出てこないようにするところが課題です。できるだけ試験中に本人に正誤や結果を伝えるようにしています。

5.最後に学期末の評価は考査の点数だけで決まるのではなく、平素の出席具合や課題など提出物、そして授業中の取り組みなど総合して100点満点で評価するということを伝え、理解してもらうようにしています。

私は、テスト勉強にできるだけ時間をかける習慣を付けてもらいたい。そして取り組みの時間や努力した分が、テストの結果に少しでも反映することを体験してもらいたい。そしてやればできるようになるのだという達成感と自信につながることを願っています。できれば「英語が分かって楽しいなあ」と言ってもらえることを期待しているのですが、こればかりは、現実にはなかなか難しいようです。(笑)

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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