2008.09.18
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「障害」が認知されにくい社会で、私たちができること その3 - ある国際比較調査より

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

つれづれ日誌の欄をお借りして「特別支援教育」についてお伝えし始めてから、早いもので1年半の年月が経過しました。できる限り専門的な用語は使用せず、小・中学校、幼稚園、保育園、児童館等での指導や、ご家庭での子育て場面などで幅広く活用できそうな「子どもを理解するための視点」と「根拠に基づく具体的な支援」をお伝えしてきたつもりです。みなさんの身の回りの特別支援教育は、どのように理解されていますか?

これまで私は、意図的に「障害」あるいは「障害者(児)」について触れてきませんでした。特別支援教育は障害児(診断名のついた子)のためだけに行われる、といった先入観や偏見を読者のみなさんに抱いてほしくなかったためです。実はこの考えの背景には、「障害」というものをまだまだ特殊なものととらえがちな我が国の障害理解事情があります。

これからご紹介するのは、2007年2月~3月にかけて、日本、ドイツ、アメリカでそれぞれ1,000人以上の方を対象として行われた国際比較調査の結果です(※)。他の二カ国についてはどうか判断しかねますが、少なくとも我が国の調査結果に関して言えば、私が普段から実感している印象に近い感じがしています。

調査結果によると・・・
(1)何らかの障害のある人を前にした時に、どのように感じるか?という問いに対して、「全く意識せずに気軽に接することができる」または「あまり意識せずに接することができる」という回答の合計
・・・日本:36.3%、ドイツ:87.4%、アメリカ87.1%

(2)これまで身近に、何らかの障害のある人がいたことがあるか?という問いに対して、「身近にいたことがない」という回答
  ・・・日本:14.5%、ドイツ6.3%、アメリカ7.2%

(3)自国の人口の中で、何らかの障害のある人がどの位の割合を占めていると思うか?という問いに対する回答
  ・・・日本:「10%未満」だとする回答をした人が4割以上
   ドイツ:「30%以上」だとする回答をした人が20.2%
   アメリカ:「30%以上」だとする回答をした人が22.3%

(4)障害のある人は、障害のない人と同じような生活を送っていると思うか?という問いに対して、「そう思う」または「ややそう思う」という回答の合計
  ・・・日本:18.8%、ドイツ:81.9%、アメリカ:53.7%

「調査対象の3カ国だけを比較して」という条件付きですが、以下のようなことが考察できると思います。

日本では、障害を身近に感じる機会が少なく、障害のある人が普段どのような生活を送っているかがよくわからない。そのため、接する機会があっても「意識」せずに自然に関わり合うことが難しい。自国の人口に占める障害者の割合も極端に低いと認識され、障害のある人=マイノリティーという意識が根強い。

このままの認識では、特別支援教育は、その対象を「障害のある子」に限定された極めて狭小的な理解にとどまり、それ以上の進展は見せないのではないか。そのように危惧しています。

言うまでもないことですが、もはや特別支援教育は「個」に対する教育の枠を超えて、通常学級の学級経営や授業づくり、不登校や非行などを主な対象としてきた生徒指導や教育相談の分野でも踏まえていなければならない知識です。また、ニート、引きこもり、虐待などの社会的な課題にも大胆にメスを入れることのできる仕組みだと思います。そのことに全ての方が気づいていただけるようになるまで、まだまだ時間はかかるかもしれませんが、こうして情報の発信を続けていきたいと思います。

10月より始まるつれづれ日誌第4期も、執筆陣の一員に加えていただけることになりました。今後もどうぞよろしくお願いいたします。


※引用文献
内閣府「障害者の社会参加推進等に関する国際比較調査」
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/hikaku/gaiyou.html

川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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