2022.04.25
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意外と知らない"学校安全"(第1回) 学校安全の概要

体育の授業中にスポーツに夢中になって友達と強くぶつかって痣ができたり、登下校中に自転車に乗っていて転んだりと、子ども時代に学校で負傷した経験は誰もがあるのではないでしょうか。多くのけがや病気は数日・数週間で治るとしても、打ち所が悪かったり、速やかに処置しなかったりした場合は、健康や生命を脅かす可能性も十分あります。また、身体だけでなく、心に傷を負うこともあるでしょう。

今回のテーマは「学校安全」です。第1回は学校安全の全体像を見ていきたいと思います。

学校安全計画

児童生徒が学校で安心して学び続けるには、心身の安全が確保された環境が基盤として不可欠です。以下のように法律でも、すべての学校において「学校安全計画」を策定・実施することが規定されています。学校安全計画とは、年間を通してどのように学校安全を推進するかを示すものです。

学校保健安全法第27条

学校においては、児童生徒等の安全の確保を図るため、当該学校の施設及び設備の安全点検、児童生徒等に対する通学を含めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導、職員の研修その他学校における安全に関する事項について計画を策定し、これを実施しなければならない。

学校安全の3領域

多種多様な学校でのリスクに対応するには、学校安全を体系的に捉えることが重要となります。学校安全は、内容面で生活、交通、災害の3つの領域に整理されています。

学校安全の3領域
領域 内容 リスク具体例
1 生活安全 学校・家庭・地域など、日常生活において起こる危険を扱う。 けが、病気、誘拐・傷害、インターネット利用による犯罪被害
2 交通安全 交通場面における危険を扱う。 交通事故(歩行、自転車・二輪車)
3 災害安全 災害発生時における危険を扱う。 火災、地震・津波災害、火山災害、風水(雪)害、原子力災害

学校安全の3活動

また、学校安全の活動は、安全教育、安全管理、組織活動の3種類に整理されています。

学校安全の3活動
活動 内容
1 安全教育 児童生徒等が自らの行動や外部環境に存在する様々な危険を制御して、自ら安全に行動したり、他の人や社会の安全のために貢献したりできるようにすることを目指す。
2 安全管理 児童生徒等を取り巻く環境を安全に整えることを目指す。
3 組織活動 安全教育・安全管理の活動を、組織活動によって円滑に進める。

学校安全計画は、この3つの活動の計画であり、次のようなことを実現するために欠かせないものです。

  1. 安全管理そのものを計画的、合理的かつ円滑に実施する
  2. 安全教育の目標や各教科等において年間を通じて指導すべき内容を整理して位置付けることにより、系統的・体系的な安全教育を計画的に実施する
  3. 3種の活動間で調整を図り、一体的かつ効果的に実施する

学校管理下の事故の近年の実態

独立行政法人日本スポーツ振興センターは、「災害共済給付制度」により災害共済給付(医療費、障害見舞金又は死亡見舞金の支給)を行っており、支給対象となった児童生徒等の災害発生件数を毎年集計・公表しています。同センターでは、災害事例を下表のような分類に沿って整理しています。

負傷・疾病の分類
分類 項目
1 種類 骨折、捻挫、脱臼、挫傷・打撲、挫創、負傷のその他、関節・筋腱・骨疾患、熱中症、疾病のその他
2 場合 各教科等、特別活動(除学校行事)、学校行事、課外指導、休憩時間、寄宿舎にあるとき、技能連携授業中、通学中(通園中)
3 部位 頭部、顔部、体幹部、上肢部、下肢部、その他
※独立行政法人日本スポーツ振興センター「学校の管理下の災害 [令和3年版]」を参考に作成

独立行政法人日本スポーツ振興センター「体育活動中における骨折事故の傾向及び事故防止対策」調査研究報告書(2021)によると、学校等の管理下の災害(負傷・疾病、障害又は死亡)に占める「体育活動中」の割合は、中学校は7割以上、高等学校では8割以上を占めています。「体育活動中」とは、体育授業や運動部活動などを指しています。その体育活動中において例年最も多く発生しているけが・病気は、骨折です。小・中・高等学校とも、体育活動中での災害発生件数中、骨折は約3割を占めます。

学校管理下で起こる災害には、予期や防止が困難な事例がある一方で、事前に危険の予測が可能なものや、事故後の対応を的確に行えば被害を最小限に抑えることが可能なものがあると、同センターは指摘しています。

学校における危機管理体制

学校のリスクに対してどのようなアプローチがあるでしょうか?文部科学省「学校安全資料『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」 (2019) では、危機管理を「人々の生命や心身等に危害をもたらす様々な危険や災害が防止され、万が一事故等が発生した場合、発生が差し迫った状況において、被害を最小限にするために適切かつ迅速に対処すること」と定義しています。注目すべきは、アプローチとして防止と低減があるという点です。安全教育や安全管理を通して危険に遭わないこと(防止)がベストですが、自然災害に代表されるように、不可避の危険も存在します。こうしたリスクに対しては、発生時に素早く対処してリスクをなるべく低減できるよう、日ごろから備えておくことが非常に重要となります。

また、近年では「フェーズフリー」という新たな概念がみられます。これは、生活の中にある日常時・非常時といった時間的な制約を取り払い、生活の質(QOL)を向上させようとする、防災にまつわるアイデアです。「フェーズフリー」を学校に適用すると、例えば「幼稚園で上靴をきちんと履くことを指導すれば、日常的には廊下で滑って転ぶことを防ぐことができ、災害時は割れたガラスや瓦礫が散乱する中でも安全に避難できる」、「学校の図画工作・美術・技術の授業で工作や木工を楽しむことで、日常・災害時を問わず、生活に必要なものを工夫して作るようになる」といった事象が挙げられます。日々の積み重ねによって気軽に推進できる取組といえます。

事例紹介

では、学校での具体的な取組事例を紹介したいと思います。


事例
学校安全の3領域 学校安全の3活動
生活安全 交通安全 災害安全 安全教育 安全管理 組織活動
1 AED講習
2 熱中症予防管理
3 ICタグによる登下校管理
4 子ども110番の家の設置、駆け込み訓練
5 危険箇所探し、標識の作成

1. AED講習~安全教育~

文部科学省「学校安全の推進に関する計画に係る取組状況調査〔平成30年度実績〕」(2018)によれば、AEDを設置している学校は9割を超えていますが、児童生徒等を対象としたAEDの使用を含む応急手当の実習を行っている学校の割合は、51.6%(※特別支援学校及び幼稚園等を除いた学校の割合)と、半数程度にとどまっています。

新学習指導要領では、高校生については「心肺停止状態においては、急速に回復の可能性が失われつつあり、速やかな気道確保、人工呼吸、胸骨圧迫、AED(自動体外式除細動器)の使用などが必要であること、及び方法や手順について、実習を通して理解し、AED などを用いて心肺蘇生法ができるようにする。」、中学生については「胸骨圧迫、AED(自動体外式除細動器)使用などの心肺蘇生法、包帯法や止血法としての直接圧迫法などを取り上げ、実習を通して応急手当ができるようにする」、と明記されました。実習を行った学校では、部活指導中に心停止で倒れた顧問の先生を生徒たちがAEDを使用して救命したという、非常に頼もしい事例もあります。これからAEDを実際に使用することのできる生徒が増えることが期待されます。

2. 熱中症予防管理~安全管理~

熱中症予防の安全管理例として、WBGT(暑さ指数、湿球黒球温度/Wet Bulb Globe Temperature)計の活用があります。WBGTの値を指標とした熱中症予防運動指針が公益財団法人日本スポーツ協会から示されていて、下記の5段階の判断ができます。

WBGT 湿球温度 乾球温度 警戒レベル
21℃未満 18℃未満 24℃未満 ほぼ安全
21~25℃ 18~21℃ 24~28℃ 注意(積極的に水分補給)
25~28℃ 21~24℃ 28~31℃ 警戒(積極的に休憩)
28~31℃ 24~27℃ 31~35℃ 厳重警戒(激しい運動は中止)
31℃以上 27℃以上 35℃以上 運動は原則中止

3. ICタグによる登下校管理~安全管理~

ICTを活用した安全管理として、校門に設置したセンサーと児童生徒が持っているICタグによって、登下校を管理するサービスを導入している学校もあります。文部科学省「学校安全の推進に関する計画に係る取組状況調査〔平成30年度実績〕」(2018) によると、ICT導入による登下校管理は、導入している学校は6.8%にとどまります。私立学校の12.5%が導入していて、現時点では私立学校の導入実績のほうが目立ちますが、テクノロジーを活用した安全管理として、今後導入が広がるかもしれません。

4. 子ども110番の家の設置、駆け込み訓練~安全教育・安全管理・組織活動~

全国に設置されているこども110番の家。子どもが危険に遭遇した時、困り事がある時に安心して立ち寄れる民間協力の拠点として、自治体や教育委員会等が中心となり地域ボランティアによって推進されています。子ども110番の家としてどのような対応をすべきかは、「『子供110番の家』活動マニュアル」に記載されています。

この子ども110番の家について、存在を知っていても、いざとなったときには動揺してうまく活用できない可能性もあります。自治体によっては、不審者役の大人とのロールプレイをして防犯ブザーを鳴らしながら子ども110番の家に逃げ込む“駆け込み訓練”を行っている事例も見られます。

5. 危険箇所探し、標識の作成~安全教育・安全管理~

大阪大学の研究グループが開発した「ひなどり」という安全教育プログラムがあります。「ひなどり」とは、“標識を作って”、“なくそう 事故を”、“「どこで どうする?」”、“理解して”の頭文字をとったものです。児童生徒が危険な箇所を探し、その箇所での事故・負傷を予防する目標を考案し、その目標をピクトグラムデザインに表現して標識を描き、実際に貼りに行く取組です。身近な危険箇所を学ぶだけにとどまらず、周囲の友達や教職員に注意喚起するための最適な表現を考えることで表現力を伸ばす機会となり、さらにその成果物を実際に活用することで学校の事故防止に貢献でき、児童生徒自身の達成感にもつながるという充実したプログラムといえます。

その他

スポーツ事故防止のための具体的な指導や、非常時の対応については、独立行政法人日本スポーツ振興センター「スポーツ事故防止ハンドブック」が詳しいです。心停止、頭頚部外傷、熱中症、食物依存性運動誘発アナフィラキシー、歯・口の外傷、眼の外傷について内容がまとめられています。

おわりに

いかがでしたか?

学校安全の推進は様々な可能性を秘めています。安全管理を推進することで児童生徒の日常の安全が守られます。また、安全教育の推進によって児童生徒が安全への意識を高めることで、自分自身の安全はもちろんのこと、周りの友人や教職員の安全を守ることにも繋がると考えられます。児童生徒を未来の社会の担い手として見れば、安全教育の推進は、より安全な社会づくりにも繋がるといえます。

次回は学校安全のこれからをテーマにお伝えします。

構成・文・イラスト:内田洋行教育総合研究所 研究員 長谷部

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