良質な授業、学級経営は準備時間の過ごし方を見ればわかる
どの学校にも、授業が終わると次の授業との間に「数分の準備時間」が存在していると思います。
その「数分の準備時間」をどれだけ大事にしていますか?
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭 石川 雄介
準備時間を制す者は授業を制す
授業参観をしていて「この学級は雰囲気が良くてまとまりがあるな」「あ、この授業はきっと成功するな」と思える瞬間があります。様々な判断要素がありますが、その中の一つとして準備時間の過ごし方が関わっています。あなたは準備時間をどれだけ大切にしていますか?
私は準備時間を授業時間と同じぐらい重要視しています。授業の準備を上手に行っていれば、授業の内容もぐんと良くなります。準備時間を上手く活用することで、学級経営もぐんと良くなります。準備時間の過ごし方には二方向からの視点があります。
児童目線の「準備時間の過ごし方」
まずは、児童目線からの「準備時間」の過ごし方です。皆さんは児童にとっての準備時間をどのように位置づけしていますか?
声かけをしていますか?
私は、準備時間とは「身体の準備」と「授業の準備」をする時間だと考えています。
具体的に「身体の準備」とは、授業を受けるために整えるべき身体の状態のことを指しています。授業中にトイレに行きたくならないように、事前に済ませておく。授業中に喉が乾かないように、事前に飲んでおく。当たり前のことであり、何も難しいことはありませんし、どの先生も児童に伝えていると思います。
しかし、これらの準備を「授業を受けるために身体を整える」と位置付けて児童に伝えることで、なぜこのような準備をしないといけないのか腑に落ちると思います。映画館で映画を観る前に身体を整えるのと同じだと思います。
ちなみに私は何かしら活動をするときは必ず理由を伝え、なぜこのような活動をするのか、何のために行うのかを理解させることに重きを置いています。この「腑に落ちる」という感覚があるかないかで、児童の行動力は大きく異なると思います。
もう一つ「授業の準備」とは、その言葉通り次の授業の準備です。しかし、大切なのは次の授業の準備の質です。机の上に次の授業の教科書、ノートを置かせるだけでは足りません。質の高い準備は授業を大きく支えてくれます。
まずはノートの準備です。①日付を書く②単元名を書く③めあてを書く枠を作る④必要であれば縦線を引くーーなど、次の授業に必要な内容を準備時間中に全て書かせます。
学習計画表を作成しているときは、自分で表を見て自分の言葉でめあても書かせています。
次に教科書です。教科書は開く準備をする時と開かない準備をする時があります。例えば、国語で新しい単元を学習する時は準備時間中に教科書を開きません。算数の授業の時も同様です。これらは新しい学びにワクワクさせたり、教科書を見て単元名や問題から話の内容や答えを予想してしまわないようにするためです。先に把握してしまうと、教師の第一声の発問の質も落ちてしまうと思います。
逆に教科書を開く準備をすべきときは、国語の単元学習の第二時以降だったり、教師が教科書を事前に開いた方が授業が円滑に進むと判断している内容だったりするときです。
特に国語では、前の授業の続きとなる段落があるページを開かせています。私は児童に教科書を開く目安として、「電子黒板に先生がデジタル教科書を開いていたら、それが合図です」と伝えています。今では児童にこの考え方が定着し、電子黒板に出す前に自ら思考して必要なページを開くことができています。これは低学年でも実践できました。必要なことは、思考することをルーティン化させることだと思います。
さらに授業の準備として必要なことは、タブレットの準備です。準備時間中にタブレットを起動させ、デジタル教科書を開いたり、作成途中のスライドを開いたり、先生から送られたURLを開いたりなどを行わせています。「授業の準備」として、「ノートの中身の準備」「教科書を開く準備」「タブレットの起動」などを細かく行わせることが大切です。
このように、児童目線の「準備時間」では、「身体の準備」と「授業の準備」をして過ごすことが大切です。
教師目線の「準備時間の過ごし方」
もう一つの視点は教師目線からの「準備時間」の過ごし方です。
まず、黒板の準備です。児童にノートを準備しなさいと伝えているのであれば、先に教師がそれを示すべきです。児童のノートと同じように、先に述べた①~④を黒板に書きます。
次に、電子黒板の準備です。これも先に述べたように、電子黒板にデジタル教科書を出すことで教科書を開く必要性の有無のサインを送ります。算数のデジタル教科書の場合は、授業中に活用する内容や問題をクリックし、下に小さなタブとして順番よく準備します。社会や理科などのときは、見せたい動画や資料などを事前に準備します。
そして可能であれば、身体の準備です。可能であればと記述したのは、宿題のチェックや授業準備を怠っている児童への声かけ、何かしらの忘れ物や嫌なことがあったことを伝える児童の対応、不登校児童への対応など、授業以外の内容をこなすのも「準備時間」内に入っているからです。優先順位を決めながら「準備時間を上手に過ごす」ことが教師には求められていると思います。
このように、教師目線の「準備時間」では、「授業の準備」と「その他の業務」、「身体の準備」をして過ごすことになります。
「準備時間中」に児童目線と教師目線の準備の両方をしっかりと取り組むことで、落ち着いた良質な授業を行えると思います。お互いに準備をする「準備合い」を私は大切にしています。
最初に述べた「あ、この授業は成功するな」という感覚は、授業が始まる前の準備時間にまで気配りできていて、双方がどれだけできているのかを見て感じています。もちろん、研究授業の時だけ綺麗に準備するのではなく、日頃から準備を心掛けることが大切です。その場限りの準備は諸刃の剣ですぐに分かってしまいます。
準備時間を制す者は学級経営を豊かにさせる
「準備時間」を大切にする学級は、様々な場面での準備を大切にする力を身につけられます。
遠足や修学旅行などの校外に出る時に、「次の活動は◯◯だから、先にこれをしておこう」と思考が働き、先を見て行動・準備することができます。運動会のリレー本番までの段取りを決めて、順番決めや練習、修正などの計画を準備して考えて行動することができます。
もちろん、日頃の学校生活において、ほとんどがテンポ良く進んでいきます。移動教室や全体集会などで整列して移動する際も、自分たちで時計を見ながら自ら整列し、列を整え、移動を開始します。
授業に必要なタブレットや描き途中の画用紙などを給食代に並べ、みんなが取りやすく並べることができる。しかも、名前が見えやすく置いてあげたり、向きを揃えたりして並べることができる。
これらは全て自分たちで自主的に思考し、行動しています。私がすべきことは、準備に対する思考の仕方を身につけさせることとルーティン化させることまでです。
「準備」を大切にするということは、先を見て行動する思考力が身につくということです。それを学級全体で身につけるとそのまま学級経営力に繋がり、学級全体で先を見て行動し、集団としてまとまりを生むことができます。学級全体で先を見て思考して行動し、計画・準備・実践をするときの学級力は凄まじいです。担任として「あ、私の出番はもうないんだな」と感じたときが、私の幸せです。
まとめ的な
今回、準備時間の大切さについてお話しましたが、児童に準備の大切さを一度説明しただけでは身につけることはほぼ不可能です。重要なことは教師の手でルーティン化させることです。最初は教師が声掛けをしたり、見本として教師が事細かい準備を実践したりすることが最も重要です。児童自身が準備時間を大切にしたいと思わせる環境づくりをすることが担任としての役目だと思います。
最近私が児童に対してよく伝えている言葉で、今回の投稿を締めようと思います。
「先生の仕事は、あなたたちが様々な力を身につけられる環境を全力で整えることです。身につけた力は今を生きるためではなく、もっと先の未来を生き抜くための力となります。今のこの環境を、この瞬間を大切にしてたくさんの力を身につけて自分の生活で、将来で活かしてほしいです」
何卒。

石川 雄介(いしかわ ゆうすけ)
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭
沖縄県の小学校教員として10年以上、子どもも担任も楽しむ学級づくりや授業づくりを研究しています。
私のモットーは「合いのある学級づくり」で、特に『思い合い、支え合い、学び合い』に重きを置いています。
また、授業や生活の中で他者尊重の心を育む仕掛けや子どもの興味を惹くアイディアを考えるのが大好きです。
効果的な掲示物の作成や子どもも担任も楽しめるアイディアなど、多種多様な教育場面について伝えていきたいと思います。
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