2012.03.07
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子どもが歩かなくなった2 ~学校を総合ヘルスセンターに~

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

前回話題にした東京都の子どもの歩数の調査(概要)に次のように書かれています。

 

・全学年共に、休日の平均歩数は、平日よりも分布が広がっている。このため運動しない児童・生徒にとって、学校生活は身体活動量の確保に貢献している。

 

学校が子どもの身体活動量の確保に大きな役割を果たしているということです。

私はいくつかの学会や研究会などで、子どもの身体活動量などと関連して、「学校の総合ヘルスセンター化」という考えを述べています。

(詳しくは私のHPにあるデータを参照してください。)

 

子どもが運動、健康などに接する機関はいくつかあります。

学校がそうですし、他にも、スポーツクラブ、病院などがあります。

 

前回も書いた休日に一日90000歩も歩いていたという子どもは、何かのスポーツクラブに属し、試合や練習などを行っていたと思われます。

そういったスポーツクラブの特徴は、健康や運動に関心の高い人が多く、自らの意志で来ていることが多いことです。

そして、個への対応に優れ、質の高い運動指導ができます。

 

病院の特徴は、健康や運動にトラブルを抱えている人が多く、自らの意志ではなく、しょうがなく来ていることが多いことです。

検査による科学的なアプローチや薬物療法を行うことなどができます。

 

最後に学校についてです。(小中学校をイメージしています。)

学校は、本人の意思とは関係なく、全ての子どもが来ており、そこで運動指導ができます。

体育の時間や休み時間など、定期的に継続的に運動指導ができます。

二極化の下位層(運動能力が低い、運動嫌いなど)に対し、効果的な運動指導ができます。

小学校では6年間、中学校では3年間など、長期的な視点で取り組めます。

定期的に身体測定を行っているため身長体重などのデータがすでにあります。

大よその家庭の状況を知っているということもあります。

 

こういった学校の特徴を生かし、今まで以上に学校を子どもの体を育てる部分にエネルギーをかけた機関にしていくのです。

学校を、保健所、病院、スポーツクラブなどと連携し、質の高い運動指導をする場へと変えていくのです。

残念ながら、現在の小学校での体育の授業は、質の高いものとは言えません。

あまり運動好きではない担任もおり、そういった先生が教える体育の授業が質の高いものになるとは思えません。

 

そこでポイントになるのが「予算」です。

お金をかけて、学校を変えていくことを考えています。

小学校段階で、運動に親しむことができれば、生涯の生活の質に影響を与えます。

今、社会で問題になっている社会保障の問題にも関わります。

将来的な医療費の削減にもつながります。

現在、世の中全体でかかっている医療費のほんのわずかでも義務教育学校における健康教育に充てることができたら大きな効果を上げることができると思います。

そして、子どもを取り巻く状況が変わっていく可能性があります。

 

お金をかけずに学校が工夫をしたりすることで、やれるのではないかという考えがあります。

しかし、これには私は反対です。

なぜ、お金をかける必要があるかというと、お金をかけることで、人やものが確保できます。

 

今の学校は、社会からの要請で、「あれもこれも」と求められています。

まずは、基礎学力をつけて欲しい。

応用の力も欲しい。

さらに、体力、国際感覚、英語、安全教育、コミュニケーション能力、食育、郷土を愛する心・・・・。

 

学校は、何かを求められると断りにくい組織です。

だから、あれもこれもやろうとします。

人材や施設は、それまでのままで、新たに色々なことをしようとします。

その結果、中途半端になることが多いです。

現在の学校における様々な問題の一部もこのようなことから起こっていると言えます。

 

しかし、新しいことをする際に、ちゃんとお金をかけ、それに見合った人材や施設を確保してから行っていくのであれば話は違ってきます。

はじめに書いた「総合ヘルスセンター」にしても、週に一回など定期的に医師や看護師、健康運動指導士、エアロビインストラクターなどの専門家が学校に来るシステムにするのです。

そういった専門家がいる機関とも連携を密にして、子どもの健康をより良いものにしていくのです。

随分、学校での子どもの様子が変わるのではないかと予想されます。

 

今、日本は世界の中でも長寿国だと言われています。

しかし、それは、今のお年寄りが長生きしているからだと思われます。

今のお年寄りが子どもだった頃は、今よりも食生活が油の多いものではなかったでしょうし、生活自体が体を動かすことの多いシステムだったはずです。

今後、今の子どもがお年寄りになる頃は、長寿国と言われる今と同じではないでしょう。

欧米型の油の多い、肉中心の食事をし、運動をあまりしない生活をしていった結果、生活習慣病を中心に様々な病気が多くなり、平均寿命も今より相当短くなるのではないかと思います。

 

学校の教育に大きな可能性があると思います。

日本の今後の暮らしを良いものとしていくためにも、「学校の総合ヘルスセンター化」を進めていくべきだと考えています。

今、世の中で課題となっている社会保障システムの変更などに、私が主張する「学校の総合ヘルスセンター化」も加えられて議論されたらと思っています。

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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