2008.07.11
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介護等体験から考えたこと

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

今週の火曜日と水曜日の2日間は介護等体験の大学生と一緒でした。

介護等体験(Wikipedia)というものを知りました。特別支援学校ならでは、ごく当たり前の行事の一つかもしれません。教員免許法が改正されてもう10年になるようです。今まで他の高等学校に在籍していたので、この制度に関わったことは今回が初めてとなりました。わたし自身が勉強になりました。始め教育実習と同様なものかなと思いこんでいました。しかし、法令やその歴史的経緯などを検索したりしていくと、もっと大事にすべきだと考えを改めました。

Wikipediaには、体験内容として、1)登校時のお出迎え、2)朝の会、3)自立活動へのかかわり、4)給食時の補助、5)児童・生徒との交流、6)下校時の送迎、などと紹介されていました。このような6つの場面等で、学生に支援する場を保障できただろうか。単に教員免許状授与の目先のことだけに終わらず、もっと高い次元でこの体験を自分のものにしてもらうような姿勢をわたし自身がもっていたであろうか。振り返りました。

義務教育諸学校の教員の免許状の授与を受ける際に、この体験が必要となるようです。私見ですが、義務教育諸学校に限らず高等学校の教員希望者であってもこの制度の主旨を尊重して、導入しても構わないのではないかと思います。

この制度が始まってから、10年間この制度の下、受け入れを担当されてきた方は、私が受けたような新鮮な思いは、消えているかも知れません。例年のごとくという慣例に準じて、ベルトコンベヤー的になっている場合があるかもしれません。私は、体験する学生も受け入れる学校や施設側も、改めてこの介護等体験の主旨をちょっとだけ立ち止まって考える時間が毎回または毎年必要であると思います。私のように、全く本末転倒なのですが、終わってから振り返るようでは情けないかぎりかもしれません。懺悔です。

私は、受け持ちの生徒らが大学生とできるだけ多くの時間を割いて交流できることを願っていました。大学生たちには、難しいことはいいから、支援を必要とする児童・生徒の実態にできるだけ多く触れてほしいと願っていました。あれやこれやと場面に応じた適切な支援を求めることは想定していませんでした。大学生の皆さんが、介護等体験をする前に持っていた、心のバリアーが、この実体験でいくらかそのバリアーが取り除かれたのであれば、それだけでもこの体験は意義があったのではないかと考えていました。

個人的にも、大学生さんから大学の学部の様子を聞かせてもらえました。その会話を生徒が耳にすることで、間接的ですが、学生さんとの距離が縮まっていきます。中学生や高校生にとって、大学生と接することは、この様な機会が与えられなければ全くないでしょう。私は、英語の授業の導入で、サミットの話題を用いてみました。Have you ever heard of G8 summit? で受け答えをしてから、Can you name eight countries? で8カ国を挙げてもらいました。中学生はなかなか国名が出てきませんでした。さすが大学生は全部答えてくれました。大学生のメンツが立ちました。この8つの国から行きたい国はありませんか。等話題が広がってきました。生徒は大学生との情報の授受を英語でしました。とても収穫でした。私の英語の授業に、彼らは生徒以上に緊張して参加しておられました。一緒に英問英答を受け、しどろもどろになることもありました。中国語専攻や数学専攻の学生さんが、生徒と同じ机と椅子に座って、支援する予定だったのが参加する側になったものですから、さぞ困ったことでしょう。でも、”Good job!”と誉めると、学生さんも嬉しそうな表情になりました。一生懸命に英語で答えている雰囲気に、生徒らも共感をもってくれたようです。

大事なことは、支援を要する生徒児童とまず「一緒にいる、寄り添う」ことかもしれません。できるだけ時間を共有することなのかもしれません。終わり会で、私のクラスに来てくれた学生さんのことを名残惜しみながら、A君は「もう会えないのですよね。先生。」と言ってくれました。この2日間の介護等体験は、実はA君にとっても忘れられない想い出として心に刻まれたようです。また学生にとっても、普段の学生生活だけを送っていたのでは、出会うことのない場面や機会の連続であったことは確かであると思います。

田中真紀子さんらによる議員立法でできたこの機会が、今私が気付いていない問題点は抱えていると思いますが、ノーマライゼイションの社会の扉を開く契機になっていくことを願っています。

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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