2008.10.30
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「授業妨害をする子」から読み取れるつまずきのサイン

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

以前、掲示板で取り上げられていた話題(「授業妨害」)について、今回は私なりの視点でもう少し掘り下げて論じてみたいと思います。

客観的なデータがないため、私がクラスを巡回した中で見てきた経験則になってしまいますが、「授業妨害」は、学習規律をしっかり身につけさせたいというまじめな先生のクラスほど陥りやすい現象だと思います。先生は、そのまじめさから、子どもたちの様子を「わざとふざける我侭な子」、「人を困らせる悪意のある子」と判断してしまいがちです。そのため、「ふざけた性格を修正させよう」、「悪意を反省させよう」と一生懸命になります。実はここが落とし穴で、この方法ではまず学級経営がうまくいかないと思っていただいたほうがよいと思います。

確かに、反省を促したり、行動を修正したりすることは、教育の重要な要素です。修正・反省といった方法が有効な子も多くいます。有効な子には、「自己修正力がある」、「再挑戦意欲がある」といった条件がそろっているのです。

ところが、授業妨害をする子の多くが、「ボクにもっと注目してよ」という認められたい欲求が高い割に、成功体験が乏しく、うまくいかなくても自分なりのやり方で解決しようとしてまた失敗といった経験を繰り返しているため、自己肯定感が低い子であると感じる場面が多々あります。そのため、失敗を分析して次はうまくやろうとする「再挑戦意欲」や、うまくいかなかったことを素直に認め改めようとする「自己修正力」が弱いままなのです。

修正や反省といった「成長の基盤」が弱い状態にあることを踏まえずに、「修正させよう」、「反省させよう」とすれば、当然のことながら先生の目論見は“玉砕”することになります。あとには何が残るでしょうか? 「どんなに頑張っても直しようがない」といった徒労感、「これ以上何をやればいいのか」といったあきらめ感が積み重なります。それだけだったらまだいいのかもしれません。他の子どもたちからの「押しつけがましい先生だ」といった疎ましがられる視線、同僚からの「どうしてうまくまとめられないの」といった冷めた視線、保護者からの「もっと勉強に集中できる環境を」といった厳しい視線にさらされ、疲れた表情が増えてきます。私はこれを「アリ地獄」と呼んでいますが、冒頭で述べたように、学級規律をしっかり身につけさせたいまじめな先生ほど、アリ地獄に陥るような気がします。

実は、授業妨害をする子たちも「友だちや先生と同じように楽しく過ごしたい」と感じています。感じているからこそ、「うまくいかなさ」や「周囲から受け入れられていない空気」を本人なりに実感しています。では、なぜうまく行動できないのでしょうか。その子のつまずきを丹念に分析してあげると、解決策が見えてきます。

私が巡回してきた経験の中で発見できた共通項は、以下のつまずきです。

(1)「認めてもらいたい欲求」がとても強いわりに、満たされていない。
(2)「動きだす前に一呼吸おく」という注意の機能が弱い。
(3)自分の動きをコントロールする「ボディイメージ」が弱い。
(4)何をどこまで頑張ればよいのか、活動の見通しが持てないので、集中が途切れやすい。
(5)課題が難しい(または、多い)と感じている。
(6)周囲から信頼されていると実感できていない。
(7)その他(その前後のできごとなど)

だとすれば、「授業妨害をする子」とは、こんな支援が必要な子なのだと見方を変えることができるのではないでしょうか。

(1)見通しを持ちやすく工夫する。(活動の時間や内容を先に示す。)
(2)みんなの前で賞賛する。(そのために目標をしぼる。)
(3)教師側の言語指示量を減らす。(イライラしはじめるとついつい言葉での叱責が増えるため)
(4)問題行動そのものよりも、問題のないときの行動に着目し、「今、いいね」と実感を持たせてあげる。(問題行動ばかりに目をむけると、結局モグラたたきになってしまう。)
(5)信頼を前提とした見方に替える。(問題を起こすことを前提に関わってくる大人の言うことは受け入れてもらえない。)
(6)感情の言語化が苦手なので整理を手伝う。(今の気持ちは「ムカつく」ではなく「うまくできなくて悔しい、だから先生てつだって」だよ、のように。)
(7)周りの子への気配りも忘れずに。(周りの子だって認めてもらいたい、と思っている。)

特別支援教育コーディネーターの立場から、「○○すべし」という方法論や、「△△と考えたら」といった心情論を語ることはいくらでもできますが、実際には、その子にどんなつまずきがあるのかといった分析を踏まえなければ、方法論も心情論も空振りに終わってしまいます。また、その先生がどんなアリ地獄にはまっているのかも大切に見ていかなければ、解決の糸口を見いだせません。行き詰まったときこそ、いろいろな立場の方(管理職、同僚、スクールカウンセラー、特別支援学校のコーディネーター)にクラスを客観的に見てもらうようにするとよいのではないでしょうか。

川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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