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教育インタビュー

2017.11.15
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山田 暢彦 Classroom Englishを語る。

英語の練習が楽しくなり、意欲が生まれ、上達する好循環を生み出します。

山田暢彦氏はカリスマ的人気を誇るバイリンガル英語講師。大ベストセラー『中学英語をひとつひとつわかりやすく。』(学研)を監修するなど、中学英語指導の第一人者として教育界・出版界で高い評価を得ている。その山田氏が今度は小学校段階の英語教育向けの本を上梓した。それが『その「ひとこと」が言いたかった! 小学校の先生のためのClassroom English』。Classroom Englishとは、「How are you?」や「Let's play a game.」「Good job!」等の授業中に使う簡単な英語のこと。小学校外国語の教科化で揺れる学校現場に向け、Classroom Englishの効果や同書の使い方、そして今後の英語教育について語っていただいた。

Classroom Englishとは? その良さとは?

山田暢彦氏

学びの場.comそもそもClassroom Englishを授業で使うと、どんな良さがあるのでしょうか?

山田暢彦まず、頭が英語モードに切り替わります。例えば、授業の冒頭に「How are you?」と大きな声で発すると、「さぁ、英語の授業をやるぞ!」という気持ちになるでしょう。英語への苦手意識や恥ずかしさといったネガティブな気持ちを吹っ切るスイッチにもなります。同様に、子どもにもスイッチが入り、「さぁ、英語を学ぶぞ!」という姿勢になるはず。英語を学習する雰囲気作りに役立つでしょう。 また、Classroom Englishを使うと、場面と英語が結びついて習得されます。これは、英語を学ぶ上でとても大事なこと。英語教育を受けたのに英語を話せない日本人が多いのは、場面と英語を結びつけて覚えていないことが多いからです。

学びの場.comそうなのですか!? 詳しく教えて下さい。

山田 暢彦例えば、外国人に街で道を尋ねられて、まごまごしてしまうのは、「go」「straight」「turn」などの英単語を知識として知ってはいるけれど、道案内という場面とセットで覚えていないから、とっさに言葉が出てこないのです。 一方、Classroom Englishを授業で使えば、学習活動の終了を指示する時には「Time’s up.」、教科書を開いてほしい時は「Open your textbook.」というように、「この場面では、このフレーズ」ということを、先生も子どもも体験的に覚えることができます。そうしていくうちに、場面に応じたフレーズをすぐ選択し、口にできるようになるのです。

山田暢彦氏

学びの場.com英語を学習する雰囲気を作るだけでなく、Classroom Englishを使うこと自体が英語の学習になるのですね。

山田 暢彦英語が苦手な小学校の先生方も多いと思いますが、Classroom Englishは先生自身の上達と、英語が楽しくなるきっかけになるはず。英語は使う機会がないとモチベーションを維持できないので、なかなか上達しません。大人になって一念発起して英語の勉強を始めたものの、「英語を話す機会なんてないし、勉強しても意味ないな」と途中で止めてしまう話もよく聞きます。 ところが、Classroom Englishであれば頻繁に使うことになるので「もっと練習して上手になろう」と意欲が高まります。練習した成果を発揮する機会も豊富ですから、どんどん上手くなります。上手くなれば楽しくなる。つまり、好循環が生まれるのです。しかも、ネイティブのALTがいて、質問もでき、会話もできる。小学校はまさに英語が上達する理想的な環境と言えます。英会話教室に通って同じ環境を得ようとしたら、すごくお金がかかりますよ(笑)。

学びの場.com確かにそうですね。

山田 暢彦小学校の先生方は「英語を教えるのは大変だ」とネガティブに考えるのではなく、「英語を学ぶとても恵まれた環境にいるのだ。ラッキー!」とポジティブにとらえてはどうでしょう。語学の勉強は「楽しい」という気持ちがとても大事なのです。先生がポジティブになれば、子ども達にも好影響を及ぼします。先生がClassroom Englishを使えば、子ども達も真似をして、友達を英語で褒めたりALTと会話したりするようになるでしょう。そうすれば、英語が楽しくなり上達していきます。

発音はカタカナで示し、フレーズは場面とセットで紹介

山田暢彦氏

学びの場.comClassroom Englishは教師も子どもも伸ばすのですね。

山田 暢彦そうです。しかし、このClassroom Englishの良さや使い方を知らない先生方はまだまだ多いのではないかと心配しています。『その「ひとこと」が言いたかった! 小学校の先生のためのClassroom English』を執筆する際、小学校教師向けに書かれた資料や参考書を色々読んでみました。多くはClassroom Englishのフレーズがずらりと羅列されているだけ。フレーズ自体は簡単なので誰でも意味はわかりますが、意味がわかるだけでは授業で使いこなせません。 そこで心がけたのが、わかりやすく実践的であること。「挨拶と指示出し」「褒め方・促し方」「ALTとのコミュニケーション」と活用場面ごとに、授業ですぐ使える・必須となる70フレーズを厳選しました。これら一つひとつのフレーズについては丁寧に解説しました。

『その「ひとこと」が言いたかった! 小学校の先生のためのClassroom English』の紙面見本。カタカナで示した発音のポイントや、すぐに使える会話例など、とにかくわかりやすく便利

『その「ひとこと」が言いたかった! 小学校の先生のためのClassroom English』の紙面見本。カタカナで示した発音のポイントや、すぐに使える会話例など、とにかくわかりやすく便利

 

また、フレーズの読み方をカタカナ表記で示しました。例えば、「What day is it today?」なら、「イ ズィッ トゥデイ」というように、強調すべき箇所は赤い太字で、小さく軽く発音すべき箇所は小文字で表記し、なるべく英語本来の発音に近づけるよう工夫しました。実は、本の制作時、カタカナで表記することには賛否両論がありました。ですが私は、カタカナで発音のポイントを示すことで、日本人が思う発音とネイティブの発音との違いがわかりやすくなると考えたのです。

学びの場.comこの本にはDVDも付いていてClassroom Englishの音声を聞くことができます。しかし、英語を聞く耳が育っていないと、音声を聞いただけでは自分の発音のどこがダメなのかよくわかりませんから、このカタカナ表記はとても便利です。

山田 暢彦日本人の英語は、余計な母音をつけてしまう傾向があります。「textbook」は「テ・キ・ス・ト・ブ・ッ・ク」と7拍で発音しがちですが、ネイティブはたった2拍で「テキス・ブッ」と発音します。全く響きが違いますね。7拍になってしまうのは、日本語の発音の特徴に引きずられて、te-ki-su-to-bu-kku と本来ないはずの母音を加えてしまうからです。ですので、コツとして「余計な母音をつけずに2拍で言う」と意識すれば、すぐに発音が良くなります。こうやって発音の違いを意識すると、初心者でもネイティブに近い発音、英語の特徴をとらえた発音をできるようになるでしょう。

学びの場.comそこまで発音にこだわるのはなぜですか?

山田 暢彦英語を使って世界を舞台に働く方々を見ると、非ネイティブの方でもやっぱり発音は上手です。発音を疎かにすると、子ども達が大人になって世界に出た時、「自分の話す英語が伝わらない」という辛い思いをしてしまうでしょう。また、正しい発音を知らないと、相手の英語を聞き取ることもできません。ネイティブと同レベルにまでなる必要はありませんが、日本人的な発音から脱却して、ネイティブの発音に近づける努力はすべきだと私は考えます。それに楽しいですよ。上手に発音できると気持ちいいし、嬉しくなるでしょ?

学びの場.comわかります! 私もこのカタカナ表記に倣ってやってみたら、簡単にネイティブっぽい発音ができて、得意気になってしまいました(笑)。

山田 暢彦楽しいと感じることは、語学教育でとても大事です。最初、人前で歌うのは恥ずかしいけれど、上手に歌えたら快感だし、もっと歌いたくなりますよね。英語も同じです。 発音と同時に大切なのが、フレーズを使う際の具体的な状況です。「CONVERSATION」のコーナーでは前後の流れがわかるやり取りの例を示し解説しました。先述の通り、英語は場面とセットで覚えるのがコツ。例えば、「Any volunteers?」(誰かやってくれる人はいますか?)のフレーズでは、次のような会話例を示しました。 教師First, let's review yesterday's phrase. I'll do a demonstration. I need one partner. Any volunteers?(まず昨日のフレーズを復習しましょう。実演します。一人パートナーが必要なのですが、誰かやってくれる人はいますか?) 児童Me!(私やります!) 教師Thank you, Mika. Please come to the front.(ミカ、ありがとう。前に来てください) 会話例を見ることで、このフレーズはどんな場面で使えばいいのか、より具体的にイメージできるようになります。

山田暢彦氏

学びの場.comこの本を読んでClassroom Englishに本格的に取り組んでみようと思い立つ方も多いと思いますが、何から始めればいいですか?

山田 暢彦本書の各章は「基礎編」と「応用編」に分かれていますので、まずは基礎編の簡単なフレーズから始めるといいでしょう。慣れてきたら、少しずつフレーズを増やしていきましょう。そのための工夫も凝らしてあります。各フレーズの解説に「LEVEL UP」の項目を設け、そのフレーズと併せて使える応用的なフレーズを載せました。 例えば「Are you hungry?」のページには、子どもへの問いかけで使える「Are you~?」の例として、「Are you sleepy?」「Are you tired?」等を紹介し、「Are you~?」の使いこなし方がわかるようになっています。 場面に合わせた会話例を示した「CONVERSATION」のコーナーでも、例えば先述の「Any volunteers?」の会話例を読めば、「Come to the front」(前に来てください)といった新たなフレーズも出てきます。

学びの場.comClassroom Englishを活用する際、注意すべきことは?

山田 暢彦授業のすべてを英語で行おうとしないこと。細かい指示や学びのまとめ等は日本語で行ってください。全部英語でやろうとすると、先生にとっても子どもにとっても負担が大きすぎ、英語が楽しくなくなってしまいます。 例えば「さぁ、まとめましょう Let's wrap up!」と最初は指示して、慣れてきたら日本語を取り除き、「Let's wrap up!」と指示します。こうすれば子どもは理解しやすくなり、場面と英語が結びついて、そのフレーズを覚えられるでしょう。日本語の助けを借りながら、少しずつ英語を増やしていくのが現実的かつ効果的な方法だと思います。

これからの子どもは英語らしい思考力や表現力を育むべき

山田暢彦氏

学びの場.comこれから小中学校ではどんな英語力を育むべきでしょうか?

山田 暢彦私が今懸念しているのは、小学校の外国語科が「読む」「書く」に偏って、中学英語の前倒しになってしまうことです。言語教育は、まず「聞く」「話す」をたっぷり行って音声に慣れ親しみ、その上で「読む」「書く」を学習するのが基本ですから。

学びの場.com新学習指導要領にも、音声で十分慣れ親しんだ上で、読む・書くを行うと明記されていますね。

山田 暢彦音声指導をたっぷりやらずに「読む」「書く」に走ると、これまでの英語教育と同じ失敗を繰り返すと思うのです。今の大人のように、「読む・書くはある程度できるが、喋れない・聞き取れない。だから英語が苦手」になってしまいかねません。

山田暢彦氏

学びの場.comでは、中学校ではどんな英語力を育むべきでしょうか?

山田 暢彦語彙や文法も基礎として必要ですが、英語らしい思考力や表現力を育んでほしいと思います。海外留学を希望する学生の英語の小論文を添削指導していて感じるのですが、日本人の英語は回りくどい傾向があります。話があっちこっちに行き、一貫性がなく、なかなか結論を述べないので、何が言いたいのかわかりにくい。対してネイティブの英語は単刀直入で、まず結論から述べます。次にその理由を説明して、具体例を挙げます。余計な話は一切入れません。パズルのように組み立てており、とても論理的で説得力があります。これからの子どもは英語を使って世界の人々と交流し、一緒に仕事をすることも求められますから、英語らしい思考力や表現力を育むべきでしょう。 なぜこういう違いが表れるかというと、英語を学ぶ時に相手意識を持たなかったのも一因ではないでしょうか。ネイティブの人達は常に相手を意識して表現しますが、今までの日本の英語教育は相手と向き合わず、いわば教科書と向き合っていたからだと思います。

学びの場.com相手を意識した、英語らしい思考力や表現力を育むには、どんな学習活動を行えばいいでしょうか?

山田 暢彦最初は作文で練習するといいと思います。今までの作文は、日本語で書かれた文章を英語に訳す、あるいはその逆に英文を和訳する活動が中心でした。これからは作文の内容も自分で考え、論理的に英語で文章を書く練習を、中学くらいから行うべきでしょう。 例えば「Do you think children should have a smartphone?」(子どもはスマホを持つべきだと思いますか?)という課題を与えて、英語で作文させる。教師はその作文を見て、綴りや文法の正誤を指導するだけでなく、「相手に伝わりやすい文章か」「説得力があるか」という視点で指導します。慣れてきたら、英語で論理的に話すトレーニングも行いましょう。

学びの場.com家庭ではどんな教育をすべきでしょうか?

山田 暢彦Classroom Englishを家庭で使うのもオススメです。我が家では5歳と3歳の子どもに「Let’s read a book.」とか「Are you hungry?」などClassroom Englishにも出てくるフレーズを使って話しかけています。親御さんが積極的に英語を口にしていれば、お子さんも影響を受けます。家庭で英語を使うきっかけとして、Classroom Englishのフレーズは最適です。 また、我が家では英語の絵本もたくさん読み聞かせています。いきなり英語を読み聞かせても理解できないので、まずは一緒に絵を見ながら日本語で読み聞かせるのを繰り返します。そして子どもがストーリーを把握してきたら、英語で読み聞かせる部分を増やしていくのです。例えば、登場人物のセリフだけ英語にするというように。すると、段々ストーリーの場面と英語が結びついて、子どもは覚えていきます。 教師や親が英語に苦手意識を持ったままでは子どもに伝染してしまいます。発音に自信ないからと小さな声で恥ずかしそうに英語を話していたら、子どもも消極的になってしまいます。大人が先陣を切って英語を楽しみましょう。その姿を見せれば、子どもも「英語って楽しい」と感じ、大人の真似をして英語をどんどん使うようになります。大人も子どもも一緒に英語を楽しみましょう!

関連情報
『その「ひとこと」が言いたかった! 小学校の先生のためのClassroom English』表紙

山田暢彦氏・新刊『その「ひとこと」が言いたかった! 小学校の先生のためのClassroom English』
東洋館出版社/本体1,700円+税/B5判/2017年4月28日発売

「小学校の先生はとても忙しくて時間がない。だから、すぐ使えて、実践的で、わかりやすくをモットーに、この本を作りました」と山田暢彦氏。だからページをめくると、すぐにClassroom Englishのフレーズ解説が始まるようにしたという。紙面でまず目を引くのがカタカナでの発音表記。英語教育に長年携わり、自身もバイリンガルである山田氏が編み出した「ここを意識すれば、日本人でもネイティブに近い発音になる」コツを、カタカナで表してくれている。使用場面例を示した「CONVERSATION」も、本書ならではの工夫。ここを読めばフレーズを使う前後の流れがイメージでき、場面と英語をセットで覚えられる。これからClassroom Englishを使ってみようという方はもちろん、すでに使っている方にもぜひ読んでいただきたい。

山田 暢彦(やまだ のぶひこ)

1980年米国ニュージャージー州生まれ。慶應義塾大学(SFC)卒。英語・日本語のバイリンガルであり、TOEIC連続満点、国連英検特A級、英検1級取得。長年にわたり、子どもから大人まで幅広い年齢層に英語を教えて来た。特に中学英語に精通しており、監修した『中学英語をひとつひとつわかりやすく。』(学研)はシリーズ累計50万部のベストセラー。他にも著作は30冊以上を数える。現在、NOBU English Academy主宰、BBT大学専任講師、トライイット中学英語講師を務める他、複数の出版社で英和・和英辞典の執筆委員も兼任。2児のパパ。

インタビュー・文:長井 寛/写真:言美 歩

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