2008.05.29
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運動会の時期に、授業に集中できない子が増える理由

東京都立港特別支援学校 教諭 川上 康則

5月中旬~6月上旬にかけての時期に、運動会が開催されるという学校は少なくないと思います。先日、勤務校も運動会を終えましたが、巡回でうかがう小・中学校も運動会の練習まっさかりという学校が多くありました。年間行事のバランスや、残暑厳しい9月よりも練習しやすい初夏の方が運動会に適しているなどの理由によって1学期の半ばに行われるところが多いようです。

練習の疲れもあって、それ以外の授業への集中力が落ち気味・・・というお話をある先生からお聞きしましたが、私から見ればどうもそれだけではないような気がしています。

結論から言うと、他の学年・他のクラスの練習での歓声・声援・かけ声・ピストル音など校庭の音が窓から入ってきてしまい、そちらに注意が向いてしまうというのが本当の理由だと思います。

風薫る季節、どの教室も窓を全開に開いています。心地よい風に、まとめられていないカーテンが大きく揺れ、注意が奪われやすい環境の条件が整ったところで、さらに校庭からドッと歓声が・・・。応援の声が絶え間なく続き、ようやくひと段落ついたかと思うと、今度は別の競技の練習が・・・。これでは、集中するなと言わんばかりです。

特に、前回の記事(2008年5月15日掲載、「中学校-不登校-授業スタイル」)でもお伝えした「聞き取る力」の弱い子にとっては、この時期の授業に集中することは難行苦行に近いイメージを抱かせます。

「聞き取る力」を少し専門的に解説すると、「音の選択的注意」ということばで説明できます。通常、耳は脳と協同して、必要な音(目的音)と必要でない音(雑音)を選り好みし、聞き取るべき音だけに対してラジオのチューニング合わせのような機能を発揮します。チューニング合わせがうまくいかなかったり、せっかく合わせたチューニングがすぐにズレてしまったりする子は、「音の選択的注意」が弱い、「聞き取る力」が弱い、と記述されます。

音の選択的注意が弱い子の特徴は以下の3点です。

(1)雑音も、目的音も等価に(同じ価値ある音として)入力されてしまう。
(2)重要でない音を、無視できない。
(3)雑音が多いと、途端に聞き取り能力や集中力が落ちる。

私の専門教科は「保健体育」です。だから運動会の練習は思いっきり盛り上げたい、これが本音です。でもこの時期に運動会を行うリスクも考えなければなりません。比較的、心地よい季節に練習できるという反面、窓全開の教室で行われる授業の妨げになりかねないというリスクです。

あとは学校予算との兼ね合いになるとは思いますが、もしこの時期に教室にあるクーラーを使わせていただけるのであれば、教室の内外の環境はしっかり棲み分けができて、互いに快適な授業環境になるのですが・・・、やっぱり難しいでしょうか。

このほかにも、勝ち負けにこだわってしまう子、運動が苦手な子、聴覚過敏のある子、特別時間割などの予定の変更が苦手な子など、運動会前や当日に配慮が必要な子もいます。

あらためて言いますが、特別支援教育は、特別な支援を必要とする子なのか、そうでない子なのか、といった分類の発想に立つものではありません。その本質とは、内田雅志先生(北海道大学大学院教育学研究科附属子ども発達臨床センター)の言葉をお借りすれば、「必要な人に、必要なとき、必要な“特別扱い”をすること」だと思います。運動会というイベントや時期限定の支援は概して見落とされがちなものですが、実はとても有効的な支援なのだと見直す学校が増えてくれることを期待しています。

川上 康則(かわかみ やすのり)

東京都立港特別支援学校 教諭
障害のある子どもたちの指導に携わる一方、特別支援教育コーディネーターとして小中学校を支援してきました。教育技術の一つとしての「特別支援教育」を考えていきます。

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