2003.01.07
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情報教育を、教科学習にいかに取り込むか 柏市立逆井中学校

「2005年までに全国の学校のすべての教室にコンピュータを整備し、インターネットにアクセスできる環境を実現する」という目標のもとに、全国で進められている「教育の情報化」。総合的な学習の時間では、インターネットによる情報収集、コンピュータを使ったプレゼンテーションなど、子ども達がコンピュータを日常的に使う姿もめずらしくなくなりつつある。しかし、通常の教科学習での利用となるとどうだろうか。  柏市立逆井中学校の取り組みにそのヒントを見た。(11/22)



小菅由之先生

 




 
 
 
 

地域学習のための素材、指導計画、生徒の発表などを公開しているwebサイト

 

この授業の学習コンセプト
 

生徒たちの作品1


生徒たちの作品2

生徒たちの作品3
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 
 
 


 

 

教科学習で情報機器を利用する場合、コンピュータ教室への移動、事前のマシン整備、トラブルによる授業の中断など、貴重な授業時間を侵食する要素も多く、「日常的にさりげなく」利用するにはハードルが高いと考える先生も多いのではないだろうか。

 
今回取材した、柏市立逆井中学校は、先進的教育用ネットワークモデル地域事業に指定され、平成13年より柏市の情報教育の指定を受け研究を推進中である。同校の日常の授業でのインターネットやコンピュータの活用の様子について、社会科教諭小菅由之先生にお話を伺った。


■事前準備
は必須
 
 取材当日は、1年4組で社会科の授業が行われていた。普通教室に、発表用のノートパソコン1台、液晶プロジェクタ1台での授業である。

 学習テーマは、 「逆井・藤心地区にある石造物を調査し、インターネットwebとして発表しよう」(単元:社会科地理的分野 身近な地域の調査)。逆井中学の周辺は、江戸時代に多くの旅人が成田山参拝に訪れ、道案内として各所に石仏が建てられたという。生徒たちは、これらの石仏について、インターネットによる下調べ、現地での本調査を経て、調べた内容をパソコンで編集。これをインターネット上に公開し、プロジェクタで投影しながら、プレゼンテーションを行った。

 生徒たちは、とどこおりなく、次々に発表をしたが、普通教室で、トラブルなくパソコンを使って授業をするには
、実は綿密な準備が必要である。生徒たちは、一見インターネットにアクセスし、ホームページ上に公開している発表資料を使って発表しているように見えたが、実際はあらかじめ、小菅先生がCD-ROMに必要な情報をすべて保存し、インターネットを使わないで発表していたのである。

「実際にインターネットにアクセスすると時間がかかるし、エラーになることもある。今日は発表の日なので、予定内にスムーズに終わらせるためには仕方がないのです。通常の授業では、もちろん実際にインターネットを利用しています」

■教科学習では教科の指導に徹する

 

 

(取材・構成:学びの場.com)

 

 調査した内容は、パソコンで原稿を書き、写真を貼り付けて編集する。写真などの画像データは、あらかじめ先生が撮ったものをインターネット上の素材集に保存しておく。そこまでするのは、「デジカメを生徒ひとりひとりに持たせられないし、画像処理といった作業は社会科の教科学習には直接関係がないから」だという。

 編集作業には、ワープロソフト(一太郎スマイル)を使用。そのデータを小菅先生がJPG形式に変換してインターネット上に公開しているという。最終的にインターネットに載せるのなら、ホームページビルダーなどのホームページ作成ソフトを使用した方が早いのではないだろうか。

「ちゃんとしたホームページを作ろうと思うと、HTMLについても多少は知識が必要ですし、凝り始めたらキリがない。でもホームページ作成自体がこの授業の本来の目的ではありません。社会科の授業では、純粋に教科学習を展開したいので、パソコンやインターネットのスキルの指導を行うことはほとんどないのです。
 それから、ワープロソフトで作ったデータをJPGにするもうひとつの理由は、HTMLのページだと、テキストや写真のコピーが容易にできてしまうからです。JPG形式のデータなら、簡単にコピーしたり改ざんしたりできません。インターネットで教材や生徒の作品を公開する方法として、現時点では、この方法が最もいいと思っています」

■生徒たちのパソコンスキルは教師以上

 パソコンスキルの指導は行わなくても授業に支障をきたすことはないのだろうか。

「以前、1、2年の生徒を対象にパソコンスキルについてアンケートを取ったのです。それによると、ほぼ8割の生徒の家庭にパソコンがあり、そのうち9割がインターネットに接続されている。また、約半数の生徒がメールを使用したことがあることがわかりました。最近では小学校の時に授業でパソコンを使用し、かなり慣れている生徒も増えています。高度な技術も生徒同士で教え合ってマスターしている。授業でパソコンを使う土壌はかなりできていると思っていい」
と小菅先生。

■これからはパソコンスキルではなく、
 メディアリテラシーが重要な時代


 しかし、一方で、問題もある。
「生徒たちは、ネットで見た情報を何の疑いもなく信じてしまう。検索した内容をプリントアウトして綴じただけのものを悪びれずに宿題として提出する生徒が出てきました。彼らを見ていると、もうパソコンスキルの教育の時代は終わって、その情報が本当に正しいかどうか判断する、メディアリテラシーを教育する段階に入りつつあるような気がします」

 さらに気になるのは、「足を使って地道に情報を集める」ということをしない生徒が増えているということ。今回の学習でも、生徒たちは、実際の石仏を探しに現地調査に出かけたが、ただデジカメで写真を撮るだけでなく、巻尺を持って実際に大きさを計ってみる、メモを取ったり簡単なスケッチを残す、テープレコーダで現地の情報を記録する、など、手足や五感をフルに活用することを勧めている。

「何でも安易にプリントする、というのも問題です。ワープロの綺麗な文字を見て学習が完了したような気になっている生徒も多いのです。やはり自分の手でノートに書いてまとめるという訓練も大切だと思っています」

 こうしてみると、子ども達に関しては、パソコンスキルの修得はほとんど心配はないが、それと引き換えに忘れ去られがちな、面倒な手作業の部分を意識的に盛り込みつつ授業を構成する必要がありそうだ。

「たとえば、“地図を作る”、“地域のことを調べてパンフレットを作る”という作業単元があります。教科書ではいまだに手描きの作例が掲載されていますが、これからはパソコンで作る時代ですし、今の子どもならできちゃうでしょう。そういう意味で、パソコンの指導も社会科の授業の一環だと思います。
 でも、それが単なるスキルの指導であってはいけない。手足を使って実際に調べ、調べたことをどういう形で構成し、情報デザインするか、そういったプロセスの指導が大切です。パソコンはツールに過ぎないのですから」
 

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