2019.12.14
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自分の「好き」を学問にする

私は今、大学で一つの「挑戦」に臨んでいます。
学生たちが自分の「好きなこと」を宣言して、その研究を極めることを大学での研究として認定。大学の教員には研究内容を合わせない。学生たちが日頃自分の生活の中で「もっと極めたい、もっと学びたい」と考えていることを、大学4年間に極めるべき「研究テーマ」とする---

札幌大学地域共創学群日本語・日本文化専攻 教授 荒木 奈美

私の専門は近現代日本文学と臨床教育ですが、学生の中には今自分が夢中になっているゲームを研究対象として取り上げる学生もいます。小さい頃から好きだった仮面ライダーを再び迎え入れたり、サークルで音楽バンドを率いてきた経験を形にしたり、現代文化の中で学生自身が享受してきた作品を扱うことが多いですが、「臨床教育」というカテゴライズの中で、その自分自身を研究対象とする学生も少なくありません。スポーツの世界に生きてきた学生が、そこで出会った師匠の教えをどう受け止めたか、とか、指導者としてどう引き受けていくかなどの自分自身の教育体験を研究対象として論じるというケースもあります。

こうした取り組みの中では、研究の深まりを助けるのは、何を置いてもまずは「研究者」本人の探究心と好奇心に他なりません。私も自分自身の研究テーマと合えば惜しみなく情報は提供しますが、基本は学生が自分の足で歩き、頭で考え、飛び込んで体験して、自分自身で開拓することが大切だと思っています。教師がすることは、学生たちがそのようにして大学の中に連れてくる研究の種を、毛嫌いせずにまずは大学での学問として位置づけること、そのスペースを用意し、その内容に興味関心を持ち、一緒に楽しむこと。

こちらもまた好奇心と探究心に支えられています。

学生は大学に入ったら、定められたカリキュラムに従って、必要な単位を修得し、しかるべき就職先を見つけて無難に卒業していく。それが大学生の鉄板。そんな考え方もまだまだ蔓延っていますが、私はこの考え方そのものを変えたいと思っています。本来学問は、生活の延長。日常の小さな発見の中に「もっと知りたい、学びたい」と思うことが詰まっています。日常の中にこそ学問の種を探す。その好奇心や探究心そのものを大事に育てて、膨らませて、彼らがこれから先もさまざまなことに出会う中で、そのちょっとした気づきや探究心、ワクワクした気持ちに素直に寄り添って、その都度新しいことを自分の頭で考えて、飛び込んで体験して、生涯学び続ける人であってほしい。自分の「好き」の延長に学問の世界はあるはず。

そんな好きなことだけしていて、将来どうするの。もっと就職に役立つ知識を提供したり専門分野の本来の学びをしっかり身につけないと大学で学んだ意味がないのでは。

そんな考え方もあるだろうけど、でもきっと、好きなことを形にしようとする中で得たプレゼンの技術や研究を深めるための努力そのものは、学生の自尊心や知的好奇心を育てる格好の教育の機会だと思います。実際に学生たちは、そのような日々の中で、少しずつ、学問に向かう姿勢における主体性を取り戻しているように見えます。一人ひとりが、大学の中で、自分にとっての知の世界地図を広げていく主人公として、ひとり歩きし始めているように感じています。

そして今期はついにこの「好き」のもつ魔力を高校生にまで広げたいと、近隣の高校生とのコラボ授業をスタートさせました。高校生が大学生に向けて自分の研究したいテーマを発信。大学生はそれぞれの高校生と、彼らの「好き」で繋がる。高校生よりも大学生の方が知っていることは惜しみなく与えるし、その逆で高校生に大学生が教えられて新しい世界を知るということもある。そのような「好き」を中継点とした学び合いの中で、相乗効果として高校生と大学生の学問に向ける主体性を育むドリーミープランです。

このおそらく全国初の取り組み(高校生が検索した限りでは他にはないそうです)は、今月から第2期に入りました。前回の反省も踏まえながら、また新たなスタートを切っています!


荒木 奈美(あらき なみ)

札幌大学地域共創学群日本語・日本文化専攻 教授
高校で12年間、大学で8年半、たくさんの高校生や大学生と主に文学作品を通じて関わってきました。自分の好きな漫画やアニメやゲーム、アーティストについて語るとき、彼らは本当に顔を輝かせて熱心に語ってくれます。自分の「好き」を極めたいと思うことは学びの原点。高校生や大学生の「学ぶ意欲」を引き出すために私たち教師ができることは何だろう。「主体的に学ぶ」学習者を育てるための教育のあり方について、今日も実践を通じて、探究を続けています。

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