2009.01.23
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点字について(2)―1cm未満と1.5mmほどの世界から情報を読みとる―

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

最近点字に関するブログを読む機会がありました。R25.jpというサイトです。
『身近だけどわからない「点字」の仕組みを学んできた!』というタイトルで1月17日に配信されています。関心のある方はどうぞ。この中で駅や手すりやエレベーターなどの公共の場所で点字が広く使用されていることや、缶ビールやシャンプーなど飲料水や生活用品など身近なものでも点字が使用されていることについて触れています。毎晩ビールを飲んでいる方には、今晩はちょっと確認の意味で探してみていただきたいです。
このように不特定多数の方にブログを通して、視覚障害でない多くの方にも、点字が身近に感じてもらえることに何かうれしさを感じます。少しでも点字が利用されていると気付く人が増えることだけでもバリアフリーな成熟した社会に近付いていると思えます。
「あっ、ここに点字で記されているぞ。」と気付いておられる方で、どのくらいの方が実際に手で触って見られたことがあるでしょうか。私も点字学習について紹介しておりますが、指で触ることは実は多くありません。やはり目で見えることが邪魔をしているようです。どの部分の突起があるかを目で見て、そしてその文字は何であるかと考えてしまうのです。目を閉じて、じっくりと点字を味わうことはしてきませんでした。必要に迫られていないからです。
ところで、この実際の点字の大きさはご存知でしょうか。お答えします。一文字分は、横5mm縦10mm未満です。非常に小さい長方形の中に最大縦3点で横2列に点が並んでいるのです。実は国によって規格に若干違いがあるようで、点字出版社や点字製版システムによっても異なるようです。
さらに1点の突起を紹介します。1点の直径は、基盤となる紙のところから点が立ち上がる「ふもと」のところで、約1.4~1.5mm程度がよく用いられている。中央部の高さは、0.3~0.5mmが最適範囲であるそうです。
実は、点字プリンターの性能によっては、この突起部が低かったり、平面の部分が微妙に小さかったりして、指で判読しにくいことが起きています。青眼者の立場からでは、どのプリンターで点字が打ってあっても違わないだろうと思っていました。それは、実際に指で触れずに、点字の突起部分を目で見ているだけだったからでした。しかし、生徒らにとってみると、突起部の出来具合は、国語や英文の長文など多くの点字を理解し、文字を正確に読み進めようとするときには、とても大きな問題となるのです。
生徒さんは、この5mm10mm四方とわずか1.5mmの突起とその点の配列から一文字一文字を認識しているのです。私にしてみると非常に驚きです。
英語などの文字から英単語や英文へ発展させていく手順に、点字表記は少し似た面があるように思えます。アルファベット文字の学習と点字の学習の相違や類似については、別の機会で考えたいと思います。
参考:『点字学習指導の手引』(文部科学省)大阪書籍出版株式会社
「とほほの点字入門」http://www.tohoho-web.com/tenji.htm
   「中途視覚障害者の触読効率を向上させるための総合的点字学習システムの開発-点字サイズの評価法、サイズ可変点字印刷システム、学習プログラム・CAIの開発-」木塚 泰弘(国立特殊教育総合研究所)研究課題番号 07401007
http://web.econ.keio.ac.jp/staff/nakanoy/

以前の号(2008/11/14)で,点字の話題でふれておりましたが、点字を目で見て読めるように少しずつですが、できるようになってきました。しかし、実際に点字を自分の指で触察という形で読むことはできておりませんでした。

ある生徒さんが、「先生、私と一緒に点字を読むことを練習しませんか」と申し出てくれました。その生徒さんから教わることや気付くことがありました。
まず、6点字分を1マスと言います。その1マス分を指で触っても、どの点を触っているか正直なところ、私には区別がつかないのです。突起物が点1個だと分かっても、どの位置の1点であるのか、目を閉じて触りますが、本当に分からないのです。目で見て読めていたと思っていた状態は、実際に点字に指先を添える体験をすることで、全く歯が立たないか、非常に難しいことに気付かされました。
また、4つの点字や5つの点字がある場合も、触って幾つ突起物の点があるのか識別することは容易ではありません。6つの点のうち、どこが1カ所または2カ所空いているのか、指先だけでは区別するのが難しいのです。目で見て、1カ所空いているから「○○」という文字だと気付くことができても、指先で、どの1カ所が空いているのか、判断することが難しいのです。点字の奥深さを知らされました。これができるAさんは、私からすると尊敬の的です。

私は、指先で点字を触る前までは、点字は単純に6つの点の組み合わせで、それ以上でもそれ以下でもないと思っていました。しかし、点字を指先で捉え、そして情報として読みこなすことは本当に凄いことなのだと実感しました。指先のほんの1cm未満の長方形の部分の連続と1.5mm程度の突起物から、必要な情報が得られるのです。

このために大切なことは、ひたすら点字に指を接触させ、指に突起部の違いを指膚(?)で、染みこませて理解させることが、点字に慣れる一番の近道なようです。

私は生徒さんから、「先生も指先を一層敏感に保って、一緒に点字で物語を読むことができるようにしましょうね」とちょっと悪戯ぽい挑戦状を渡されたのでした。頭の痛い思いや指先がやけに重い感じで、新年を迎えることになりました。でも指先から刺激を得ることで、脳の老化を防ぐには絶好のチャンスかもしれません。逆境を味方にすることも大切ですね。

さあ、皆さんも点字に直に触って、脳の活性化(?)に励みましょうか。

追伸:オバマ大統領の就任演説から、ちょっと大袈裟かもしれませんが、煙に満ちた階段を駆け上がる消防士の勇気や子供を育てる親たちの意志を持ちながら、点字と触れ合いたいものです。運命は切り開かれるというよりは、切り開くものかもしれません。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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