2011.12.28
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自分の思いを伝える ~東日本大震災と私~

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

12月の最後の週に、成績処理などの目処がたったので、以前からやりたいと思っていた授業に取り組みました。

それは、2011年を締めくくるに適した題材です。

 

そのテーマは、「東日本大震災と私」です。

単元名は子ども達と相談して

「文でも思いを伝えよう ~みんなで一つになろう~」

ということになりました。

 

今年を振り返る時に、絶対に外すことのできない内容です。

 

全体の流れは以下の通りです。

1.地震や津波、原発事故などに関する映像を見る

2.死者数について確認する

3.今、自分たちができることは何かを考える

4.「誰かに自分の思いを伝える」活動に取り組む

5.手紙を書き、送付する

 

ポイントは「手紙で自分の思いを伝える」ということです。

 

この「思いを伝える授業」は、私が高学年を持つと必ずやる学習です。

以前、使っていた6年の教科書に「平和のとりでを築く」というものがありました。

その単元では、教材文を使って、広島の原爆、平和について学びます

その後「平和についての自分の思いを他の人に伝えよう」ということに取り組みます。

伝える相手は、通常、友達や家族なのですが、私が取り組んだ授業では、自分が思いを伝えたいと思った相手は、誰でも構わないとしました。

 

子ども達が手紙を送りたいと思った人は以下の通りです。(#は返事の来た人です)

<政治関係>※肩書はすべて当時のもの。

・小泉総理大臣#

・川口外務大臣#

・横浜市長#

・ブッシュ大統領

・シュワルツネッガー カリフォルニア州知事

・国際原子力機関(IAEA)事務局長

 

<スポーツ関係>

・イチロー

・上野由岐子(ソフトボール)#

・ベッカム

 

<芸能関係>

・宮川大輔(イッテQ お祭り男)#

・スマップ

 

他にも色々な人に送ったことがあります。

読んでいる方は、大臣などに子どもが手紙を送って、大丈夫なのかと思うかもしれません。

しかし、経験から言うと、全く問題はありません。

ただし、全ての人から返事が来るわけではありません。

確率としては、大体1/3といった所です。

 

また、送るとしても「送付先が分からないのでは」と思うかもしれませんが、経験上、調べられなかったことは一度もありません。

政治家は、事務所などの住所が公開されています。

プロスポーツ選手は、所属クラブへ送ります。

芸能関係の人は、出演している番組が放送されているテレビ局や所属事務所に送ります。

 

いくつかの工夫をして、相手の目に留まるようにしています。

それは、担任がきちんと手紙を出すに至った経緯などについて書いた文書を同封します。

また、子どもには原稿用紙に文を書かせます。

一般の人にとって、原稿用紙に書かれた手紙は新鮮なようです。

それと、「誰に」「何を」伝えるのかを明確にさせ、文を書かせます。

なぜ、その人でないと駄目なのかということをじっくりと考えさせます。

そうすることで、質の高い文ができてくることが多いです

 

この学習では、単に国語の「手紙を書く」という力の育成のみをねらっているのでありません。

他のねらいとしては「社会とのつながりを感じてほしいこと」や「自分の思いを表出させることの大切さを感じてほしいこと」などです。

将来、選挙権を持った時に、選挙に行って、自分の考えを投票することなどにつながってほしいと思っています。

自分がこれから生きていく社会を建設的にしていくために行動を起こして欲しいとの願いです。

 

 

ところで、今回、私のクラス(4年生)で、実際に送った相手と内容は次の通りです。

1.志村けんさんへ、動物の番組をやっているので、被災地に動物を連れていくことで、心が和む人がたくさんいると思うので、そういった番組をやってほしい。

2.野田総理へ、放射能の影響は、色々な形で、少しずつ広がっている。今の人だけでなく、将来にわたって影響があるので、今以上にがんばって取り組んでほしい。

3.浅田真央さんへ、お母さんが亡くなった浅田選手ががんばっている姿を見ると、家族を亡くした被災地の人にも勇気を与えるのではないか。

4.桂歌丸さんへ、笑いは人の心を癒すものなので、落語家が被災地へ行って、元気のない人を笑いで元気にしてほしい。

5.宮川大輔さんへ、お祭り男で、世界中のお祭りを見てきているので、被災地でお祭りを盛り上げてほしい。そのお祭りは、楽しく、そして亡くなった人を偲ぶものにしてほしい。

 

それぞれの子どもは、真剣に考え、真剣に書いていました。

こういった子どもが本気になる学習の積み重ねが、子どもの力を幅広く、深いものにしていくのだと思います。

 

 

最後に、小泉元首相から戻ってきた手紙のことについて書きます。

正確に書くと、首相秘書官の人からの返事でした。

その手紙には

「小泉首相には、皆さんの思いをきちんと伝えました。首相からは『よく遊び、よく学べ』とのことでした。」

とありました。

よく「学び」よく「遊べ」ではなく、よく「遊び」よく「学べ」という所が小泉元首相らしいと思いました。 

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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