文科省の調査によると、普通学級にいる発達障害の子どもの割合は、6.5%とされています。
1クラスが30人だとすると、2人程度いるということになります。
そういった子ども達と上手に関わっていくことが、今の学級担任には求められています。
今回は、私がこれまでの教師生活の中で経験したことを紹介しながら、発達障害の子ども達への関わり方のヒントについて書きたいと思います。
一つ目は、以前担当した男児についてです。
その男の子は、知的レベルは高いのですが、こだわりが強いという特徴がありました。
運動会などの行事はとても苦手で、特に表現(ダンス)はとても苦手でした。
中学年で担任になったのですが、すでに数回の運動会およびそれに向けた練習を経験していることから、自分が運動会特に表現があまり好きではないということを理解していました。
毎年、運動会の時期になると登校渋りが起こっていました。
私が担任をした年、運動会が近くなり、学年での表現の練習も始まる頃、私が打った手があります。
表現では、いきものがかりの曲を使っていました。
表現の練習の始まる前日、歌詞の意味を学級の皆で考えました。
いきものがかりの曲はどれもメッセージ性が強いものです。
「なんで今回この曲にすることにしたのだろう?」と子ども達に問いかけました。
その男の子は、歌詞中にある言葉を使い「みんなに優しくなって欲しいからでは・・・」と答えてくれました。
次の日の表現の練習の一番はじめの時、学年全体の場で、「なんで今回この曲にすることになったのか」についての話をしました。
その場で、その男の子を指名し、彼が教室で言った「みんなに優しくなって欲しいから・・・」ということを改めてみんなの前で言ってもらいました。
周りの子どもや他の教員からそのことを褒められたその子は、スムーズに表現の練習に取り組み始めることができました。
このエピソードは、こだわりが強い子どもや苦手なものへの取り組みに抵抗を示す子どもへの関わりのヒントとなるものです。
苦手なものでも、教師の配慮によって、「いい気分」で取り組むことができると、うまくいく可能性が高くなります。
また、練習を開始する一番はじめの時に、その子どもが活躍する場を与えたということも重要です。
運動会の表現について、練習前「やりたくない」けれど「やらなくてはならない」という気持ちをその子どもは抱いていたはずです。
そういった状況での先に書いたようなやり取りは、その子どもを練習へスムーズに引き込む「呼び水」のような役割を果たしていました。
こだわりの強い子どもは、一度、思い込むとそれを教師が覆すことに非常に労力を必要とします。
それなので、否定的な思い込みを持たせないようにできる限り配慮をしていくのです。
教師がトラブルの起きないように先手で対応していくことが大事になります。
二つ目も以前関わったことのある男児についてです。
その子どもは、私が担任をするまで様々なトラブルを起こしてしました。
学級における勝手な振る舞い(給食のお代わりを勝手に取ってしまう、授業中抜け出してしまう、友達に対する暴力など)が頻発し、その時の担任は正直お手上げな状況でした。
年度が変わり、私が担任した際、まず始めにしたことは、朝、子どもが登校して来る時、教室に居たことです。
「おはよう」と言って、その子どもを含めた、クラスの子どもを迎えました。
後日、その子どもの保護者から、私が朝、教室にいることをとても感謝されました。
以前のクラスでは、担任が朝に教室に居なかったことで、朝から様々なトラブル(けんか、暴力など)が起こり、朝から指導されたその子どもは、さらに調子が悪くなり、様々なトラブルを起こしていたそうです。
それが、私のクラスになった後はずいぶん減ったのだそうです。
教室に担任である私がいることで、防ぐことのできるトラブルがたくさんあります。
「○○さん、どうしました?」と声かけすることで、大事にならずに済むのです。
その子どもを私の前に担当した担任は、様々なトラブルの後始末で、散々な思いをしていました。
一度は、問題が大事になってしまったこともありました。
そういった状況において、私が実践していた「子どものそばにいること」が良い効果を示していました。
朝、少し早く学校へ行くことなどは、エネルギーとしては小さなものです。
そういった行動によって、トラブルを未然に防ぐことができます。
一度、問題が発生すると、その後始末に膨大にエネルギーを要することになります。
それを身をもって知ることができたので、それ以降、子どもがトラブルを起こさないようにすることにエネルギーをかけています。
他の人から見ると、私のクラスは「大きなトラブルが起こらなくて良い」とか「良い子どもが集まっている」などと思われることもあるのですが、実際はそうではないのです。
様々な個性のある子どもたちがトラブルを起こさないように「予防」の部分にエネルギーをかけることによって、ある程度穏やかなクラスが維持されているというのが実情です。
発達障害を含め、様々な難しさを抱えている子どもに接する担任の行動には、その教師の教育観のようなものが如実に表れてきます。
「面倒だな」というスタンスで、そういった子どもと接していると、子どもはそれを見透かし、難しい問題をいくつも発生させてしまいます。
「愛情をもって関われるか」「その子どもの人生を考えてあげられるか」「自分にきちんとした教育観があるか」などが大事になってくるのだと思います
困難な状況を抱えた子どもと関わると、色々な意味で、教師としての力量が問われてきます。
そして、そういった状況を完璧でなくとも、何とか過ごしていくことで、教師の力量が向上します。
勿論、困難な状況で教師が精神的にも肉体的にもダメージを受け、ダウンしてしまっては困ります。
周りの協力も得ながら、様々なバランスを考えた取り組みが大切です。
教師の配慮で、困難な状況を避けること、脱することの可能性が高まります。
教師も、子どもも笑顔でいることができるよう願っています。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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