小学校700語問題〜見て見ぬ振りの英単語教育〜
5月の朝日新聞や雑誌AERAにおいて発表された「小学校700語問題」に関する記事が話題になりました。「小学校700語問題」とは、中学校の現場において小学校で習っているはずの既習の英単語が身についておらず、中学校の学習に支障が出てしまうことだそうです。
私たち小学校教員は漢字に関しては、書き取りの宿題を課したり、テストの補習をしたりすることも多いですが、英単語となるとそもそも書き取り練習をさせることすら稀です。果たしてこの「小学校700語問題」にどう向き合えばよいのでしょうか。
浦安市立美浜北小学校 教諭 齋藤 大樹
小学校での英単語の扱いについて
そもそも、英単語の数がなぜ700語とされているのかというと、外国語科の学習指導要領において授業で取り扱う英単語の数を600~700語とされているからです。ただし、これは、あくまで教師が授業で使う英単語の目安であるというのが誤解しやすい部分だと思います。改めて学習指導要領を確認しても、決して児童がこの英単語を書き取ることは求められていません。
外国語科となり、業者が作成したワークテストを使うことも増えてきました。こうしたワークテストにおいて英文を書くこともありますが、たいてい裏面などにヒントとなる単語が書かれています。テストの際には、この単語を書き写すことで英文が書けるようになっているのです。
複数学年で外国語を指導してみて
私は、今年度3年生2クラスの外国語活動と6年生の外国語科の指導を行っています。外国語活動のスタートである3年生と、小学校での外国語学習のゴールとなる6年生の学習を行っているので、2つの学習を比較しながら指導をしています。
決して小学校現場で英単語が軽視されているわけではなく、外国語活動で用いる教材『Lets Try! 』(東京書籍)には巻末にカード形式の単語が付いていたり、高学年の外国語科の教科書では単語がまとめられた辞書が別冊で用意されていたりします。二次元バーコードで音声を確認することができるので、上手に活用することができれば十分に単語を身につけることが可能ではないかと感じます。
前述したように、小学校では、英単語を覚えるために書き取り練習や単語帳などによる反復練習などを用いることはあまりありませんが、耳で聞いた英単語をリズムよく繰り返すことは一般的に行われています。
小学校教員としては盲点になっている「小学校700語問題」
試しに、数人の中学校の英語を指導する教員に聞いてみると、小学校での英単語学習に対して不満をもっている方が多い印象を受けました。公に言うことはないものの、心の片隅に「小学校で習う単語は、ちゃんと書けるようになっていてほしい」という思いを持っていました。もちろん、私が直接確認した教員は数名にしか過ぎませんから、多くの中学校教員の意見というわけではありません。
しかしながら、陰山メソッドや百マス計算で有名な陰山英男さんのツイッターにも、「覚えてるはずとされる英単語の数は七百だけど、聞いたことがある程度でとにかく読めない、書けないとかで先生も途方にくれてるとか。たいへんだなあ。」(原文引用)というツイートが投稿され、多くの中学校教員や保護者の賛同する意見が書かれていました。
小中をどうつないでいくか
今回のニュースを受けて、改めて中学校の英語の教科書を確認しました。すると、確かに新出の英単語というよりも既に小学校で習っている単語として取り扱われている印象を受けます。
中学校でもコミュニケーションが主体となってきていますが、期末テストなどでは依然としてペーパーテストも行われています。一つのスペルが違っていると点数にならないでしょうから、小学校での英単語の取り扱い方との違いにギャップを感じるでしょう。「中一ギャップ」となる原因の一つになっているのかもしれません。
様々な手法で英単語に慣れ親しませる
英単語の習得に関しては、語学の研究者や英語指導者が多種多様な意見を述べています。「フォニックスが大切」「目で視覚的に覚えることが大切」「語源が大切」「何度も粘り強く書くこと」「チャンツで覚える」といったこれらのアプローチの中でどれを選べばよいのか、どこまで身につけさせればよいのかということが本当に難しいと感じます。
そこで、私は、小学校6年生という中学校進学を見据えた学年を指導するにあたって、英単語を様々なアプローチから取り扱うことにしました。一つの例として行っているのは、キーボード練習と兼ねて英単語のタイピングをすることです。
マイタイピングというホームページを用いてタイピング学習を行っている学校は多いと思います。16万を超えるタイピングの題材があるのですが、その中に小学校での英単語も用意されています。マイタイピング内の検索バーにて、「英単語 野菜」などと検索をすると、日本語の意味と共に英単語のタイピングが出てきます。
タイピング練習は書き取りに含まれるのではないかという意見もあるでしょうが、英単語への多様なアプローチの一つとして捉えていただき、時折子どもたちに実践させてみるのはいかがでしょうか。
また、ゲーム性を高めた英語の学習サイトも好評でした。「Duolingo」という世界で5億人以上のものユーザーを抱えている言語学習サイトがあります。こちらのホームページはユーザー登録なしでも気軽に行えることができます。数分で英単語や英語の語順を楽しく学べるので、隙間の時間に行うことができます。英会話力のレベルごとに様々な種類の問題が出てくるので、個別に最適化された学習を行うことができます。
ALTの先生と共に数人の児童の会話練習を行っている間、他の子が手持ち無沙汰になることがあります。そうした際に、こちらのホームページを用いたところ、子どもたちの反応もとても良かったです。
終わりに
今回は単語700語問題を受けて、一人一台端末を活用して英単語学習に様々なアプローチを取ることを提案しました。海外のサイトを見ると、ネイティブの幼児向け英単語学習サイトなども数多くあります。こういったものは活用できそうなものも多いので、ぜひ利用してみてはいかがでしょうか。
今回もお読みいただきありがとうございました。
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齋藤 大樹(さいとう ひろき)
浦安市立美浜北小学校 教諭
一人一台PC時代に対応するべくプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
現在は小規模校において単学級の担任をしており、小規模校だからこそできる実践を積み重ねています。
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