2022.05.02
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意外と知らない"学校安全"(第2回) 学校安全のこれから

先日(2022年3月25日)、「第3次学校安全の推進に関する計画」(以下、第3次計画)が策定されました。これは、各学校における安全に係る取組を総合的かつ効果的に推進するために国が策定する計画です。第2回では、第3次計画の内容を確認しつつ、学校安全のこれからについて考えていきたいと思います。

学校安全の推進に関する計画とは

平成21(2009)月4月施行の学校保健安全法の第3条第2項に「国は、各学校における安全に係る取組を総合的かつ効果的に推進するため、学校安全の推進に関する計画の策定その他所要の措置を講ずるものとする」と定められました。

これを受けて、平成24(2012)年4月に「学校安全の推進に関する計画」が初めて策定されました。その後、計画実施における成果・課題、情勢の変化等を検証しながら、「学校安全の推進に関する計画」は、平成29(2017)年に第2次計画、令和4(2022)年に第3次計画と、5年おきに改訂されています。

第3次計画で目指す姿

児童生徒一人一人が危険を予測し、回避行動をとれるようになることが重要

第3次計画には、計画を通して「目指す姿」が記載されています。以下の表で、第2次計画に記載されている「目指すべき姿」と比較すると、赤文字の箇所が第3次計画での追記となっています。児童生徒一人一人の「自ら適切に判断し、主体的に行動」する姿が一層重視されています。

目指す姿
第2次計画 第3次計画
1 全ての児童生徒等が、安全に関する資質・能力を身に付けることを目指す。 全ての児童生徒等が、自ら適切に判断し、主体的に行動できるよう、安全に関する資質・能力を身に付けること
2 学校管理下における児童生徒等の事故に関し、死亡事故の発生件数については限りなくゼロとすることを目指すとともに、負傷・疾病の発生率については障害や重度の負傷を伴う事故を中心に減少傾向にすることを目指す。 学校管理下における児童生徒等の死亡事故の発生件数について限りなくゼロにすること
3 学校管理下における児童生徒等の負傷・疾病の発生率について障害や重度の負傷を伴う事故を中心に減少させること

施策の基本的な方向性

第3次計画では、施策の基本的な方向性として、以下の6項目が記されています。

第3次計画に示された「施策の基本的な方向性」
施策の基本的な方向性
1 学校安全計画・危機管理マニュアルを見直すサイクルを構築し、学校安全の実効性を高める
2 地域の多様な主体と密接に連携・協働し、子供の視点を加えた安全対策を推進する
3 全ての学校における実践的・実効的な安全教育を推進する
4 地域の災害リスクを踏まえた実践的な防災教育・訓練を実施する
5 事故情報や学校の取組状況などデータを活用し学校安全を「見える化」する
6 学校安全に関する意識の向上を図る(学校における安全文化の醸成)

特徴的なものとして、例えば3については、実践的な安全教育として心理的側面に着目し、災害時の認知バイアス(危険を示す変化が起きても「自分は大丈夫」と思う傾向である、“正常性バイアス”)等の必要な知識を教えることが挙げられています。これは第3次計画の「目指す姿」に盛り込まれた、「全ての児童生徒等が、自ら適切に判断し、主体的に行動できるよう、安全に関する資質・能力を身に付けること」にダイレクトに関わる取組といえます。また、4については、地域ごとに災害リスクには特徴があるため、地域特性を踏まえた防災教育・訓練が必要であることが強調されています。国は、全国の学校でこうした防災教育が展開できるよう、発達段階を考慮した防災教育の手引きを作成するとされています。

学校安全推進に係る人々

教職員と児童生徒に留まらない学校安全推進

学校安全推進にあたっては、教職員と児童生徒の2者へのアプローチにとどまりません。

第3次計画では、教員の卵である教職課程の学生への学校安全の学修の充実が盛り込まれており、教員になる前から学校安全や安全教育への深い理解を促すことが重要といえます。また、学校と家庭・地域・関係機関との協働による防災教育や訓練の必要性も強調されていて、これは新学習指導要領に記されている「社会に開かれた教育課程」の実現といえます。地域社会と協働した防災教育は、児童生徒自身や周囲の人の命が守られることはもとより、児童生徒の主体性・社会性、郷土愛や社会の担い手としての意識を高める効果、さらには、周囲の大人の心を動かし地域全体の防災力が高まる効果が期待されています。

現代的なリスク

第3次計画では、現代的な課題として以下のリスクが挙げられています。学校は自校を取り巻く安全上の課題やその対策を検証し、学校安全計画(詳しくは第1回記事)や取組等を毎年見直すことが必要とされています。見直しサイクルの構築の必要性は、第3次計画でも指摘されています。計画・取組の見直しの際には、こうした現代的な課題も視野に入れ、対応を広げることが求められます。

①性犯罪・性暴力

性犯罪・性暴力の根絶に向けて、誰もが加害者にも、被害者にも、傍観者にもならないよう、全国の学校で「生命(いのち)の安全教育」が推進されています。2020年6月11日に内閣府が出した「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を受け、文部科学省も幼児向け教材から高校生・大学生・一般向けの啓発資料まで、発達段階に応じた幅広い教材・指導の手引きを公開し、取組を強化しています。

②SNSに起因する犯罪

SNSは自分のコミュニティを広げることができる便利なツールではありますが、児童生徒がSNSを起因として面識のない相手と知り合い、犯罪に巻き込まれているのも確かです。警察庁の統計データによると、SNSに起因する児童買春や児童ポルノ等の犯罪の被害に遭った児童生徒数は、2021年は1,812人。2012年と比べると約1.8倍に増加しています。また、被害に遭った児童生徒と被疑者が知り合うきっかけとなった文章・画像・動画等を最初に投稿した者が「被害児童」であるケースは、72.6% (1,316人)。その投稿内容としては、「援助交際募集」(19.4%、255人)や「出会い目的」(10.1%、133人)もありますが、最も多いのは「プロフィールのみ」(22.0%、290人)です。SNSの利用方法の実態はなかなか把握しづらいものではありますが、面識のない相手に個人情報を開示しないようにすることなど、児童生徒への安全教育が非常に重要といえそうです。

③マスク着用と熱中症

高温や多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症のリスクが高まる恐れがあると考えられています。マスク着用によって、皮膚からの熱が逃げにくくなる、気づかないうちに脱水症状になるなど、体温調整がしづらくなるためです。国としては、学校の体育の授業におけるマスクの着用は不要としつつ、感染リスクを避けるためには、地域の感染状況を踏まえて、児童生徒の間隔確保等の対策を講じることが必要としています。

ただし諸説あり、マスク着用によって口の周辺の温度は上がるが、熱中症のリスクを高める深部体温の上昇には直接影響しないとの研究結果もあります。いずれにせよ、気温管理や水分補給など、熱中症の基本的対策は引き続き推進する必要があります。

④弾道ミサイル

弾道ミサイルは、発射後10分もしないうちに到達する可能性もあると言われています。文部科学省 「学校安全の推進に関する計画に係る取組状況調査 〔平成30年度実績〕」 (2018) によると、弾道ミサイルが発射された場合の対応について、危機管理マニュアルや学校安全計画に反映した学校は48.1%。一方で、調査実施年度中に弾道ミサイルに関する避難訓練の実施又は合同訓練等に参加した学校は、13.4%にとどまっています。また、都道府県による差が大きく(公立学校のみを集計対象として、最大40.4%、最小1.6%)、最も訓練の取組がみられるのは茨城県、次いで宮城県となっています。いつ起こるか分からない未知の危機にも備えることが重要と考えられます。

⑤GIGAスクール構想と情報モラル

一人一台端末環境になり、情報モラル教育の重要性は一層高まっています。ID・パスワードの適切な管理などの指導を推進することが求められます。同時に、端末の活用頻度が増えれば情報モラルを意識する機会も自然と増加すると考えられ、相乗効果が期待されます。

おわりに

いかがでしたか?児童生徒一人一人が危険に対して自ら適切に判断し、主体的に行動できるようになれば、それは一生ものです。取組の際は、学校・地域社会の協働を図り、より豊かで充実した安全教育を推進する必要があるといえます。

社会の変動に伴い今後も未知のリスクの出現が予測されます。脅威となりうる事象に関心を持ち続け、必要に応じて学校安全計画に反映することは、実効的な学校安全推進のカギとなるでしょう。

構成・文・イラスト:内田洋行教育総合研究所 研究員 長谷部

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