教育トレンド

教育インタビュー

2020.07.20
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加藤 崇英 クリエイティブな専門職集団
「チーム学校」

連携協力、働き方改革の先へ

茨城大学教職大学院の加藤崇英教授は、教育学においては、子どもたちを対象とする研究が多い中で、学校経営や学校組織の在り方を専門としている。「学校における働き方改革」が目指す学校の姿や、実現するための課題、また、新型コロナウイルス感染症の拡大抑制を目的とした、突然の全国一斉休校要請に対して、どのような対応をした教育委員会・学校の評価が高かったのかなどについて伺った。

働き方改革で教員の専門性を高める

茨城大学教職大学院 教授 加藤崇英氏(Zoom上で撮影)

学びの場.com2019年1月に文部科学省から「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中央教育審議会答申)」や「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」が出されました。これは、2015年12月に打ち出された「チームとしての学校」が、まだ十分に浸透し機能しているとは言えないということなのでしょうか。

加藤 崇英うまくいっている学校もあれば、そうでない学校もあるでしょう。学校や地域によって課題が異なるため、どこでも同じチームにすればいい、ということではないところが一番難しいと思います。

学びの場.com「チーム学校」とは何か、改めて教えていただけますか。

加藤 崇英教職員の学校内外との連携協力が基本で、これを「チーム」と呼んでいます。このこと自体は以前から言われており、「大切だね」と理解もされていて、何が新しいのか、と言われたりもします。新しいところは、「何でも屋」「丸抱え」から脱却し、各教職員がそれぞれの「専門性」に立脚して、そのうえでのチームだということですね。イメージしているのは「チーム医療」です。医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士などが、それぞれの専門性を発揮して連携するように、教師もそれぞれの専門性を高めて「チーム」で対応していこう、ということです。

学びの場.com海外では授業は担当せず、生徒指導・進路指導・成績や出欠の管理だけを行うような教職員が配置されていますね。これは日本でも取り入れられないのでしょうか。

加藤 崇英生徒指導や進路指導の分業については、例えばアメリカはカウンセラーの文化があり、それと同時に個人主義や個別対応の文化があるからこそ成り立っているのだと思います。日本は学校に限らず、1人1人の職務範囲が明確でない「大部屋主義」の文化なので、伝統的に「教師は教科指導だけでなく、責任を持って子どもたちの面倒をすべてみる神聖な仕事」という考え方があります。子どもの側も、スクールカウンセラーがいたとしても、まずは身近な先生に相談することが多いでしょう。そのため、生徒指導や進路指導をそれぞれ業務として確立しようとする動きが弱いのではないでしょうか。海外の教員とは、待遇面でも違いがあり、単純に比較はできませんが、担任に集中し過ぎないよう、いろいろなルートから支援する仕組みが働くようにすることが大事です。

学びの場.comプリントの印刷や消耗品の管理を行うスクールサポーターや、ICT機器の準備をするICT支援員のような専門スタッフがいる学校もありますね。

加藤 崇英規模の大きい学校であれば、常勤の授業準備支援スタッフを置くこともできますが、コーディネートや指示の負担も増えるので、 どんどん分業して専門スタッフを増やすことが一概にいいとは言えないでしょう。今いるメンバーで校務分掌を見直し、効率化を図ることも「チーム学校」です。

学びの場.com給食費や教材費を学校ではなく、教育委員会に収める自治体も増えているようですね。

加藤 崇英現金を数えるのはもちろん教員本来の仕事ではありませんが、何でもどんどん切り離していけばいいかというと、そうもいきません。給食費や教材費がきちんと収められていれば、子どもの家庭環境に大きな問題は無さそうだというサインにもなります。掃除や給食は教員が一緒にやる必要はないのではないか、とも言われますが、そこで得られる情報もあります。改革を進める際には、学校や教員が介在しなくなったことで、従来なら見つけることができた子どものサインを見逃すことのないよう、それを補う別の方法も同時に検討する必要があります。

「チーム学校」「働き方改革」は教育の質向上へのステップ

学びの場.com「チーム学校」を成立させるために適正な学校の規模というものはあるでしょうか。

加藤 崇英学校の規模は、非常に難しい問題です。例えば、小学校で各学年3クラスに、特別支援学級2クラスが理想だったとしましょう。しかし、それを10年、20年と維持できるかはわかりません。子どもの数は、少子化で減少する一方で、大規模なマンションなどが建設されれば一時的に急増します。教育委員会が定期的に学区の見直しを行っていますが、近年はいじめや不登校、また近くの中学校にはやりたい部活動が無いなどの対応策として、学区の縛りも緩やかになっていますので、規模を揃えるのは難しいでしょう。小中一貫校や幼小中一貫校が増えてきていますが、市町村の範囲内で行える、規模を維持する策でもあります。

学びの場.com2019年12月に出された「新しい時代の初等中等教育の在り方 論点取りまとめ(中央教育審議会答申)」では「2022年度を目途に小学校高学年からの教科担任制を本格的に導入すべき」とされました。

加藤 崇英専門性を高めるということは、自主的に判断して動く裁量を持てるということです。教科担任制にすれば、すべてのクラスの学習進行状況を1人でコントロールできるので、従来行われてきた他クラスとの調整のための打合せも減らせます。これは、教員の労働時間を削減する働き方改革につながっていくでしょう。

学びの場.comこれも1学年1~2クラスの学校では難しそうですね。

加藤 崇英そうですね、教科担任制も実現が容易なわけではありません。1学年3クラスある学校でもなかなか難しいと思います。まず、学年単位で時間割を組まなくてはならず、教頭や教務主任による調整が必要です。さらに、教科担任の力量によって、教育の質が変わってきます。また、教科担任制に対して保護者への説明も求められるでしょう。小学校には国語や社会に比べ、算数や理科を専門に学んできた教員が少ないという事情もあります。

学びの場.com「学校の働き方改革」「チーム学校」の推進には、さまざまなハードルがありますが、学校現場の変化が楽しみですね。

加藤 崇英「働き方改革」「チーム学校」は、取り組むこと自体に意義があります。現場の教員たちは過重な労働によって疲弊しています。この状況を打破するために、まずは今のリソースを駆使して働き方改革ができないかを検討し、一つの施策として考えられたのが「チーム学校」です。何か手を打たなければ、現状は変わりません。「チーム学校」がうまく機能するようになっても業務総量が減らず、パフォーマンスが上がらない、新学習指導要領の実施が困難ということであれば、それによって、国が予算を増やして教員を増やし、1クラスの40名の定員を減らすといった、より大きな改革へとつながる可能性もあります。「チーム学校」は、よりよい学校や教育の在り方を目指すための布石の一つと言えます。中学校の新学習指導要領の始まる2021年度の末を目途に、この改革の成果を検証すべきです。

コロナ禍では「待たせる」リーダーシップが求められた

学びの場.com学校の組織や仕組みを変えていく難しさがわかりました。今回の突然の休校要請では、現場に混乱が生じましたね。やはり組織の問題だったのでしょうか。

加藤 崇英この休校措置は教育行政が不測の事態に備えて改革してきた仕組みが機能した一つの成果です。2011年の東日本大震災後、首長が地域の状況に応じて教育に強く関われるような体制づくりを進めてきました。それがなければ、2月27日(木)夕方に要請されて3月2日(月)から休校という今回のような迅速な措置は取れなかったはずです。従来であれば、公立学校でいえば、国→都道府県→都道府県教育委員会→市町村→市町村教育委員会→学校と下りて来るのに時間がかかったでしょう。休校措置自体の政治的判断の是非はわかりませんが、まったく前例のない事態にはあれしかできなかった、明確で十分な代替案は無かったと思います。

学びの場.com学びの場.com で実施した休校対応に関するアンケート調査では、教員の方々から校内のリーダーシップを課題にあげる声も少なからず寄せられました。

加藤 崇英今回のようなことは教育委員会の指示に従う必要があるので、管理職(校長・副校長/教頭)に理想のリーダーシップを求めるのは酷だったように思います。インターネットやSNSが発達した現代では、各層の行政機構の発信を全ての人がリアルタイムで受け取るので、正式な通知が後手に回ってしまったのもやむを得なかったでしょう。

反省すべき点をあえて指摘すると、それは「焦って、対応を決めるのを急ぎすぎた」地域があったことだと思います。学校がいつ再開できるか見通しも立たず、子どもたちや保護者への対応も十分に検討されないまま、とにかく2月28日(土)、3月1日(日)に全教職員が出勤して、3月2日(月)に渡す大量の宿題を用意した学校もあると聞きます。そうではなく、まずは制度改革で権限を強化してきた教育長のレベルで「準備が整うまで、待ってください」と明確なメッセージを保護者や地域住民に発信し、学校では教員が、限られた時間ではありますが話し合い、納得して家庭学習課題を準備するなり、分散登校させるなり、感染者の出ていない地域では早めに再開するといった判断ができるようにできれば、混乱は少なかったのではないでしょうか。説明責任を伴った「待たせる」リーダーシップが十分だった地域、不十分だった地域があったということではないかと思います。

学びの場.com学びの場.com で実施したアンケート調査では、保護者の方々から家庭学習課題などが学校・地域によってバラバラであることに対する不安の声も多く寄せられました。

加藤 崇英普段から家庭学習がうまく機能していなかった学校も実際に多かったのではないかと思います。宿題に対して保護者が不満に感じていたり、教員も保護者の協力が得られないことに不満を持っているというような共通理解不足や協力不足に正面から向き合って解決しようとしてきた学校は、実は少ないです。研究テーマとしてもほとんど聞いたことがありません。また、年度末は総仕上げが終わっている状態なので、夏休みや冬休みに出すような課題を春休みに出す慣習が無かったということもあると思います。

学びの場.com文部科学省が発表した4月16日時点の調査で、同時双方向型のオンライン授業に取り組むと回答した自治体が5%しかなかったことも話題になりました。今後、オンライン授業ができる環境整備も急速に進められそうです。

加藤 崇英全ての学校に対する要求としては酷だったと思います。オンライン授業で知識を伝えることはできますが、字を書く、学ぶための作法、ツールの使い方を教えるなどはやはり難しいでしょう。教員は日頃、子どもたちの態度や仕草、学び合いの様子などから成長を実感し、それを大事にしています。提出物からわかることには限界があり、代替手段はまだ無いように思います。

学校組織のこれから

学びの場.com最後に、これから管理職を目指す先生方にメッセージをお願いいたします。

加藤 崇英さまざまな地域で多様な子どもたちを教育する学校は、間違いなくクリエイティブな場所です。これはどの業界にも負けないと信じています。特に小学校・中学校は、教員が教え、導き、新たな挑戦に子どもたちと取り組むチャンスがあります。そのような関係が持てれば、学校の可能性は無限に広がっていくはずです。そこに意義、魅力を感じる人にこそ、管理職になってもらい、学校の未来を作って欲しいと思います。

教職大学院に現職派遣されてくる40歳前後の学生からは、目の前のことを現場の論理・効率性に基づく決まったやり方に従って毎日を必死にこなしてきた様子が伺えます。強く持っている課題意識も、校務文書の効率的な作成や管理職をどうサポートするかなど具体的な課題解決に焦点化しすぎる印象があります。今月、今学期といった視野の中では余力が無くなり、学校運営が苦しくなります。課題を抽象化したり、2~3年という長期的な視点で物事を捉えられるように指導しています。

今回のコロナ禍で、教育・学校はなくてはならない、社会を支えている存在だということが、改めて認識されたと感じています。今回の混乱は、いかに学校がスケジュールに追われ、教員の仕事が窮屈であるか、そのことの裏返しと言えます。このような現状に対し、学校が努力していること、それによる成果や課題を“現場”から発信して、今後の教育改革を推し進めていこうという方に、管理職を目指していただきたいと思っています。

学びの場.com保護者の方にも、そんな学校や教員の姿を知ってもらいたいですね。

加藤 崇英学校は日常にこそ真価があると思います。そのため、保護者にも可能な限り学校を開放して、普段の授業や授業研究会、打合せなどを見せた方が、共感や信頼が得られると思っています。今年は特に、特別な文書を作ったり、参観日のために特別な授業の準備をする余裕は無いでしょう。教育長の権限で、教育委員会の学校訪問の際にも特別な準備は不要とするといいのではないでしょうか。現場の先生方には、日々の教育に自信を持って取り組んでいただければと思います。

記者の目

茨城大学の教職大学院には、将来の管理職を目指す教員が、現場に課題意識を持ち、その解決を求めて学びに来るという。しかし、教育現場の課題の抜本的な解決は、短期的な視点では難しいと加藤教授は語る。教員の働き方改革の一施策である「チーム学校」も、長期的な視点に立てば、日本の教育制度をよりよいものへと変えていくため、投じられた一石にすぎないのかもしれない。しかし、その一石が生んださざ波が、大きなうねりを生んでいくことを期待してならない。日々の業務に忙殺される教員の方々が、少し先の未来を見つめ、余裕を持って教育に取り組めるようになることを、切に願いたい。

加藤 崇英(かとうたかひで)

茨城大学大学院教育学研究科教授、教職大学院で学校運営コースを主に担当。研究領域は、学校経営、教育行政、教育制度。日本教育経営学会理事、同学会紀要編集委員。中央教育審議会初等中等教育分科会「チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業部会」委員、文部科学省「次世代学校支援モデル構築に関する調査研究/エビデンスに基づいた学校教育の改善に向けた実証事業」事業推進委員会委員、文部科学省「学校業務改善アドバイザー」。

取材・構成・文:学びの場.com編集部

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