2020.08.10
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意外と知らない"学校保健"(第3回) 学校での感染症対策

新型コロナウイルス感染症の流行によって、未曽有の事態に直面する教育現場。感染症というと、従来のインフルエンザや麻疹(はしか)も含まれますが、学校では平時からどのような感染症対策がなされているのでしょうか。また、2020年の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、学校等の児童生徒が利用する施設ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。今回はこれら2点に着目して学校の感染症対策を解説します。

感染症とは

感染症とは、環境、つまり空気・水・土壌・動物などに存在する病原性の微生物が、人の体内に侵入することで引き起こす疾患です。感染症を引き起こす微生物を病原体といい、例えばウイルスの仲間ではインフルエンザウイルス、ノロウイルス、コロナウイルス等、細菌の仲間では腸管出血性大腸菌(O157)、コレラ菌、結核菌等が挙げられます。病原体が人間の体内に侵入するだけでは感染とはいわず、侵入に加えて定着・増殖することで感染が成立します。

感染を成立させる条件は、感染源(病原体)・感染経路・人(主体)の3つです。そのため、感染対策のポイントとして図1の3つの方針(感染源を絶つ、感染経路を絶つ、抵抗力を高める)があるといえます。

さらに、ポイント2「感染経路を絶つ」に関連して、主な感染経路として空気感染(飛沫核感染)・飛沫感染・接触感染の3つが挙げられます(表1)。空気感染する病原体の例としてはノロウイルス・麻疹ウイルス・結核菌、飛沫感染で起こる疾病例としてはインフルエンザ・おたふく風邪、接触感染の例としては感染性胃腸炎等が挙げられます。新型コロナウイルスは、一般的に飛沫感染、接触感染で感染するといわれています。

表1 3つの主な「感染経路」
感染経路
1 接触感染 以下のような接触によって病原体が付着し、体内に侵入。
・皮膚や粘膜の直接的な接触
・手やドアノブなどによる間接的な接触
・ノロウイルス
・ロタウイルス
・腸管出血性大腸菌(O157)
2 飛沫感染 咳やくしゃみ、会話による飛沫に含まれた病原体を吸引。 ・インフルエンザ
・おたふく風邪
3 空気感染 飛沫に含まれる水分が蒸発することで空気中に浮遊した、病原体を吸引。 ・ノロウイルス
・麻疹ウイルス
・結核菌

学校における感染症発症時の対応

学校における感染症発症時の対応として、学校保健安全法では、①出席停止②臨時休業の2点が規定されています(引用1)。①出席停止については、感染症によって異なる出席停止期間が規定されています。表2に示すように、感染症は3つに大別することができます。第一種の感染症にかかった場合は感染症が「治癒するまで」、結核・髄膜炎菌性髄膜炎や第三種(その他感染症を除く)の感染症にかかった場合は「感染のおそれがないと認めるまで」と規定されています。他方、第二種(結核・髄膜炎菌性髄膜炎・風疹・水痘を除く)の感染症については、具体的な数値を用いて出席停止期間が規定されています。例えばインフルエンザは、発症した後5日を経過し、かつ解熱後2日(幼児は3日)を経過するまでが出席停止期間です。新型コロナウイルス感染症は、2020年2月7日~1年間は第一種感染症とみなすことになっています。

②臨時休業は欠席率罹患者が急激に増加したときに、その状況と地域におけるその感染症の流行状況等を踏まえて決定されます。学級閉鎖・学年閉鎖・学校閉鎖の3つの選択があります。休業の判断は「学校の設置者」が行います。つまり、公立学校は「市町村・都道府県の教育委員会」が、私立学校は「学校法人」が休校の判断をします。2020年春、新型コロナウイルス感染症の感染拡大予防のために休校措置がとられましたが、こちらも②が根拠となっています。

多くの人を巻き込む点で、②を決断することは勇気が求められるかもしれません。②が有効な感染症としては、潜伏期間が比較的短い感染症(例:インフルエンザ)や感染性胃腸炎(例:ノロウイルス)が挙げられます。逆に、潜伏期間が長い感染症だと、②を決断する頃には既に感染が蔓延している可能性があります。

引用1 学校保健安全法より

(出席停止)
第十九条 校長は、感染症にかかっており、かかっている疑いがあり、又はかかるおそれのある児童生徒等があるときは、政令で定めるところにより、出席を停止させることができる。

(臨時休業)
第二十条 学校の設置者は、感染症の予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部又は一部の休業を行うことができる。

表2 感染症の種別
種別感染症例
第一種 エボラ出血熱、ペスト 等
第二種 インフルエンザ、百日咳、麻疹(はしか)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、風疹(三日ばしか)、水痘(水ぼうそう)、咽頭結膜熱(プール熱)、結核、髄膜炎菌性髄膜炎
第三種 コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス、流行性角結膜炎、急性出血性結膜炎、その他感染症(感染性胃腸炎、溶連菌感染症、マイコプラズマ感染症 等)

児童生徒を新型コロナウイルス感染症から守る

感染のリスクから守る

では、児童生徒を昨今の新型コロナウイルス感染症から守るために、どのような手立てが考えられるでしょうか。代表的な対策は文部科学省の「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~『学校の新しい生活様式』~」にまとめられていますが、冒頭の図1「感染症対策のポイント」3つに紐づけると、表3のような取り組みがなされているといえます。

表3 学校における新型コロナウイルス対策
対策のポイント
感染源を絶つ ・風邪症状のある児童生徒・教職員の休養徹底
・校内の消毒
感染経路を絶つ ・手洗いの励行(ポスターの掲示等)
・分散登校・時差登校
・ICTの活用(チャット機能を使った話合い、オンライン上での発表資料共同作成等)
・感染リスクの高い教科活動の自粛検討 (例:長時間・近距離・対面形式のグループワーク、室内・近距離の合唱や管弦楽演奏)
・学校給食の配膳過程の省略
抵抗力を高める ・「十分な睡眠」、「適度な運動」、「バランスの取れた食事」の励行(保健だより発行等)

2020年度第2次補正予算「新型コロナウィルスに伴う学校保健に係る特別対策事業等(143億円)」では、幼稚園や学校が、布製マスク、清拭用消毒液、手指用消毒液、非接触型体温計、ハンドソープ、マスク手作りキット、ペーパータオル、フェイスシールド、ビニールカーテン、アクリルスタンド等の感染症対策・保健衛生用品を購入するための費用も補助されています。

感染以外のリスクから守る

感染を防ぐことができても、感染以外のリスクも考えられます。例えば、ストレスによる心的影響です。非日常的な生活を強いられている児童生徒たちは、メディアからの情報や家族の様子から心的負担がかかっていると考えられ、心のケアが求められます。また、新型コロナウイルス感染症に起因する差別や偏見も懸念されています。そのため、学校で正しい知識を与える教育環境や、支援・相談体制を整備することが重要です。心身両面をケアしようと、「養護をつかさどる」教職員である養護教諭を中心に取り組みが進められています。

また、コロナ対策によって教育活動が縮小することもまた、児童生徒の発達にとってリスクとなる可能性があります。教育活動が安全に継続されるよう、教育に関連する各施設・団体からガイドラインが提示されているので、表4に列挙しました。これらは、文部科学省HPに「業種別ガイドライン」として掲載されています。ただし、感染症対策に関する知見・情報は更新される可能性があります。各所から発行されているマニュアルやガイドラインは随時見直しが行われる場合があるので、最新版を追う必要があります。

表4 各施設・団体によるガイドライン
教育活動・施設対策例ガイドライン・マニュアル例
学校教育活動全般 ・分散登校、時差登校
・感染リスクの高い学習活動の自粛検討
文部科学省「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~『学校の新しい生活様式』~」(2020/6/16 Ver.2)
学校図書館 ・ブックポストや返却箱等を用いた返却
・電子書籍サービス等の活用
(公社)全国学校図書館協議会「新型コロナウイルス感染症拡大防止対策下における学校図書館の活動ガイドライン」(2020/6/30一部修正)
公民館 ・直接手で触れる展示物の撤去
・各室ごとの人数制限
公益社団法人全国公民館連合会「公民館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(2020/5/25一部改訂)
社会体育施設 ・更衣室や休憩スペースのゆとり確保
・スポーツ用具の持参要請
スポーツ庁「社会体育施設の再開に向けた感染拡大予防ガイドライン」(2020/5/25改訂)
民間検定試験 ・PC等の器具の消毒
・面接試験会場でのアクリル板等の設置
特定非営利活動法人全国検定振興機構「民間検定試験等の実施における新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」(202/6/19改定)
修学旅行 ・朝夕の検温実施
・移動中のマスク着用、会話自粛
一般社団法人 日本旅行業協会「旅行関連業における新型コロナウイルス対応ガイドラインに基づく国内修学旅行の手引き」(2020/6/23 第2版)

まとめ

いかがでしたか。学校保健をテーマに、第1回では養護をつかさどる人として「養護教諭」、第2回では場として「保健室」、そして第3回では2020年の新型コロナウイルス感染症流行を受けて「学校での感染症対策」について見てまいりました。児童生徒の学習の機会を保障しつつ感染症対策や心的ケアを行うことは、決して容易ではありません。したがって、以前より課題とされていた教員の長時間労働に拍車がかからないよう配慮すること、また、感染症対策として、児童生徒だけでなく先生方ご自身の心身のケアもしていただくことが重要だと考えられます。

構成・文・イラスト:内田洋行教育総合研究所 研究員 長谷部

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