2004.05.04
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NPOが拓く! 学校と企業との新しい連携 NPO法人企業教育研究会

総合学習の導入やさまざまな規制緩和を背景に、学校と地域、学校と企業の連携が進んでいる。従来の知識注入型の教育から、「生きる力」を育むために、学校は自然の中に、あるいは実社会の中に、とどんどん外に出ていこうとしている。また、企業でも、社会貢献のあり方の一つとして、「教育貢献」に力を入れるところが出てきているという。

 

 
 
 
 
 
 
 

「クイズで学ぶ!食品の輸入」の授業。学生スタッフが、明治屋に取材したビデオを見せながら授業中。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 

学校紹介ポスターを作ろう!~送り手の立場に立ってみる」の授業。アサツーDKに協力をいただいた。
 
 
 
 
「未来の自動車をプロデュースしよう!~環境のことを考えて」の授業で使用したダイハツ工業株式会社の取材ビデオより。
 
同じく「未来の自動車をプロデュースしよう!~」の授業。学生スタッフが、車の動く仕組みについて説明中。

 
 
 
 
 
 
千葉大学教育学部 助教授 藤川大祐先生
 

学生スタッフたち。『テレビゲームにハマルのはなぜか』というテーマでどんな授業ができるか会議中。

 しかし、「学校と地域の連携」に比べると、「学校と企業の連携」は、なかなか敷居が高い、と思う学校も多いのではないだろうか。そんな中、『企業と学校を結ぶ』ことを目的に活動しているNPO法人企業教育研究会があると聞き、理事長を務める千葉大学教育学部助教授 藤川大祐氏の研究室を訪れた。

■NPO設立の背景

 藤川先生は、一般の教科はもちろん、総合学習、メディアリテラシー、ディベートなど、時代が求める新しい授業の開発を研究テーマとしている。

「国際化、高度情報化、少子高齢化といった、変化の激しい時代を生きる子どもたちには、机上の勉強だけでなく、もっと、リアルな社会との出会いが必要です。でも、現場の先生方は忙しくて、時代のニーズに合った授業を次々開発している時間がない。だから、企業との連携というと、企業の人をゲストティーチャーに招き、講演してもらうだけ、というのが一般的でした。しかし、それで子どもたちは本当に面白いのか、疑問に思っていた。もっと違った企業との連携のあり方があるはずだと思ったのです。」

ならば、現場の先生たちに代わって、新しい授業を開発し、学校と企業の間に立って、授業づくりの橋渡しをしよう、ということから、平成14年に「企業教育研究会」は発足したのである(平成15年3月にNPO法人として認定)。現在、20名弱の学生、院生がスタッフとして活動している。

■授業はどう作られる?

 「NPO法人企業教育研究会」の授業の一番大きな特徴は、“企業と連携”といっても、企業の人はほとんど、あるいは一度も学校に来ないで授業を成り立たせていること。その理由を藤川氏はこう語る

「直に企業の人に会うことによるインパクトは確かにありますが、現実問題、授業当日や、打ち合わせの度に学校に来てもらうのは企業の人も負担になるし、企業との対応に慣れない学校側にとっても負担です。」

ではどうするのか。学生スタッフが、学校・企業間のコーディネータとなり、「企業への協力依頼」「企業訪問して下取材」をあらかじめ行う。そして、次が「NPO法人企業教育研究会」ならではなのだが、学生スタッフが、授業の構成にそって「企業をビデオ取材」し、それを「編集」、授業当日に持ち込む。子どもたちに見せ、ビデオ映像を織り交ぜながら授業を進行させる。
 これまでに30余りの授業を行ってきたということだが、基本的な構成は次のとおりである。

1) まず、企業から「○○について提案して欲しい」といった課題が与えられる
2) 企業の方からヒントとなる情報が与えられる
3) 子どもたちは課題に応えて活動する
4) 活動の成果を学生スタッフが企業に届け、コメントをいただく
5) 企業からのコメントがビデオやお便りなどで子どもたちに伝えられる

 実際に、企業に行かず、また担当者に会わなくても子どもたちの参加意識は高まるのだろうか。

「ビデオというのは子どもたちも入りやすいのです。ちゃんと編集していますから、テレビ番組を見るような感覚でしょうか。また、企業の○○さん、という『人』に焦点を当てたビデオづくりをしていますから、子どもたちも親近感を持てるのです」

そして、この授業には、他にも子どもたちの心を掴むポイントがある。

「面白い授業の条件とは何でしょうか。知的好奇心を刺激する、というのは誰でも考えると思います。でもそれだけではダメです。この授業が子どもに受け入れられたのは、『承認欲求』を満たしてあげたからなのです」

承認欲求、つまり他人から認められたい、という欲求である。この授業では、「企業に勤める大人」から指令が来る。それに応えて活動した結果について、企業の人からコメントをもらう。一人前の大人が、真摯に子どもたちに向き合ってくれるのである。これが子どもたちにとっては最高のモチベーションとなる。よりいいものを作って、いいコメントをもらいたい、と俄然張り切るのである。

 この授業は、文部科学省の学力向上アクションプランの中の「NPO等と学校教育との連携のあり方についての実践研究事業」に選ばれ、千葉県の2つの小学校で実施されたが、いずれも、子どもたちから高い評価を得ているという。今年度も、同じ2つの小学校で、年間20~30の授業が行われる予定だ。

 授業はどのように作られるのだろうか。
「学生が、自分のやりたい授業の指導案を先生に提案して、賛同が得られれば実施するという場合と、学校から『この単元のこの授業で手伝って欲しい』という依頼を受けて、授業の構成を企画する場合もあります。たとえば、社会の授業で『街のガイドブックを作る』という単元がありますが、この授業をどこの企業とやったら面白いか検討して、めぼしをつけた企業に直接コンタクトを取る。ちゃんと主旨を説明すると、たいていの企業は快く協力してくれます」

こうした企業との交渉には、NPO法人という組織体制をとったことが役に立つ。
「大学として依頼に行くと、就職活動の一環と思われたり、こちら側にも学生の活動だからという甘えが出る。NPO法人にしたことで、信用もできるし、企業とも対等に交渉できるのです」

■活動の意義は?

これらの活動から利益は出るのだろうか。
「収入は文科省の助成金等以外に特にありません。しかし、学生たちが、実際に学校で授業を経験したり、企業と接することにより学ぶことは大きい。また、もともと新しい授業の開発が研究テーマですから、開発したものを実践する場が得られ、検証できるというのもメリットです。学生スタッフたちが、この活動で得た体験を持って教育現場に就職すれば、学校を社会に向けて開くことに貢献してくれるでしょうし、もし一般企業に就職したとしても、企業の『教育貢献』のために活動してくれる人材になってくれるはずです。これも長期的に見ると大きなメリットだと思います」
何より、こんなエキサイティングな授業を経験できる子どもたちに、最もメリットがあるに違いない。
「長い間、学校は内に閉じた世界でしたが、これからはもっと外とつながるべきです。我々のような、学校と外の世界を繋ぎ、外から学校を支援する団体がもっと増えてもいいと思います」
小学校から社会との接点を意識することは、その後進路選び、職業選択だけでなく、生活のさまざまな場面で役に立つことだろう。ぜひ、全国的に活動を広げて欲しいものだ。

cover
藤川先生とNPO法人企業教育研究会が作った授業は
『「確かな学力」が育つ 企業とつくる授業』(教育同人社)に詳しく掲載されています!
学びの場.comの会員の方3名様にプレゼント!(プレゼント応募期間は5月12日~6月8日まで)

NPO法人企業教育研究会のホームページ
http://ace-npo.org/

(取材・構成/高篠栄子)

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