意外と知らない"学校保健"(第2回) 保健室
第1回では「養護教諭」について紹介しました。第2回は学校保健の場に着目し、「保健室」をテーマとします。記事を通して、保健室の法的な定義や概要等について解説します。
保健室の法的位置づけ
保健室の設置目的は5点、すなわち、①健康診断、②健康相談、③保健指導、④救急処置、⑤その他の保健に関する措置が挙げられます(引用1)。これらの機能から見て保健室の必要性は一目瞭然ですが、保健室は法的にも不可欠な教育施設であると定められています。例えば、学校教育法の施行規則第一条には、引用2のように保健室の設置義務が明示されています。また、小・中学校の設置基準(第九条)にも引用3のように規定されています。思い返すと、保健室のない学校は見たことがありませんね。
引用1 学校保健安全法より
(保健室)
第七条 学校には、健康診断、健康相談、保健指導、救急処置その他の保健に関する措置を行うため、保健室を設けるものとする。
引用2 学校教育法施行規則より
第一条 学校には、その学校の目的を実現するために必要な校地、校舎、校具、運動場、図書館又は図書室、保健室その他の設備を設けなければならない。
引用3 小学校設置基準/ 中学校設置基準より
(校舎に備えるべき施設)
第九条 校舎には、少なくとも次に掲げる施設を備えるものとする。
一 教室(普通教室、特別教室等とする。)
二 図書室、保健室
三 職員室
2 校舎には、前項に掲げる施設のほか、必要に応じて、特別支援学級のための教室を備えるものとする。
保健室の備品
具合が悪くなった時やけがをした時には、まずもって保健室に向かうと思いますが、保健室にはどのような備品があるでしょうか。1958年に出された「学校保健法および同法施行令等の施行にともなう実施基準について」では保健室備品の例が挙げられていますが、これらを常備することは義務付けられておらず、品目や数量は「学校の種別、規模等に応じて適宜措置するもの」とされています。また、その備品リストが最後に更新されたのは1986年で、時が経過しているため、列挙されている各物品に対する必要性については意見が分かれます。よって、表1では、日本学校保健会「養護教諭の専門性と保健室の機能を生かした保健室経営の進め方」に掲載されている「資料1 保健室の設備・備品に関する調査結果(2002年に実施)」を基に、80%以上の回答者によって「必要性がある」と回答された備品をピックアップしました。また、聞き馴染みのない備品を中心に、写真で図1に示しました。よく見かけるものでも、意外と名前は知られていないものですね。
No. | 備品名 | No. | 備品名 | No. | 備品名 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 机・椅子 | 18 | 温湿度計 | 35 | 膿盆 |
2 | ベッド・寝具類 | 19 | 冷蔵庫 | 36 | ガーゼ缶 |
3 | 寝具入れ | 20 | 各種保健教育資料 | 37 | 消毒盤 |
4 | 救急処置用寝台・枕 | 21 | 身長計 | 38 | 毛抜き |
5 | 脱衣かご | 22 | 体重計 | 39 | 副木・副子 |
6 | 待合用長椅子 | 23 | 座高計 | 40 | 携帯用救急器具 |
7 | 器械戸棚 | 24 | 国際標準式試視力表・照明装置 | 41 | 担架 |
8 | 器械卓子 | 25 | 遮眼器 | 42 | マウス・トゥ・マウス用マスク |
9 | 洗面器 | 26 | 視力検査用指示棒 | 43 | 救急処置用踏み台 |
10 | 洗面器スタンド | 27 | オージオメーター | 44 | 滅菌器 |
11 | 薬品戸棚 | 28 | 舌圧子 | 45 | 汚物投入器 |
12 | 書類戸棚 | 29 | 歯鏡 | 46 | 氷のう |
13 | 健康診断票格納庫 | 30 | 聴診器 | 47 | 氷枕 |
14 | ついたて | 31 | 血圧計 | 48 | 照度計 |
15 | 湯沸器具 | 32 | 照明灯 | 49 | 水質検査用器具 |
16 | 黒板 | 33 | 体温計 | 50 | プール用水温計 |
17 | 懐中電灯 | 34 | ピンセット、ピンセット立て | 51 | プール水質検査用器具 |
※公益財団法人 日本学校保健会「養護教諭の専門性と機能を生かした保健室経営の進め方」P.70-71を参考に作成
保健室の配置とレイアウト
第1回で述べたように、養護教諭は学校保健のコーディネータ役であり、また、救急処置の際はスピード感が求められます。そのため、養護教諭が拠点とする場である保健室の位置については、その機能を高めるべく、学校施設整備指針にて図2のように推奨されています。
さらに、校内における配置の工夫に加え、室内レイアウトの工夫も提案されています。例えば、学校施設整備指針には、①ベッドを配置する空間を適切に区画することができる面積・形状とすること、②屋外との出入り口を設け、その傍に手洗い・足洗い等の設備を設置すること、③プライバシーに留意して、間仕切りをした保健室内の一角や保健室の外にカウンセリング空間を設けること、が挙げられています。
子どもたちの居場所としての保健室
「保健室登校」という言葉があるように、保健室は子どもたちの「居場所」として活用されることがあります。保健室登校とは、不登校ほど登校に対する抵抗がなく、一部の教員とコミュニケーションはとれているが、教室で授業を受けること、クラスメートと過ごすことが困難である場合に生じやすい状態です。不登校の児童生徒が再登校へと復帰するステップとして、あるいは、教室を居心地悪く感じている児童生徒が不登校とならないように介入する際の手段として、保健室は計画的に活用されています。
まとめ
いかがでしたか。保健室の法的位置づけや備品、配置や機能について見てまいりました。第1回・第2回は平時の学校保健を中心に見てまいりましたが、次回は学校での感染症対策に着目します。
参考資料
構成・文・イラスト:内田洋行教育総合研究所 研究員 長谷部
一部イラスト・写真提供:学校向け会員制通販UCHIDAS、ウチダ保健/健康カタログ
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