小学校4年生の娘がしている宿題を横から眺めていると、最近は、小学校の国語の教科書で、点字や手話などが扱われるようになっていることに気付きました。中学の英語の教科書でも、3年生では東京書籍のNew Horizonで点字についてLesson(Unitと読んでいます)で紹介されています。このように義務教育段階で多くの生徒児童が、点字というものに触れる機会が保障されていること自体が、視覚障害者を取り巻く環境として非常な前進と捕らえることができると思います。現在の日本の若者たちが、知識面だけでも、私が過ごした幼少の時期とは大きく変化していることに気付かされています。彼らがメンタルな部分でもノーマライゼイションの一翼を担ってくれるものと期待しています。
点字というのは、ブレイルというフランス人の方が最初に工夫し、使われるようになりました。日本語に改良されたのは明治時代になってからだということです。点字の歴史等に興味ある方は、インターネットの検索等に譲りたいと思います。
私個人は、授業では「墨字」の教科書を用いています。「墨字」というのは、普通の印刷された状態のものを指す言葉で、4月の私のコーナーで紹介させていただきました。生徒は、「点字」の教科書を使っている場合と、拡大教科書といって、版が通常より大きいものを用いている生徒と視力の状態に合わせています。
今回は、「点字」教科書を使っている生徒との様子を考えてみます。
生徒が、「点字」の教科書の英文を読み上げます。指でまず「点字」のアルファベットを確認して、次にそのアルファベットを頭の中でイメージとして、捕らえます。それを今まで学習してきた経験則の読み方を利用して、発音にしていきます。しかし、単純にはいきません。なぜならば、英文字の点字は、フルスペルの表記と文字の固まりを省略した略字の表記とがあるのです。具体的に言いますと、lookingという単語は、7文字で構成されています。しかし、点字で表記すると長いと認識するのが大変なので、良く用いられる綴りの固まりを、別の略字表記にすることをしています。ingの部分が一つの略字の点字表記がされています。どの綴りの部分が略字になるのか、ルールがあり、それを200近く、改めて暗記し慣れる必要があります。私は、自分の教科書の英文の下に、青か赤で線を引くことで、どの文字列が略字で「点字」になっているのか、生徒に教えてもらっています。毎回の授業で、どの文字の固まりがまず「略字」になるのかに慣れるためにです。生徒が、私にとっては、「点字」の先生役になっています。英単語や英文の読み方や意味、その派生語などは、私が紹介し解説して膨らませています。
英文を視覚からの情報で読むことと比較すると、「点字」からの情報では、困難さと疲れが増すのです。まず、指先に神経が集中します。指で読んだ情報を頭で、いったん蓄積します。それを再構築します。再構築された語句や文字の並びを、それまでの蓄積と照合し、あれば良いのですが、なければそこで立ち止まることが往々にしておきます。「点字」が読めるというは、実は、その過程に加えて、様々な段階で神経を集中しないといけないので、視覚からの場合と比べると、頭が非常に疲れるのです。ですから2時間も3時間も「点字」での学習を続けることは、難しいのです。このことを理解するのにも恥ずかしながら私は何ヶ月もかかりました。今は50分の授業の中に緩急をつけて授業を構成する必要を感じています。生徒にとっては、自分で「点字」に集中するときと、「ふ~」と一息つく感覚を上手に使い分けることも求められることになります。中途で失明や病気になって視覚障害を患った場合は、健常の時のイメージが体に刷り込まれているので、以前可能であったことが、どうしてできなくなったのだろうかと精神的に追い込まれる場合もあると聞いています。
さて、少しずつ私も「点字」表記に慣れてきました。逆に英文をみて、私が、単語や英文の中で「略字」になっているところを取り上げて、生徒にチェックしてもらうような形もとっています。生徒は私にとって「点字の先生」なのです。
最近、私が、あまりにも出来の悪い点字の学習者なので、生徒にこう尋ねました。「なにか点字学習のこつはありませんか」(注:本当の会話は富山弁です)
すると、生徒は、次のように教えてくれました。
「先生、どんなに短い時間でもいいですから、毎日毎日点字を眺めてください。点字を毎日見るようにしてください。そして、毎日続けられるように、自分にとって無理のない計画をしてください。例えば30分とかでも時間が長すぎます。1分でも5分でもいいのです。毎日というところが大事です。わたし自身、やりすぎて点字アレルギーになったことがあります。点字を触るのも考えるのも一時期嫌になったことがあるので、そうならないように、点字に触れ、楽しむことを心がけてください。できればカードを作ってどこでも見ることができるような環境を作ってしてください。」
わたしは、声に出してその生徒に言いませんでしたが、「あっ、これって外国語(英語)学習に似ているな」と思いました。
生徒から点字の学習への近道を聞こうとしましたが、はからずも外国語学習のコツを思い返すことになりました。
生徒は、私にとっていつも大事な先生です。
さあ、点字勉強するぞ!!
点字というのは、ブレイルというフランス人の方が最初に工夫し、使われるようになりました。日本語に改良されたのは明治時代になってからだということです。点字の歴史等に興味ある方は、インターネットの検索等に譲りたいと思います。
私個人は、授業では「墨字」の教科書を用いています。「墨字」というのは、普通の印刷された状態のものを指す言葉で、4月の私のコーナーで紹介させていただきました。生徒は、「点字」の教科書を使っている場合と、拡大教科書といって、版が通常より大きいものを用いている生徒と視力の状態に合わせています。
今回は、「点字」教科書を使っている生徒との様子を考えてみます。
生徒が、「点字」の教科書の英文を読み上げます。指でまず「点字」のアルファベットを確認して、次にそのアルファベットを頭の中でイメージとして、捕らえます。それを今まで学習してきた経験則の読み方を利用して、発音にしていきます。しかし、単純にはいきません。なぜならば、英文字の点字は、フルスペルの表記と文字の固まりを省略した略字の表記とがあるのです。具体的に言いますと、lookingという単語は、7文字で構成されています。しかし、点字で表記すると長いと認識するのが大変なので、良く用いられる綴りの固まりを、別の略字表記にすることをしています。ingの部分が一つの略字の点字表記がされています。どの綴りの部分が略字になるのか、ルールがあり、それを200近く、改めて暗記し慣れる必要があります。私は、自分の教科書の英文の下に、青か赤で線を引くことで、どの文字列が略字で「点字」になっているのか、生徒に教えてもらっています。毎回の授業で、どの文字の固まりがまず「略字」になるのかに慣れるためにです。生徒が、私にとっては、「点字」の先生役になっています。英単語や英文の読み方や意味、その派生語などは、私が紹介し解説して膨らませています。
英文を視覚からの情報で読むことと比較すると、「点字」からの情報では、困難さと疲れが増すのです。まず、指先に神経が集中します。指で読んだ情報を頭で、いったん蓄積します。それを再構築します。再構築された語句や文字の並びを、それまでの蓄積と照合し、あれば良いのですが、なければそこで立ち止まることが往々にしておきます。「点字」が読めるというは、実は、その過程に加えて、様々な段階で神経を集中しないといけないので、視覚からの場合と比べると、頭が非常に疲れるのです。ですから2時間も3時間も「点字」での学習を続けることは、難しいのです。このことを理解するのにも恥ずかしながら私は何ヶ月もかかりました。今は50分の授業の中に緩急をつけて授業を構成する必要を感じています。生徒にとっては、自分で「点字」に集中するときと、「ふ~」と一息つく感覚を上手に使い分けることも求められることになります。中途で失明や病気になって視覚障害を患った場合は、健常の時のイメージが体に刷り込まれているので、以前可能であったことが、どうしてできなくなったのだろうかと精神的に追い込まれる場合もあると聞いています。
さて、少しずつ私も「点字」表記に慣れてきました。逆に英文をみて、私が、単語や英文の中で「略字」になっているところを取り上げて、生徒にチェックしてもらうような形もとっています。生徒は私にとって「点字の先生」なのです。
最近、私が、あまりにも出来の悪い点字の学習者なので、生徒にこう尋ねました。「なにか点字学習のこつはありませんか」(注:本当の会話は富山弁です)
すると、生徒は、次のように教えてくれました。
「先生、どんなに短い時間でもいいですから、毎日毎日点字を眺めてください。点字を毎日見るようにしてください。そして、毎日続けられるように、自分にとって無理のない計画をしてください。例えば30分とかでも時間が長すぎます。1分でも5分でもいいのです。毎日というところが大事です。わたし自身、やりすぎて点字アレルギーになったことがあります。点字を触るのも考えるのも一時期嫌になったことがあるので、そうならないように、点字に触れ、楽しむことを心がけてください。できればカードを作ってどこでも見ることができるような環境を作ってしてください。」
わたしは、声に出してその生徒に言いませんでしたが、「あっ、これって外国語(英語)学習に似ているな」と思いました。
生徒から点字の学習への近道を聞こうとしましたが、はからずも外国語学習のコツを思い返すことになりました。
生徒は、私にとっていつも大事な先生です。
さあ、点字勉強するぞ!!
岩本 昌明(いわもと まさあき)
富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。
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