2020.03.18
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休校だから、"なにもしない"ができるんだ。

名作「くまのプーさん」の続編「プー横丁にたった家」のラストシーンで、主人公のクリストファー・ロビンはプーさんにこう言います。「ぼくはもう、"なにもしない"でなんか、いられなくなっちゃったんだ」。

東京都内公立学校教諭 林 真未

ぼくがいちばん好きなのは……。

物語のラストシーンで、クリストファー・ロビンは、大好きな「”なにもしない”でいる」ことができない、つまり、もう自分は子どもではいられないことを、プーさんに伝えます。
翻って言えば、「“なにもしない”をする」特権があるのが子どもだということ。それは成長に伴って、少しずつ奪われていく、たいせつな時間。
私の子育て上手な先輩も言っていました。
「良かれと思ってたくさん絵本を与えたけれど、今思うと、1冊与えるくらいで育てればよかった」
彼女は、子どもになにかを与えることで、子どもから「“なにもしない”をする」時間を奪ってしまった、と後悔していたのです。

休校は“なにもしない”をするチャンス

プーさんの物語が描かれたのは、もう100年も前のこと。現代の日本では、子どもが“なにもしない”をできる状況は、著しく奪われています。
早期教育の名の下に小さい頃から習い事があったり、逆に、子どもだから外で元気に遊びなさいと言われたり。

学校は津々浦々に整備されたし、技術の発達は、誰にでも動画やゲームあるいは情報・通信を楽しむ機会を与えました。
休校措置の是非は置いておくとして、現実には学校が突然なくなった今は、現代の子どもに降って湧いた、 “なにもしない”をするチャンス。
友達とも遊べない。外にも出られない。この上、親がデジタル機器を取り上げたら、もう、なにもすることがない。そう、今なら、“なにもしない”ができるのです。

大人たちから怒涛のプレゼント

ところが、学校からはたくさんの課題が言い渡され、さまざまな機関やいろいろな教育産業やデジタル企業は、休校中の子どものために、無償のサービス提供を申し出ました。
市民団体や個人のSNSでは、休校中の過ごし方や遊び方が、次々と提案されています。
どれもこれも、大人たちが子どものためにしてくれていること。世の中の人が、こんなに子どもを思ってくれていたとわかったのは嬉しいけど(だったら、普段からもっと優しくしてほしい笑)。
だけど、これじゃあ、せっかくの「“なにもしない”をする」チャンスが子どもから奪われてしまう。なんて思うのは、私が天邪鬼だからでしょうか。

子どもはゼロから楽しみを産み出す天才

学校で、子どもを相手にしていると、
「このルールだらけの、遊ぶ材料もほとんどない、学校というシチュエーションの中で、よくもまあ次々と楽しみを産み出すものだ」と日々感心することばかりです。
それらは、取るに足らない瑣末なことだったり、公にするのはちょっぴりはばかられることだったりするから、文字にも映像にも残らないのだけれど……。
子どもは、大人が想定するよりたくましいです。
家に閉じ込められる子どものストレスを心配する大人もいるけれど、私は、子どもを信じて、この「“なにもしない”をする」チャンスを、そのまま手渡してもいいのではと思っています。
(そもそも、家で過ごすというルールを多くの子が逸脱しているという噂もあります(^_^;)……)

校長先生、ゴメンナサイ

ある先生は、こう呟いていました。「主体的な子どもを育てているはずなのに、子どもは課題がないと学べないだろうって心配するのって矛盾してるよね」
なるほど!
子どもにこの期間に何を学ぶかをすっかり任せたら、どんな展開があったでしょうね……。
とはいえ、私も公立小学校の教師ですから、区教委の方針に沿って、教科書に沿った学習課題はちゃんと出しましたよ!提出不要の課題ですが、真面目な子や、親御さんがしっかりしている子は、もちろんちゃんとやるんだろうなあ。うん、それが正しいことです。
でも、大人の決めた課題そっちのけで、「“なにもしない”をする」を堪能し尽くす子がいてもいいんじゃないかなあ。って、お腹の底では思っています。

校長先生、ゴメンナサイ。

追記

以上は、一般的な子どもと家族を想定して書きました。
休校措置は、学校内のいじめに苦しむ子にとっては救いである一方、学校が逃げ場だった、虐待に苦しむ子にとっては、存在を脅かす状況かもしれません。いろいろな事情を抱える親にとっても、悩みは尽きないことと思います。

そういった場合には、また個別の考え方が必要であると思います。

参考資料
  • 「プー横丁にたった家」A・A・ミルン著 石井桃子訳 岩波少年文庫

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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