私の勤務している篠崎第三小学校の特色のひとつに「いのちの学習」というものがあります。これは、各学年の発達段階に応じて、他者との関係の中で自分を見つめ直す内容の学習です。
私が担任をするクラス(知的障害の特別支援学級)では、同じ江戸川区内にある東京コミュニケーションアート専門学校(通称TCA)とのコラボレーション企画で、動物とのふれあい活動を年に3回行っています。専門学校で飼育しているイヌ・フェレット・トカゲ・カメ・カピバラ・ヘビ(!?)などの小動物がトラックに乗り、小学校に遊びにきてくれます。そして校庭や教室内で実際に動物とふれあう体験学習を行います。
専門学校でアニマルセラピーやドッグトレーナーなどを学んでいる学生も毎回20名ほど、動物とともに来校し、動物の触り方やお世話の仕方を教えてくれます。活動のプログラムは動物看護福祉学科の学生が素案を考え、学級の担任とともに検討して本番の授業にのぞみます。
「いのちの教育」はそのネーミングのとおり、命の大切さや、かけがえのない自分という存在を子どもたちに学んでほしいという願いがあります。
命はかけがえのないもの。命は尊いもの。大切な命。
どれも子どもたちに伝えたいメッセージです。
でも、これらのメッセージ、実はとっても抽象的なのもの。
知的障害をもつ児童にとって、抽象的なメッセージは理解するのが非常に難しいです。したがって知的障害の特別支援学級では、抽象性のあるメッセージも、より具体的に子どもたちが学べるよう工夫した授業をしなければなりません。
ですので、この動物とのふれあい学習では、実際に動物にじっくり触れてみることで、動物の温かみ、柔らかさ、手触り、喜び、おびえなどの感情を具体的に感じとっていくことを重視しています。
また、動物とふれあうことだけが目的ではありません。大事なのは、動物を媒介として、人と人とがコミュニケーションを図ること。家族におけるペットの役割と同じです。「このイヌかわいいね!」「あったかーい!」「フワフワ~!」「ヘビを首に巻いたよ!」子どもたちが体験したことを教師や学生と話し合う。家に帰って、お家の人に楽しかった思い出を話す。そこから、子どもたちのコミュニケーションの力が育まれていくことを期待しています。
特別支援教育は具体的に、そして体験的に。
そこからこの「いのちの学習」も、より本質が見えてきます。
増田 謙太郎(ますだ けんたろう)
東京学芸大学教職大学院 准教授
インクルーシブ教育、特別支援教育のことや、学校の文化のこと、教師として大事にしたいことなどを、つれづれお話しできたらと思います。
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