今回のテーマは「平衡感覚(バランス感覚)」です。通常学級の巡回相談では、平衡感覚につまずきがあるだろうと思える子によく出会います。たかが平衡感覚・・・と侮るなかれ。そのつまずきの影響は非常に多岐にわたります。
まず「態度」の問題。落ち着きがない、一つの姿勢を保てない、だらけているように見える、集中が続かない、気が散りやすいなどの行動につながることが多いと思います。
次に「行動」の問題。高いところが極端に好きだったり、ジャンプや飛び降り遊びが続いたりするため、一見元気がよいように見えるのですが、遊び方はワンパターンで、工夫や発展的な遊びに参加しにくいようです。
そして「生活」の問題。不器用なうえに手を使うときに手元をよく見ようとしません。道具を上手に使えないし、一つひとつの動作に時間がかかります。「いい加減にしなさい」「まじめにやりなさい」「何やってるんだ」などと叱られることが多いようです。
さらには「対人関係」の問題。言葉の問題がなく理解力はあるはずなのに、ルールからはずれてしまったり、相手の話に耳を傾けていられなかったりすることがあるため、限局的な友人関係でとどまりやすいように思います。
最後に「学習」の問題。平衡感覚の発達のつまずきを最も強く感じさせるのが「書き文字」です。運筆が下手で、字の大きさや形が整いません。筆圧が弱い、丁寧さが少なくゆっくり書けない、ササッと書きあげてしまい確認をしない、などの特徴も多いように思います。
こうした行動特徴はなぜ起きるのか? もう少し踏み込んでみると、実は、その子たちが目をほとんど回さなかったり、逆に、極端に目を回しやすかったりといった特徴を示すことが多く、傾きや移動スピードを感じる「平衡感覚(バランス感覚)」のつまずきを抱えていることが多いということがわかってきました。
私は、簡易的な平衡感覚のテストとして、回転イスに座ってもらい、10回転(1回転を2秒くらいのスピードで)回したあと、眼球運動がどのように現れるかを見るようにしています。通常であればこの程度でも充分に目が回ります。眼球の動きをよく見ると、規則正しい細かな揺れ(これを「眼振」と言います)が数秒間でます。目を回している(平衡感覚が働いている)という内的事実を、他者が確認できるわけです。ところが、私が見てきた限りの限定的な情報ですが、上述のような特徴を持つ子の大半は、目を回せません(つまり、通常は出るはずの「眼振が出ない」)。そしてごく一部ですが、目を極端に回し過ぎてしまう子もいました(回転するとすぐに眼振が出たり、回転をやめてもしばらく眼振がおさまらなかったりする)。前者の子は、平衡感覚がほとんど使われていない状態、後者の子は平衡感覚が働き過ぎてしまっている状態と表現できそうです。どちらも「うまく機能していない状態」であるという点で共通しています。
ほかにも平衡感覚(バランス感覚)の機能の状態を確認する方法として、「閉眼片足立ち」があります。目を閉じた状態で片足立ちしてもらうのですが、目を回せない子も、目を回しやすい子も、どちらもほとんど立っていられません。すぐに上げていた足を床につけてしまったり、片足立ちのままケンケンをするようにその場から離れてしまったりします。
また、直線のラインの上を歩行させ、踵とつま先をくっつけながら歩く(写真参照)という方法でも平衡感覚(バランス感覚)の機能の状態を確認できます。踵とつま先を離さないようにして歩くと、通常の状態(左右の足を広げてバランスを維持している状態)を崩してバランスを保つことになります。基底面が「左右」から「前後」になりますから、バランスを保つのが難しくなります。平衡感覚(バランス感覚)がうまく機能していない子にとっては、これが非常に難しいということになります。閉眼片足立ちも、この「踵-つま先歩行」も、小学校に上がる頃には確実にできているはずの内容ですが、これが難しい。発達障害の有無に限らず、このような子が社会現象として増えているという鋭い指摘もあります。
「目を回す」というだけあって、平衡感覚(バランス感覚)の発達は、視覚機能の発達と強い関係があります。平衡感覚(バランス感覚)がうまく機能していなければ、視力はよくても目の使い方がよくないということが往々にしておきます。小学校では、視写、模倣、観察など、見て学ぶ、見て書き写す、見て真似る、見て確認する、見て物の形や性質をとらえるなどの「見る」ことを基本とした学習場面がたくさんありますから、かなり無理をしながら授業に臨んでいるという理解をしてあげる必要がありそうです。
態度・行動・生活・対人関係・学習・・・と多岐にわたるつまずきの原因を見定めると、その原因の一つとして、平衡感覚のつまずきが見えてきます(※)特別支援教育の領域には、平衡感覚の機能を改善する方法もあります。これは、“使われずじまい”だった感覚を強制的に鍛えるという発想ではありません。適切な感覚刺激を他者が入力してあげて“使いやすくする”という発想です。
平衡感覚(バランス感覚)がうまく機能するようになるだけで、ずいぶん落ち着きを取り戻したというケースに出会うこともあります。落ち着いたのはその子自身が改善されたという要素だけでなく、保護者や教師がその子のつまずきの原因に納得し、大人側の気持ちにゆとりができたため、叱られる回数が激減したという要素も含まれているように思います。
特別支援教育の領域では、つまずきの要因を突き詰めるという作業が欠かせません。平衡感覚(バランス感覚)の機能に着目するという視点は、子ども理解をもっと豊かにし、支援の方向性をより確かなものにすると思います。
(※)あくまでも原因の一つです。つまずきの原因は多様で複雑なことのほうが多いので多面的に分析することが大切です。
まず「態度」の問題。落ち着きがない、一つの姿勢を保てない、だらけているように見える、集中が続かない、気が散りやすいなどの行動につながることが多いと思います。
次に「行動」の問題。高いところが極端に好きだったり、ジャンプや飛び降り遊びが続いたりするため、一見元気がよいように見えるのですが、遊び方はワンパターンで、工夫や発展的な遊びに参加しにくいようです。
そして「生活」の問題。不器用なうえに手を使うときに手元をよく見ようとしません。道具を上手に使えないし、一つひとつの動作に時間がかかります。「いい加減にしなさい」「まじめにやりなさい」「何やってるんだ」などと叱られることが多いようです。
さらには「対人関係」の問題。言葉の問題がなく理解力はあるはずなのに、ルールからはずれてしまったり、相手の話に耳を傾けていられなかったりすることがあるため、限局的な友人関係でとどまりやすいように思います。
最後に「学習」の問題。平衡感覚の発達のつまずきを最も強く感じさせるのが「書き文字」です。運筆が下手で、字の大きさや形が整いません。筆圧が弱い、丁寧さが少なくゆっくり書けない、ササッと書きあげてしまい確認をしない、などの特徴も多いように思います。
こうした行動特徴はなぜ起きるのか? もう少し踏み込んでみると、実は、その子たちが目をほとんど回さなかったり、逆に、極端に目を回しやすかったりといった特徴を示すことが多く、傾きや移動スピードを感じる「平衡感覚(バランス感覚)」のつまずきを抱えていることが多いということがわかってきました。
私は、簡易的な平衡感覚のテストとして、回転イスに座ってもらい、10回転(1回転を2秒くらいのスピードで)回したあと、眼球運動がどのように現れるかを見るようにしています。通常であればこの程度でも充分に目が回ります。眼球の動きをよく見ると、規則正しい細かな揺れ(これを「眼振」と言います)が数秒間でます。目を回している(平衡感覚が働いている)という内的事実を、他者が確認できるわけです。ところが、私が見てきた限りの限定的な情報ですが、上述のような特徴を持つ子の大半は、目を回せません(つまり、通常は出るはずの「眼振が出ない」)。そしてごく一部ですが、目を極端に回し過ぎてしまう子もいました(回転するとすぐに眼振が出たり、回転をやめてもしばらく眼振がおさまらなかったりする)。前者の子は、平衡感覚がほとんど使われていない状態、後者の子は平衡感覚が働き過ぎてしまっている状態と表現できそうです。どちらも「うまく機能していない状態」であるという点で共通しています。
ほかにも平衡感覚(バランス感覚)の機能の状態を確認する方法として、「閉眼片足立ち」があります。目を閉じた状態で片足立ちしてもらうのですが、目を回せない子も、目を回しやすい子も、どちらもほとんど立っていられません。すぐに上げていた足を床につけてしまったり、片足立ちのままケンケンをするようにその場から離れてしまったりします。
また、直線のラインの上を歩行させ、踵とつま先をくっつけながら歩く(写真参照)という方法でも平衡感覚(バランス感覚)の機能の状態を確認できます。踵とつま先を離さないようにして歩くと、通常の状態(左右の足を広げてバランスを維持している状態)を崩してバランスを保つことになります。基底面が「左右」から「前後」になりますから、バランスを保つのが難しくなります。平衡感覚(バランス感覚)がうまく機能していない子にとっては、これが非常に難しいということになります。閉眼片足立ちも、この「踵-つま先歩行」も、小学校に上がる頃には確実にできているはずの内容ですが、これが難しい。発達障害の有無に限らず、このような子が社会現象として増えているという鋭い指摘もあります。
「目を回す」というだけあって、平衡感覚(バランス感覚)の発達は、視覚機能の発達と強い関係があります。平衡感覚(バランス感覚)がうまく機能していなければ、視力はよくても目の使い方がよくないということが往々にしておきます。小学校では、視写、模倣、観察など、見て学ぶ、見て書き写す、見て真似る、見て確認する、見て物の形や性質をとらえるなどの「見る」ことを基本とした学習場面がたくさんありますから、かなり無理をしながら授業に臨んでいるという理解をしてあげる必要がありそうです。
態度・行動・生活・対人関係・学習・・・と多岐にわたるつまずきの原因を見定めると、その原因の一つとして、平衡感覚のつまずきが見えてきます(※)特別支援教育の領域には、平衡感覚の機能を改善する方法もあります。これは、“使われずじまい”だった感覚を強制的に鍛えるという発想ではありません。適切な感覚刺激を他者が入力してあげて“使いやすくする”という発想です。
平衡感覚(バランス感覚)がうまく機能するようになるだけで、ずいぶん落ち着きを取り戻したというケースに出会うこともあります。落ち着いたのはその子自身が改善されたという要素だけでなく、保護者や教師がその子のつまずきの原因に納得し、大人側の気持ちにゆとりができたため、叱られる回数が激減したという要素も含まれているように思います。
特別支援教育の領域では、つまずきの要因を突き詰めるという作業が欠かせません。平衡感覚(バランス感覚)の機能に着目するという視点は、子ども理解をもっと豊かにし、支援の方向性をより確かなものにすると思います。
(※)あくまでも原因の一つです。つまずきの原因は多様で複雑なことのほうが多いので多面的に分析することが大切です。


川上 康則(かわかみ やすのり)
東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。
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