2008.06.27
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視覚障害と英語指導

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭 岩本 昌明

6月に入ってから久々に知人と話す機会があった。「盲学校ではどんな英語の授業をしているのですか。」「目が不自由な生徒さんに、教科書を用いているのですか」など、他にも想定内の質問が相次いだ。私も相手の立場であれば、同じような質問をしたであろうと、半ば辟易しながらも、ほくそ笑んで話を続けた。
 
まず、視覚障害の生徒にどのように英語の授業をしているのか素朴な疑問があると思われる。生徒の視覚障害の度合いに応じて、墨字か点字の教科書を使用している。私は、中学部と高等部の両方の授業を担当している。高等部では、点字版の教科書を用意している会社は限られている。必ずしも生徒の実態に応じた採択が可能になっているとはいえない。点字の教科書が採算の問題もあってだろうが、出版社数と題材の難易度が限られてしまうのは残念だ。教師が、生徒の実態に応じて教科書を料理すればいいことなのだが。

全盲または、ローヴィジョン(low vision)の生徒には、点字教科書を使っている。できるだけ英語に触れる時間や英語を用いた活動を50分の中で多くできるように配慮と努力はしている。特別な指導法を工夫することは基本的にない。非常に前近代的とお叱りを受けるかも知れないが、教科書の解説をし、例題を考えさせ、答えを点字で打たせ、重要語句などを点字で残すように指導したりしている。英語が音声を中心とした構成になっている教科であるため、特別に盲学校だからと意識し何か変える必要は感じていない。

強いて言えば、生徒は耳が良く、発音には逆にうるさいので、わたしは、自信の持てない発音に磨きをかけなければという気負いが生じてきている。正直プレッシャーである。/r/音と/l/音の区別, /th/音などを、自分もできるだけ意識し、強調することに心がけている。

書きながら思いついたのだが、基本的に板書をすることができない。なぜかというと板書した文字が見えないからだ。または見ることに非常な困難や負担を感じる生徒らだからだ。黒板に書く代わりに、口頭で説明することが多くなる。これが、意外と難しいのである。今まで数十年以上、無意識に黒板の恩恵を被っていたことを、ここでは改め知らされている。視覚にいかに依存した授業をしてきたのか反省させられている。黒板依存からの脱却が急務である。また絵や図など実物を用いて、題材の理解を進めることがほとんど出来ないことも多く本当に苦労しているし、もどかしく感じている。『百聞は一見にしかず』という諺の偉大さに脱帽状態である。そのため教科書の絵や図を見ての活動は、原則として省略せざるを得ない。今後の課題であると考えている。

このつれづれ日誌で先日山田智之さんが、電子黒板の普及について触れておられます。私個人としては、視覚障害にも利便性のある電子黒板の普及も願っています。

目が不自由になった年齢とそれまでの日常経験の差によって、形成された概念が生徒一人ひとりによって異なるので、理解できる英文の内容やそもそも日本語の知識も異なっている。生活体験の違いは学習内容の理解に与える影響も大きい。例えば、生まれてから全く目が見えない生徒に色の単語を英語で教えても、彼らには一種の記号としか伝わらないであろう。途中で視力を失った場合と大きく異なってくる。また、○や□や△など形は触察で理解が深まるだろう。地名や国の位置は、バリアフリー地球儀で確認させたりしている。天候の挨拶などは、「今日は天気がいいですね。」や「今日は曇りですね」と言っても、本人には、体感で答えられる場合もあるが、実は目で見えないので難しくなることもある。

英文を読むときに、弱視の生徒は、見える範囲が限られる傾向がある。文字のポイントも大きめである。そのため、通常の教科書のページの倍以上のページ数になる。教科書の数行程度の英文が、弱視者対応の教科書では2ページ以上に及ぶこともあり、長文を読むことに私たちが経験している以上の困難を生徒は感じている。具体的に紹介すると、読者の方は、このコラムの一文が視野の中に入って、ざっーと目を通せる方が普通であるでしょう。しかし、弱視の生徒には、「ざっと目を」までは、視界に入っても、次の「通せる方が…」まで、読めなかったりする。英文でも同様なことが起きてしまう。教師の後に続けて英文を追って読む時に、私が英文を読む場合、なるべくナチュラルなスピードで読んだとしても、その速さに目が文字に付いていけない。さらに文字を認識しても、単語を意識するまでに時間がかかったりする。だから英語が分からない、難しいと感じてしまう傾向が生じてしまう。

このことを少しでも解消するために、まず、単語は1語ずつゆっくりと読み上げ、次に2~3語のチャンクを意識したまとまりを、読み上げることをする。生徒は目で追うことは非常に負担で無理を強いることになるので、英文を一文読み上げることは行わないように気をつけている。

さらに知的障害の度合いによっても指導方法が異なってくるので、紙上で紹介するには限界があるのかもしれない。ということは動画配信でもしなければ、どんな指導や授業をしているのか十分理解できないことになるのだろうか。そんな恐ろしいことはできない。どうかご勘弁を。
(付記)墨字教科書で、拡大器を用いての指導については別の機会に譲ることとしたい。

参考:「4 視覚障害児の理解」秋田盲学校
http://www.mou-s.akita-c.ed.jp/guide/part4.html

岩本 昌明(いわもと まさあき)

富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。

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