2002.09.17
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Little Artist~CGや絵画で自分発見 専門学校東洋美術学校と新宿区教育委員会の取り組み

東京都新宿区内に在住の中学生たちが、この夏休み、同区内にある専門学校を訪れ、授業を体験した。 ---この授業は以前、ご紹介した専門学校東洋美術学校と新宿区教育委員会の連携事業のひとつで、参加した中学生たちはCGコースと絵画コースに分かれて、アートに触れる4日間を過ごした。

■アートに触れ、自分を見つめる4日間

 今回の授業は、文部科学省が平成11年に打ち出した「全国子どもプラン(緊急3ヵ年戦略)」の「土曜日・夏休み専修学校体験学習」を始まりとしており、このプランに強く賛同した専門学校東洋美術学校が、新宿区教育委員会と連携して4年前から実施している。毎年、CGと絵画の2つのクラスをそれぞれ実際に同校で教鞭をとる先生方が担当し、学校の設備を活用した授業が展開されることで好評だ。

 今年度からは同プラン終了に伴い、同校が自主的に開催、区教委は区内の中学校向けに参加者を募るチラシの作成・配布を行い協力するという形での連携事業となった。

■CGで、思うままに表現する

 東洋美術学校のコンピュータ実習室にはずらりとMacが並ぶ。CGクラスに集まったのは14名の中学生。グラフィックソフトの使い方を習い、「卓上時計」の文字盤のデザイン制作に取り組む。

 Macを使うのは初めてという参加者が多かったが、今年度は全員がパソコンを学校や家庭で利用しており、Windowsの基本操作はマスターしているため、大きなトラブルもなく進められた、と授業を担当した小坂恭子先生は驚く。

 静まり返った実習室内で、ただ自分の思うままを画面上で表現する子どもたち。時折、先生や助手の皆さんにアドバイスを受ける。キャラクターを作る子、様々なデザイン文字や模様、色面を変えて色の美しさで表現する子と個性あふれる作品が次々と作られる。

「なかなか上手にできたでしょ?」緻密に描かれた作品を見せる男の子。一心に納得の行くまで作り直している女の子。

 CGクラスでは、この4日間に卓上時計の文字盤のデザイン作成のほか、カレンダーとアイロンプリント用のデザインを制作した。













 

 

■紙に、キャンバスに「描きたい想い」をぶつける

 一方、様々な石膏像が並ぶデッサン室。ここに集まったのは絵画コースの25名。絵画コースでは、前半2日間で油絵、後半2日間で透明水彩で作品を制作する。

まず、前半の油絵からスタート。油絵は学校の授業では習っていないため、この授業の担当で同校教頭の小野正孝先生が道具の説明を始める。道具の名前や使い方などの説明の最後に「大事なことは描きたいものをよく考えること。特に決まりはないんだよ」と笑う。

 各自、モチーフは持参している。子どもたちは画集、雑誌の切抜き、ポストカードなどを手にキャンバスに向かう。ほとんどの子どもが下描きをしていたようだが、それが終わると油絵の具をパレットに搾り出し、筆で色を少しずつ重ねていく。もうひとり、この授業を担当した山田晃世先生のアドバイスに聞き入る子どもの目も真剣だ。

「絵は思い込みが大事だよ。どれだけ描きたい想いを持っているかで違ってくるよ」と子どもたちの間を見て回りながら小野先生は話す。

好きなキャラクターをモチーフに選んだ女の子は「油絵は初めてで緊張しました。でも、楽しい」
一緒に参加していた友だちも「絵の具をぼかすところがおもしろい」とすっかり油絵に魅了されたようだ。

また、見学に来ていたお母さんは、今回参加したきっかけを「この子は絵を描く時、水を得た魚と言うのでしょうか、とてもいい表情になるんです。そういう部分を大事に伸ばしてあげたいと思って」と話してくれた。
















創作を通して、自分を見つめる

 最終日、CGクラスの子どもたちは、制作した絵をプリントし、時計を組み立てたり、持参したTシャツにアイロンプリントを接着させていた。プリントした文字盤を貼り付け、組み立てた時計がきちんと動かず、何度も試したり、アイロンプリントを切り抜いて、アイロンを押し当てたり、今まで黙々と座ったまま制作にかかっていた子どもたちは笑い声をあげながら、楽しそうだ。

 「昨年はデザイン制作のほかに、3Dフラッシュを使ったアニメ制作を行い、展開について行けない子どももいました。今年は、デザイン制作に絞ったためゆっくり取り組めたと思います。また、自分が作った作品が実際に時計やTシャツといった思い出として残ることがいいですね」と小坂先生。

 参加した子どもたちは、「今までパソコンをゲームで使うことが多かったです。今回、グラフィックソフトの使い方がわかったので、パソコンを使う幅が広がってよかったし、家でもやってみようと思います」

 同じ頃、絵画クラスの子どもたちは透明水彩画の仕上げに取り組んでいた。透明水彩は、水をたっぷり含ませて描くため、ドライヤーで乾かしながら描き進める。細く輪郭をつける方法を習ったり、混色の仕方を質問するなど、ふたりの先生に教わりながら作品を完成させた。

 3年生の女の子は、「普段の授業では習わないことを、丁寧に教えてもらえると思って参加しました。描画の仕方や、道具の使い方を覚えられ、学校の授業でも役立てられます。また機会があったら授業を受けたいです」「将来、絵を描く仕事につきたいので申し込みました。はじめは緊張しましたが、絵を描くことは楽しいと改めて実感できる4日間でした」

 「絵を描くことにより、自分を発見して、もっと活き活きと自分を表現して生きて欲しい」こう話すのは、この企画に初年度から携わっている新宿区教育委員会生涯学習振興課の榎本実さん。同区では、東洋美術学校との実績を基に、「生きる力」に着目した、より実社会に近い内容の体験授業を都内6校の専門学校と連携して行っている。デザイナーや美容師など専門性の高い学校の授業を体験することにより、中学生たちに自分の将来を考えたり、適性を発見する手段にして欲しいと願っている。

「ありがとうございました」元気に帰っていく子どもたちは、この4日間できっと何かを見つけたに違いない。


(取材・構成:学びの場.com)

■関連リンク

専門学校東洋美術学校 
http://www.to-bi.ac.jp/

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