2008.10.02
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「○○しない」は適さない

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

第4期のつれづれ日誌が始まりました。私の記事を掲載していただくのは、今回が第40回目になります。今回は、「目標の立て方」について取り上げたいと思います。

クラスの中でも人一倍賑やかで、授業中のおしゃべりが止まらないAくん。「授業妨害をしない」という目標を設定されたのですが、いつも評価は「基準を満たしていない」。

友だち思いな一面もあるけれど、それが行き過ぎてついついかまってしまうBくん。「友だちにちょっかいを出さない」という目標を設定されました。約束を守ろうと心に決めたはずなのに、その日の評価もやっぱり「×」。

何かと細かいことにイライラピリピリしがちなCさん。「イライラしない」と学期目標に自分で書いたにもかかわらず、やっぱり今日も周りの子の不用意な一言にイライラ。自分で設定した目標を達成できないことが悔しくて、またイライラ。

こんなことってよくあると思います。私は、「○○しないようにする」という目標はできるだけ避けたほうがよいですよ、とアドバイスしています。

例えば、ほぼ全ての学校で共通して生活目標にされている「廊下や階段は走らないようにしよう!」ですが、どこの学校にうかがっても子どもたちが走っている場面を目にします。「走らない」でいるときに誉めてくれたり、走らないように気をつけている子を認めてくれたりする先生がいれば別でしょうが、実際には「廊下を走らずに歩いている」からと言って誰も誉めてなんてくれません。

そう! 「○○しない」という目標は、達成してもマイナスでない状態になるだけなので、誉めどころを探しにくい(評価しにくい)のです。評価しにくい目標をあえて設定することほど、もったいないことはありません。その一方で、「廊下は右側を歩く」とか「階段はゆずる」といった目標になると、一気にプラスの評価をしやすくなります。その場面を目にしたら、即座に誉め(即時強化)、うまくできていることの実感を持たせる、これが大切だと思います。

イライラしやすい子にとって、「イライラを抑えること」は実はものすごく難しいことです。それよりも、社会が許容できるイライラ発散法を身につけ(例えば、「悔しいっ!」とつぶやきながら地面を一踏み。周りから一瞬ビックリされるかもしれませんが、これくらいなら社会的に許容できる範囲でしょう。)、「イライラ場面で練習通りに発揮する」という目標を設定したほうが、プラス評価に結びつきやすくなります。

特別支援教育とは、発想の転換であると思います。大人は「こうさせたい」という気持ちから「○○しないようにする」という目標を設定しがちですが、うまくいかない経験ばかり積み重なって自己肯定感まで下げられてしまっては、せっかくの個別目標がうまく生かされないと思います。

ところで、教室内に掲示されている個人目標(子どもたちが自分自身に課した学期目標)の中には、「けんかをしない」、「忘れ物をしない」、「好き嫌いをしない」など、やはり「○○しない」といった目標を見つけることがあります。日本人らしい謙虚さの表れと言えば聞こえはよいかもしれませんが、結局のところ、自己評価を下げることにつながるだけで、達成感を感じ得ずに学期末を迎えてしまうのではないかと推察しています。掲示する前に、目標のコツをこっそり伝授してくれる先生が増えるといいな、と思っています。

川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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