東京都障害者スポーツ大会がはじまっています。今年は、ボウリングとバレーボールの大会に参加させていただきましたが、どの競技も一人一人がスポーツに対してそれぞれの楽しみ方をもっており、余暇活動として運動が享受されていると感じます。そして、運動の余暇活動の定着には、体育の授業だけでなく、部活動も重要であると考えています。
現場の視点で見ると、学校ごとに取組の違いはありますが、部活動に対する生徒のニーズはとても高いと感じています。「特別支援学校にも部活動があるのですか?」と聞かれることもありますが、サッカー部やバスケットボール部というように年間を通して一つの活動を継続する部活もあれば、いくつかの種目をシーズンに応じて切り替えていく球技部といった部活動もあります。また、美術部やレクリェーション部といった文化的な活動もあり、教科指導とは違った必要性があります。
得意だけど不安
言葉に出せない思いを拾う
夢を叶える
この事例から見えてくるもの
この事例から、いくつかの支援のポイントが見えてきます。
高等部から特別支援学校に入学してくる生徒は、たくさんの失敗経験があり、自信を無くしている子が多いと感じています。
A君の場合、学習のつまずきだけでなく、指導者との信頼関係にも課題がありました。この時の対応は、ただその子の言葉に耳を傾け、疑わずに信じたことが、結果として本人との信頼関係の構築につながりました。
第二に、声なき声の通訳が必要ということがあります。気持ちを言葉で伝えることが思うようにできない子は、誤解を受けやすいところがあります。これは部活動に限らず実習など外部機関との連携にも同様のことが言えますが、本人の特性を理解し、周囲の人に具体的な対応方法を伝えていくことが大切です。S.O.Sが出せない子の場合、時としてその場をやり過ごす「うそ」のような発言をすることもあります。しかし、その裏には不安や失敗への怖さがあることを忘れてはいけないと思います。
第三に、じっくりと付き合うということが言えます。A君とは部活以外にも選抜チームの練習があったので、休日や平日の夜も一緒に過ごす時間がありました。ただ、気持ちの切り替えが上手にできない時にはなかなか言葉が出なくなってしまいます。そのような時には、数時間ほど無言で空気のやり取りをしたこともありました。
このような個別の支援に対して、「義務教育じゃないんだから、高等部ではそこまでする必要がない」といった批判を受けたこともあります。しかし、通常学校でつまずき、様々な事情で特別支援学校に入学してきた生徒だからこそ、一人一人の良さを見出し、なんとか光る才能を形にしていくことが求められるのではないでしょうか。
現在のA君は、選手として活躍するだけでなく、部活動の外部指導員として母校の部活動を支えています。
いつまでも夢を忘れず、自分を大切に新たな目標を見出し、頑張っていって欲しいと思います。
そして、学校教育を介して余暇活動が保障され、たくさんの方に生涯スポーツが享受されることを願っています。

綿引 清勝(わたひき きよかつ)
東京都立南花畑特別支援学校 主任教諭・臨床発達心理士・自閉症スペクトラム支援士(standard)
東京都内の知的障害特別支援学校で中学部、高等部を経験後、現在は小学部の自閉症学級を担任。自身の実践を振り返りながら、子ども達が必要としている支援とは何かを考えていきたいと思います。
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