2016.10.04
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働く意味を考える授業のリメイク~世代をこえた大切なテーマを誰にでもできる授業に!~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

1、授業をリメイクすることの難しさ

今期も執筆させていただくことになりました。
引き続きよろしくお願いします。

いきなりですが、みなさんは何のために働いていますか?
生徒に働く意味を考えさせる授業をするとき、どんな授業をされますか?
今回の原稿はそんなことを考えながら読んでいただければと思います。

本校ではCSL(キャリア教育授業)の中で、「働く意味を考える授業」をカリキュラムに入れています。
このことについては以前ここにも書かせていただきました。
https://www.manabinoba.com/tsurezure/19722.html
(働く魅力を伝える授業~キャリア教育授業の取り組みから~)

この授業は大変好評でしたが、私がJICA教師海外研修でサモアに行かせて
いただいたときの経験をもとに作ったという大きな弱点がありました。
誰にでもできる授業というわけではないのです。
CSLも4年目になり、いつまでも私にしかできない授業をカリキュラム
に入れるのはよくないと思い、今年度リメイクに挑戦しました。

リメイクするからには、クオリティーを上げないと意味がありません。
「働く」ことの意味はいろいろあります。働いてお金を稼がないといけないことは事実ですし、
そのためだけに働いている人もいるでしょう。
一方で結果としてお金を稼ぎながら、いい仕事をして輝いている大人もいっぱいいます。
そんな現実もふまえ、生徒たちが「働く」ことについていい印象を持ち、
「自分なりの働く意味」や「どんな働き方がしたいのか」を考える授業にしたいと思って授業を作りました。
一方で、この授業で考えたことが自分ごととなり、
普段の学校生活につながらないと授業の効果が半減することも事実です。


「授業をリメイクする」。思った以上に難しい課題でしたが、CSL担当2年目(教員3年目・数学科)
の徳地先生を中心として作り上げていきました。「なぜ学ぶ」の時同様、リクルートキャリアガイダンスの
山下編集長にも協力していただき、さらに今回はRITA-LABO(立命館・稲盛経営哲学研究センター)
という助っ人もあらわれました。

2、「働く意味を考える」ことは世代を越えた課題

ある研究会での話です。民間企業の人材育成にかかわっている方から、
「働く意味を考えるということは大人にとっても大きなテーマである」と
いうことを教えていただきました。実際多くの企業から
「働く意味を考える研修が必要である」という声を聞くとのことでした。
働く意味について、自分の柱となる考えがないと、
営業の数字など目先のことばかり見てしまうということです。
特に中堅の幹部候補生にこそ働く意味を考える研修は必要という声も
あるということでした。実際自分自身、稲盛経営哲学研究所の方の
リサーチ結果を聞きながら、働く意味を実感できた時の社員の変化、
結果としての会社全体のいい意味での変化も感じました。

そんなとき大学の就職支援にかかわる方から、「大学生にとっても、
自分が何のために働くのかを考えることは非常に重要なテーマだが、
案外扱う場がない。キャリアセンター主催のイベントはどうしても
就職対策や自己分析などが中心となってしまいがちだし、
大学で働く意味を考える授業は聞かない。その結果多くの学生は、
自分にとっての大事な柱である「なぜ働くのか」をあまり考えず就職
しているかもしれない。」ということを聞きました。
一部の例を過度に一般化してはいけないとは思いますが、
「なぜ働くのか」ということは高校、大学、社会人、すべての世代に
共通した大きな課題なのかもしれません。みなさんはどう思われますか?   

人は人生の多くの時間を働くことに費やす、これは紛れもない事実です。
そして確かに生きていくためには働いてお金を稼がないといけません。
でもただお金を稼ぐためだけに働くのと、働く意味を実感して働くのとでは、
働くことへの充実感はもちろん、人生への充実感も変わってくるのではないでしょうか。

”私たちが「生きる意味はあるか」と問うのは、はじめから誤っている。
私たちは意味を問うてはならない。人生こそが問いを出し、私たちに問いを提起している”。
「それでも人生にイエスという」でV.Eフランクルが述べていたことです。
ナチス強制収容所という究極の環境から見出した彼の主張は重いです。

“私たちは問われている存在である”。
こう考えたときに、「働くことの意味」も同じで、実は私たちが問われていることなのでしょう。
だとすれば、「なぜ働くのか」という問いは一度だけでなく、
人生の中で繰り返し自分に問うべきことです。
そのはじめの一歩として、高校生への「働く意味を考えさせる授業」には大きな意味がある。
このようにも思います。

 

3、作った授業を試行する

「働く意味を考える授業」は高校1年生対象に、10月~11月にかけて3週間実施します。
しかしいきなり実施する前にまずは仮完成させて、授業を試行してみよう。
このように方針を立て、高校2年生20名あまりに協力してもらい、
7月14日(木)の放課後、作った授業を試行しました(120分)。

授業の目標、生徒の感想を以下に紹介します。
私たちはどんな授業をしたと思いますか?

<目標>
1、働くことの魅力に気づき、自分はこのように働きたいという思いを持つ
2、働くことは価値の提供ということに気づき、
  自分が提供できる(したい)価値を考える(自分ごとにする)
3、働くことは生きることということから、目の前の学校生活で
  頑張れることに気づく(目標を持つ)

<印象に残ったこと(多かったもの)>
・レジ打ち女性
・日本一のパパ
・パートの女性
・超つらいけど、超楽しい

<生徒の感想>
・世の中にはいろいろな考え方の人がいるのだと思った。
 自分も将来のことを考えなきゃいけないと思った。
・働く=お金をいただくと思っていたが、お金、人、家族、幸せと多様な
 考えを持つようになり、日々の行動ひとつにも意味と結果があるとわかった。
・仕事ではつらいこともある中に、「楽しさ」「やりがい」を感じて続けていることがすごい。
 今「頑張るくせ」をつけておけば、社会でも活かせると思った。
・働くことについてのとらえ方が変わった。とりあえず今は勉強を頑張ってやりたいことを見つけたい。
・改めて働くことの大切さに気づくことができました。お金だけじゃなく、
 やりがいを見つけて自分が納得できるような行動をすることが大切だと感じました。

なおこの授業の様子は、キャリアガイダンス10月号(10月10日発行予定)に
掲載していただく予定です。また授業の一部を11月5日に実施する
キャリア教育研究会の中で公開します。

どんな授業になったのか、その背景にある考えは何か、
このあたりはぜひキャリアガイダンスでご覧ください。
そして授業を見たい方は研究会にご参加ください。

お読みいただきありがとうございました。
今期もよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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