2002.08.27
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親子で「中国水墨画」にチャレンジ! 専門学校東洋美術学校と新宿区教育委員会の取り組み

「夏休み、親子で『中国水墨画』にチャレンジしよう!」~専門学校と教育委員会が協力した小学生の親子向け体験講座が大盛況!

東京都新宿区にあるアート&デザイン教育の伝統校、専門学校東洋美術学校と新宿区教育委員会が協力して、小学生親子を対象とした「中国水墨画講座」が開催された。難しそうな中国水墨画を本場中国から招いた先生が教えてくれるというもので、定員を上回る小学生親子が集まり、初めての中国水墨画にチャレンジした。





関乃平先生





 

■専門学校と教育委員会との連携事業

この講座は、文部科学省が平成11年に打ち出した「全国子どもプラン(緊急3ヵ年戦略)」の中の「土曜日・夏休み専修学校体験学習」から始められたものである。新宿区では、同プランに賛同した専門学校東洋美術学校が小中学生を対象とした体験講座を催した。そのひとつが小学生親子を対象とした「夏休み親子中国水墨画講座」。毎年、多数の参加者が集まり、大盛況。「地域の教育力の推進」と「学校機能の開放」への大きなー歩となった。本年度は文科省のプランが終了しているため、同校が積極的に開催し、区教育委員会は参加者の募集などで協力するという形での継続が決定した。なお、今年度より新宿区では同校での好評を背景に、新たに6校の専門学校が独自の体験事業を行っている。

専門学校東洋美術学校は、1946年に創立されたアート&デザイン教育の伝統校で、中でも珍しいのは「中国水墨画科」。この学科は以前より美術教育交流のあった中国の北京中央美術学院より教授陣を招聘して、1988年に日本で初めて開設した学科(開設当時は中国画科)である。

今回、この講座を担当したのは、中国水墨画学科学科長の関乃平先生と、同校卒業生で現在は教える側として活躍している椎名三知子先生の二人で、2日間に渡って行われた。


まずは”2”を描いて・・・










卒業生の澤田亮平さん





椎名三知子先生





猫は難しい・・・





個性豊かな猫たちが完成!

■親子で「中国水墨画」にチャレンジ!

朝から気温が上昇し、酷暑となった初日、会場となった同校の中国美術展示館内の教室には、9組18名の親子が揃った。このクラスは主に小学校高学年の子どもたちを中心に構成されている。

「そろそろ始めましょうか」と流暢な日本語で関先生。

同校教頭の小野正孝先生の挨拶に続いて、すぐに関先生の説明が始まる。みんなの周りに用意された筆や下敷き、筆洗いなど道具の説明の後、関先生を囲んで集まる参加者たち。先生の手元を見つめている。「今日は、まずお手本を見て、『黒鳥』と『猫』を描いてもらいます」

関先生によると、中国水墨画は、1つは伝統に学ぶ「模写」、2つは自然に学ぶ「写生」、最後に自分の思うままに描く「創作」と、3つの段階を学んでいくという。今回は、最も基本である「模写」と「創作」の2つに絞って学ぶ予定だ。

先生の墨汁の付け方や、筆に含ませる水の量を注意深く観察する。
「まず、“2”を描いて・・・」黒鳥の形は数字の”2”に似ているのだ。
関先生はお手本となる黒鳥の絵を見ながら描いていく。
「胸・・・、腹・・・、尻・・・、羽・・・、模様・・・、水面・・・」
始めは数字の“2”だったのに、段々『黒鳥』に変わっていく。
「すごい・・・」息を飲んで見守る子どもたちやお母さん。最後に赤い絵の具で口ばしを描き入れて、黒鳥の完成。

早速、各自席に戻り、実際に描いてみることに。
始めに何もつけない筆でお手本の黒鳥をなぞる人、墨汁をつけた筆を握ったまま動きが止まっている人、みんな、緊張して描き出せないのである。

「あ、本当の“2”になっちゃった!」描き始めたものの少々困った顔の男の子。
「ドキドキする~」と女の子。次第に、賑やかになる室内。
「鉛筆でなぞってから描いてもいいよ」と同校卒業生で今回お手伝いに駆けつけてくれた澤田亮平さんがアドバイス。個性豊かな『黒鳥』が出来上がり。

次に、『猫』に挑戦。
こちらは、椎名先生がお手本を描いてくれる。

見本となる『猫』を見て、「難しそう・・・」
「でも、自由に描いていいですよ」と安心させてくれる椎名先生。『猫』もあっという間に描きあげてしまう。

「描けるかな・・・」席に戻って筆を取る。
「顔が大きくて、ブルドックになっちゃった!」心配そうな男の子。
「みんな、失敗はないから大丈夫だよ」
関先生のアドバイスでみるみる猫へ変身する。
「よかった~」却って、堂々とした猫に完成した。
失敗なんてない、何でも自由に描いていい。そう関先生は笑った。

最後は自由創作。小学生の妹に付き添って参加していた高校生の姉は、するすると鳥を描きあげた。普段からよく絵を描くそうだ。持参した植物などの図鑑を模写するお母さん。小さい熊の置物を描く女の子。みんな、思い思いに描きあげて1日目は終了。

小学4年生の女の子と参加したお父さんは、「子どもの作品を観ていると、どれも独創的で教えてもらうことが多いです。子どもたちの大胆な筆使いは大人にはできない。大人は上手に描こうとするからね」と広げられた作品を前に語った。

また、あるお母さんは、「先生のを見ていると簡単そうなのに、水の含ませ方、筆を動かす速さ、力の入れ方が難しいです」でも、楽しそうに目を細めた。




関先生のお手本
























色鮮やかな作品の数々





教頭の小野正孝先生

■どんどん描ける、絵を描くって楽しい!

2日目、主に小学校低学年を対象にしたクラスにお邪魔した。この日は7組19名の親子が揃った。今日は「創作」がメインとなるので、それぞれ描いてみたいモチーフ、画集や写真集も持参、中には本物のピーマンを手にするお母さんもいる。

まずは、昨日と同じく関先生が『金魚』のお手本を見せてくれた。2日目とはいえ、先生の筆の動きに「難しい・・・」と苦笑い。思わず、筆を持つ手が止まってしまう。黒い金魚、赤い金魚、水面に浮かぶ水草・・・。涼しげな金魚の絵が完成した。

そして、いよいよ自由創作。
モチーフを観察しながら描く人、何も見ないで描き始める人など様々。今日は絵の具を使っているので、色彩豊かにヨーヨーや果物、風景などが描かれていく。

子どもの顔を描いているお母さんは、「一昨年も参加しました。夏休みの宿題で子どもと絵を描きに行くのですが、草花を見て、エンピツでスケッチして、色を塗るのに、考えすぎてしまうんです。その点、中国水墨画はあまり考えすぎずに描けることがいいと思いました」と話してくれた。確かに、何をどのように描いてもよい、失敗もない、みんな思うままに筆を運んでいる。描くのが早い子は、1時間あまりで6、7枚は描きあげてしまう。大胆な筆運びですっと描いて、色をつける。気軽に楽しめてしまうのがこの中国水墨画である。

好きな野球選手の顔を描いた小学校6年生の男の子は、描いた絵を関先生に褒められ、恥ずかしそうに照れながら「自分の想像通りにできた。楽しかった」。また、お母さんは「子どもがこんなに集中している姿は見たことがなく、驚きました」と目を丸くする。

「みんな、想像力があるね。楽しんで絵を描くことが一番大切です。また来年も来てね」とにこやかな関先生の言葉で締めくくられた。

見学していた新宿区教育委員会生涯学習振興課の田辺俊雄さんは今回の講座を振り返って「今は、親も子もバラバラで過ごすことが多い中で、一緒に作品作りをする。また、親子で自由にのびのび描くことができて、良いですね」と話し、今後もこのような取り組みが広がることを期待している。

■「また来年も!」これからも中国水墨画を

関先生は、「中国水墨画を私たちは『愛』をもって教えています。みんなが描くことを楽しめるように教えています。」と言う。参加者を見守る関先生の優しい目がそれを物語っていた。

2000年以上の歴史を持つ中国水墨画は東洋文化の伝統を理解することができ、4、5歳の小さな子からお年寄りまで年齢・性別を問わず、楽しめることが魅力。また、道具も揃えやすく、取りかかりやすいので自由な発想で作品作りが可能である。筆者も2、3枚試しに描いてみたが、上手かどうかは別として、気負いなく楽しむことができた。以前、この講座を受講した子どもの話を聞いて、近所の小学校が関先生を講師として招き、自由選択科目に中国水墨画の時間を入れたら大勢の子どもたちが希望して来たことがあるという話も頷ける。関先生はもっと多くの人々に中国水墨画の楽しさをわかってもらいたい、そう願っているのだ。

「また来年も参加したい!」そう言って帰る親子を「またいらっしゃい」と見送る関先生。参加者たちは2日間という短い間でも中国水墨画の楽しさを実感し、来年もきっとこの教室に集うことだろう。

(取材・構成:学びの場.com)

 


■関連リンク

専門学校東洋美術学校 http://www.to-bi.ac.jp/

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