「はじめに」
体育の日に向けて、運動会の練習が盛り上がっている学校もあるでしょうか。
今回は「子どもの育ちにつながる運動会の練習」というテーマで書きたいと思います。
「こらー、おまえら何やってんだー。何度言ったら分かるんだーっ!」と校庭でマイクを使って指導している場面を見たことがあります。
子どもの意欲は下がり、教師は自分の思い通りに練習の計画が進まず、イライラしているような状況です。
このような状態が良い学びにつながるはずはありません。
子どもの意欲は低くなりますし、地域の人からも言葉遣いの荒さなどからクレームが入ることもあるでしょう。
運動会の練習が、より良い学びにつながるようなヒントを「はじめに褒めること」「自ら課題を見つけること」「運動会の意義を話すこと」「成功からも失敗からも学びがある」の4つテーマで書きたいと思います。
少しでも指導のヒントになれば幸いです。
「はじめに褒めること」
運動会の演技(ダンスなど)は、子どもによって好き嫌いが分かれます。
団体で行動することが苦手な子どももいますし、体を巧みに動かすことが苦手な子どももいます。
運動会やそれに向けた練習のザワザワとした感じが苦手な子どももいます。
そういった子どもができるだけスムーズに練習に取り組めるように私がしていることが「はじめに褒めること」です。
ダンスの練習から脱落しそうな子どもを敢えて褒めます。
どんな子どもでも教師の見方次第で褒める部分は見つけられます。
集団行動が苦手な男児に「初めてなのに手や足の動きがしなやかだった」、体を動かすのが苦手な男児に「表情が真剣で素晴らしかった」などです。
学年全体の前で褒めるのがポイントです。
クラスの中、学年の中で、問題が発生しそうな子どもをしっかりと褒めることによって、その子どもが「いい気分」で練習に取り組めるようになります。
先ほど書いたようなダンスの練習などが苦手な子どもは、多くの場合、練習のはじめの部分で引っ掛かります。
そして、その後の練習においてもうまくいかないことが出てきて、徐々に意欲が低くなっていくというパターンが多いです。
トラブルの原因である「はじめの部分」で、しっかりと意欲を維持できるような関わりができるかが大事になります。
脱落しそうな子どもを事前にしっかりとフォローしておくことで、練習の中盤でのトラブルが減っていきます。
昨今の学校教育においては、運動会の練習に掛けられる時間も限られています。
そういった状況の中で、「効率的」な指導をしていくことが求められています。
「はじめに褒めること」でスムーズな指導ができる可能性が高まります。
「自ら課題を見つけること」
先ほども書いたように運動会の演技(ダンスなど)は、子どもによって好き嫌いが分かれます。
どうしても教師から指導されることが多く、子どもの意欲の高まりが見られないこともあります。
今回の運動会の練習(小3)で私が取り組んでみた方法があります。
それは、「課題を自分たちで見つける」というものです。
ダンスの練習が一通り終わった段階で、給食の班(8つ)にそれぞれ担当のパートを割り当て、その部分の問題点などを考えてもらうというものです。
例えば、1班は「待機から入場」、2班は「1番のおどり」、3班は「1番の後の移動」などという形です。
練習の後に少し相談する時間を設け、各班に問題点、良かった点などを考えてもらい、それを発表してもらいました。
子どもたちの指摘は、全てが的を得ており、私が付け加えるようなことは一つもありませんでした。
教師が、「ここが悪い、あそこが悪い」と言うよりも、子どもたちに考えさせ、伝え合わせた方が、物事がスムーズに運びます。
練習の前には、それぞれの子どもが、「○○さん、△△のところ、気を付けてね。」などと互いに声を掛け合っていました。
質の良い「学び合い」ができていたと感じます。
運動会のダンス以外にも応用できることがあると思います。
「運動会の意義を話すこと」
小学校の運動会は子どもにとって重要な行事です。
運動会は子どもが走ったり、跳んだりするだけのものではないのではと私は考えています。
人生においては、もっと重要な行事(出来事)もあります。
例えば、小学校の卒業式、高校入試、就職試験、結婚式などです。
仕事での商品のプレゼンなどもそれに当たるかもしれません。
そういったこれから起こる人生の本番においてできるだけスムーズに、平常心で取り組むことができるようにするために小学校の運動会を利用したいと考えています。
運動会が、生から死への人生の連なりの一部分であるということを意識させます。
本番に向けて体調を管理すること、緊張をほぐす方法を身につけること、失敗から学ぶことなどが重要であることを伝えます。
それらは、今回の運動会だけではなく、これから先の人生の大事な行事の時でも同様に大切になるものです。
「高校入試」という人生の一大行事において、しっかりと体調管理ができ、万全の体調で試験に臨めることは大事なことです。
もしインフルエンザで39度の熱があったら、試験では自分の力を十分に発揮できないことが予想されます。
高校入試や大学入試での合否は、その人の人生に少なからず影響を与えます。
そういった大事な日に万全な体調で臨むことができるようにするための練習が今回の運動会に向けて体調を整えることなのです。
人生における大事な行事で、自分のパフォーマンスを十分に発揮できる人は、良い人生を送ることができる可能性が高くなります。
逆に、本番において、過度の緊張や体調管理のミスで万全の状態で挑戦できない人は、その人の能力をきちんと把握してもらうことができない可能性が出てきます。
このように、そういった「本番」を意識し、それに向けて「体や心を管理すること」が人生において大事なものの一つであるということを子どもに伝えていきます。
運動会を含め、学校で取り組んでいる様々な活動の究極のねらいは、「より良い人生を生きて欲しい」というものだと私は理解しています。
運動会が良い学びの場になってくれたら嬉しい限りです。
「成功からも失敗からも学びがある」
運動会では、過度に勝ちにこだわらない方が良いと私は考えています。
勿論、全力で取り組んだり、上手にできるよう工夫したり、練習したりすることは大切なことです。
子どもが仲間とより良くするために相談することなどから学ぶことはたくさんあります。
しかし、それが強くなり過ぎ、勝つことばかりに意識がいくようではあまり良くありません。
特に教師が勝ちにこだわり過ぎると学級の雰囲気が少し変になります。
そういった状況では、苦手な子どもをフォローしようというような感じではなくなってきてしまいます。
「何やってんだよ」「もっとしっかりやれよ」
こんな言葉が他の子ども達から、特に担任から出てくるようになると状況は良くありません。
そういったことが進むと、体に障害のある子どもなどがそのクラスに加わりにくくなります。
小学校では、特別支援学級の児童が様々な形で普通学級の活動に参加をしています。
運動会の競技などにも一緒に参加します。
もし勝ちにこだわり過ぎると、そういった子ども達を歓迎しないような雰囲気になってしまいます。
「あの子がいなかったら勝てるのに・・・」
子ども達がそのようなことを思ったり、実際に発言したりすることになります。
これでは、本来、学校教育が目指しているものとは、逆のこととなってしまっています。
「どんな子どもも良い学びができるように」ということが、今の教育で求められているものです。
「特別支援的配慮」「ユニバーサルデザイン」などは、そういった考えに由来するものです。
高校野球で、甲子園で優勝できるのは、1校だけです。
全国の数千の高校の中で最後まで勝ち続けることができるのは、1校だけです。
残りの多くの学校は、結局、負けてしまうことになります。
「勝ち」だけにこだわった指導では、どこかで無理が生じます。
同様に人生においても、「勝ち」ばかりではありません。
普通は、「勝ったり、負けたり」でしょう。
良いことがあれば、悪いことも起こります。
それが人生でしょう。
そういったことを運動会を通じて、子ども達に伝えていくことが大事なのだと思います。
負けたなら、何故うまくいかなかったのかを考え、次に生かす。
勝ったなら、何故うまくいったのかを考え、次に生かす。
勝っても負けても、その経験から何かを学び、それを次に生かしていく。
運動会をそういった場としていくことが大事なのだと思います。
これは、運動会だけの問題ではないとも感じます。
漢字テストなども同様でしょう。
100点を取ることは大事なことですが、そこにこだわり過ぎると問題を生じさせることがあります。
カンニングをしてしまったり、100点が取れなかったら感情が乱れ暴れ出したりでは、困ってしまいます。
漢字テストに向けて、努力をすることは大事なことです。
その上で、その結果をきちんと受け止め、次に生かすことができるよう取り組めば良いのだと思います。
「終わりに」
教師が運動会をどの様に捉え、どの様に子ども達に関わっていくのかということは、単に運動会のことだけではありません。
日々の教育活動をどの様に捉え、子どもとどの様に関わっていくのかということと同様なことです。
教師が、教育に関する感性を高め、日々「より良い教育とは何なのか?」ということを考え、実践していくことが大切なのだと思います。
教師の指導も、うまくいくことばかりではありません。
うまくいっても、うまくいかなくとも、そこから学び続けることが大切なのだと思います。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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