日本は天然資源に恵まれず、戦後、原材料を輸入・加工し、輸出していくことで発展を遂げてきました。それらを支えてきたものが科学技術であり、「ものづくり」でした。しかし、様々な専門家が指摘しているように、近年、大学生を含めた子どもの学力の低下、特に理数力の低下などが大きな社会問題となってきています。また、OECD(経済協力開発機構)におけるPISA調査(Programme for International Student Assessment)によると、これらは単に学校教育だけの問題ではなく、社会全体の問題であり、国として繁栄に関わる重要な問題を含んでいるとされています。
今回の小学校4年生の理科「電気の働き」において、「競争的学習を用いて、子どもが問題解決能力などを伸ばすこと」を目的として実践に取り組みました。子どもに自然科学に関心を持ち、将来の仕事を含めた生活に何らかの形で生かしていって欲しいという願いをもっての授業です。
「競争的学習」とは、アメリカを中心に研究されている協同学習の一部です。協同学習の教授モデルに、「生徒チーム学習法」があり、その中に「チーム・ゲーム競争」があります。「競争的学習」は、その「チーム・ゲーム競争」に似たものです。
具体的な流れは、以下の通りです。
(1)流れ
○既習の内容を利用し、レースカーを作る。
カーレースのルールを確認する。
○第1回カーレース
○第2回カーレース
○第3回カーレース(ボディの主要パーツを使わず、ボディを自作するというルール)
(2)子どもの様子
・大会は、教室の床で、廊下側の壁から窓側の壁まで約5mでタイムを争う形式で行った。
・3人組まで可というルールにしたので、各グループには最大モーター3個、タイヤ12個、電池6個があり、電池をたくさん使ったハイパワーマシンを作るグループが見られた。
・写真にある1回目に優勝したマシンにあるように出来るだけマシンを軽くするグループもあった。
・実際のカーレースでは、スタート前に各グループに作戦を発表させ、タイムアタックをした。
・他のチームの作戦やタイムなどを参考にしながら次の作戦を立て、マシンを作り上げていた。
(3)子どもの感想(振り返りの作文から)
・レースをやってみて、色々なものをくっつけて作ったので、博士になったようで楽しかった。・・・[1]
・カーレースで一位になったことがなくて、一位になるチームはどうやって作っているのかなあと思いました。・・・[2]
・前回はモーターを3つ付けていましたが、その時にうまく動かなかったので、モーターを2つにへらしました。・・・[3]
・第3回目のカーレースは青いパーツを使ったらだめなので、とてもむずかしそうです。でも優勝するために、なるべく車を軽くしてみようと考えています。・・・[4]
・色々な工夫をして、本物の車を作るのは、大変だなと思いました。・・・[5]
最後に、今回の活動で子どもが夢中になって取り組んでいた理由について考えてみます。その理由については、以下の二点が考えられます。
一つ目は、今回の活動では、子どもが工夫することのできる余地がたくさん存在したことです。例えば、パワーアップの方法、軽量化の方法、モーターは何個使うかなどです。子どもの作文の多くに、そのことが書かれています。
二つ目は、結果がはっきりしたものになることです。カーレースはタイムレースなので、結果が○秒○○(○チーム中○位)とはっきりと表れます。そのことが、自分たちの取り組みへの評価となり、次への意欲となったり、課題となったりしていました。自分たちで考え、意図的に行った結果について、それが悪い結果であったとしても、子どもはそれをきちんと受け止めていました。うまくいかなかったこと(失敗したこと)を次への改善点として意味あるものとして受け止めていました。学習指導要領解説の中にある自ら問題を見出す主体的な問題解決の学習が行われていました。
今回、取り組んだ「競争的学習」は、「電気の働き」以外の単元でも可能です。子どもが工夫をすることができる環境を整えれば、簡単に行えます。盛り上がること、請け合いです。是非やってみてください。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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