2020.07.27
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意外と知らない"学校保健"(第1回) 養護教諭の仕事

新型コロナウイルス感染症の拡大が懸念される昨今、各学校におかれましては感染症対策にご尽力されているところかと思います。今回は3回にわたり「学校保健」をテーマに取り上げます。

第1回のテーマは、学校保健推進の中核となる保健室の先生「養護教諭」です。学級担任の先生とは、子どもの頃には毎日顔を合わせ、保護者になると授業参観や面談時に対面するので馴染みがあるかと思いますが、保健室の先生とは比較的接点が少なく、「けがや体調不良のときに頼れる優しい先生」といったイメージは持っていても、その職務は意外と知られていないのではないでしょうか。記事を通して、「養護教諭」の法的な定義や職務等について解説します。

「学校保健」とは

図1 保健管理と保健教育

学校保健とは、児童生徒および教職員の健康を保持増進するために、学校において行われる保健活動の総称です。学校保健の特徴は、保健管理だけでなく保健教育も実施されている点にあります。保健管理とは、救急処置や健康診断、疾病予防等を指します。保健教育とは、保健指導や保健学習等を指し、体育科・保健体育科をはじめとする関連教科などを通じて、児童生徒が自分や他者の健康課題を理解し、自発的な自己管理を生涯にわたってできるようにすることを目指します。(図1)

養護教諭の定義

学校保健活動の推進にあたって中核となるのが保健室の先生「養護教諭」です。教諭が「児童の教育をつかさどる」一方で(学校教育法第37条第11項)、養護教諭は「児童の養護をつかさどる」と規定されています(同第12項)。言い換えると、養護教諭とは、学校において児童生徒の健康を保持増進する役割を担う先生だと言えます。

養護教諭の免許は、大学・短期大学等の看護学部や教育学部等で必要単位を修得することによって、取得できます。履修内容は大学によって異なりますが、教育学、保健学、看護学、医学、心理学などの講義や実習を通して、幅広い分野の専門知識・技術を身につけます。

歴史を遡ると、養護教諭の原点は、明治時代、岐阜県の小学校で当時流行していた感染症対策のため学校看護婦が採用されたことにあるようです。戦前に教育職員として位置づけられました。1995年に従来教諭が担当してきた保健主事を、養護教諭も担当することが可能になり、1998年には養護教諭は保健の授業を単独で実施できるようになりました。このように、養護教諭の仕事の幅は年を経るごとに広がりつつあります。

余談ですが、養護教諭の英語表記をご存知ですか。正解は、Yogo teacher” です。かつては、養護教諭は ”School Nurse” と表記されていました。しかし、「養護」と「看護」は同義ではありません。日本の「養護」が内包する意味(児童生徒の健康の保持・増進に努める)にこだわった結果、”School Nurse” 以外の表記が検討され、ネイティブスピーカーも交えて多方面の意見を総合したところ、”Yogo teacher”という表現が採用されました。これは日本養護教諭教育学会にて正式に承認されています。

養護教諭の職務

養護教諭の職務には、次のようなものがあります(表1)。以下、①~④の4つのキーワードに沿って解説します(図2)。

表1 養護教諭の主な職務内容
No.項目
1 保健管理 救急処置
健康診断
健康観察(欠席・早退の把握を含む)
保健室利用状況の分析・評価
校内全体や特定の個人の疾病予防・管理
学校環境衛生
校舎内外の安全点検
2 保健教育 保健指導
保健体育の授業への参画
3 健康相談 健康課題への対応
関係者間のコーディネータ業務
4 保健室経営 保健室経営計画の作成・実施など
設備備品の管理
5 保健組織活動 PTA保健委員会活動への参画・連携
児童生徒保健委員会の指導
6 その他 学校保健関連研究
※公益財団法人 日本学校保健会 「保健室経営計画作成の手引き(平成26年度改訂)」P.9~10を参考に作成
図2 養護教諭の職務イメージ

①養護をつかさどる~職務全般~

表1の職務一覧を見ると、養護教諭がいかに児童生徒の見えないところで学校保健に係る多様な機能を果たしているかが分かります。健康というと、からだの健康を第一に思い浮かべる方が多いと思いますが、養護教諭は心身両方の健康にアプローチします。その点は、スクールカウンセラーとスクールナースがそれぞれ「心」と「からだ」に特化している海外と異なる点といえます。

とりわけ、現代の児童生徒には、肥満・痩身、生活習慣の乱れ、メンタルヘルスの問題、食物アレルギーなど、多様な心身の健康課題が生じています。中には、児童虐待や自傷行為など深刻な問題を抱えるケースもあります。それらの多様化・複雑化した健康課題には、養護教諭が専門性を生かしつつ中心的な役割を果たすことが期待されています。

また、保健室に蓄積した来室情報に基づいて、生徒指導を行う例もあります。まさに、教育データ活用の一例と言えます。

②コーディネータとしての役割を担う~職務全般~

養護教諭は、他の教職員等と連携して、児童生徒が健康な生活を送るための支援を行います(図3)。例えば、健康課題を抱える児童生徒を支援するに当たり、学級担任は児童生徒の変化にいち早く気付ける立場として、児童生徒の観察をします。教員以外のスタッフ(学校医スクールカウンセラースクールソーシャルワーカー)は、特定の児童生徒に関して気づきがあれば学校に報告します。学校の設置者、つまり教育委員会等は、各学校が児童生徒が抱える課題に対して適切に対応できる体制を支援します。そして、養護教諭は児童生徒や学級担任、管理職、教員以外の専門スタッフ、保護者に対してコミュニケーションを図り、また、専門家として医学や現代的な健康課題等についての最新の知見を学びます。養護教諭は、児童生徒の課題解決の体制において、人と人、人と知をつなぐ役割を果たすことが求められています。

新型コロナウイルス感染症による休校期間中も、養護教諭は学校と学童のコーディネータ役として機能していたという報告が複数寄せられています。毎日養護教諭が学童に来た子どもたちの健康観察と学童スタッフとの情報交換を実施し、そこで得た情報を管理職や担任と共有したり、また、学童の子どもたち手洗い指導や心のケアも行ったりしていました。

③スピード感が求められる~保健管理(救急処置)~

養護教諭の代表的な職務の一つに、救急処置があります。けがや急病などは予期しない時に生ずるものですが、その際の初期対応は非常に重要です。初期対応を正確に行うか否かがその後の治癒に大きく影響することもあります。また、救急処置と並行して、その児童生徒の保護者や病院の医師など、各所とも連絡をとります。起きた状況など、事前に事実の整理・把握をして、保護者等への説明に備える必要があります。

④保護者・教職員の相談も受け付ける~健康相談~

また、養護教諭がケアをする対象は、児童生徒に限りません。日本学校保健会「養護教諭の職務に関する調査(2014年度)」によると、健康相談は児童生徒に限らず、保護者や教職員からも寄せられています。特に、教職員からは、子どもたちの心身の健康に関することだけでなく、教職員自身に関することも相談されていることが示されています(回答した養護教諭のうち、幼稚園65.3%、 小学校73.5%、 中学校78.8%、 高等学校79.2%、 特別支援学校86.6%が該当)。また、健康相談者の多様性は実態として報告されているだけでなく、文部科学省が発行する資料においても養護教諭に求める役割として明記されています。文部科学省 「現代的健康課題を抱える子供たちへの支援~養護教諭の役割を中心として」には、養護教諭は「誰でも(児童生徒、保護者、教職員等)いつでも相談できる保健室経営を行う」役割を担うと記されていて、それによって課題を抱える対象者を把握することができると述べられています。

まとめ

いかがでしたか。養護教諭の定義や、職務として児童生徒の心身両方のケアを行っていること、学級担任や学校医など児童生徒の健康を支える人たちの中心となっていること、児童生徒だけでなく保護者・教職員のケアまで行っていることなどがわかりました。次回は学校保健に関する施設である保健室について掘り下げてみます。

構成・文・イラスト:内田洋行教育総合研究所 研究員 長谷部

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