2022.09.12
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「NIEノート」で日々ニュースを探究(後編) 社会の動きに興味を持ち、意見を表現できる生徒の育成

西宮市立浜脇中学校では、NIE 教育に新聞を(Newspaper in Education:新聞を教材として活用する活動によって、社会の動きに興味を持って自分の意見を表現できる生徒の育成に取り組んでいる。その結果、全校生徒が新聞を読む習慣を身につけ、ニュースを身近なものとして捉えて様々なアイデアを出し合うようになった。

前編の授業リポートに続き、後編では西宮市立浜脇中学校のNIEの取組について、渋谷仁崇教諭にインタビューを行った。

NIEで社会科に対する苦手意識を克服

西宮市立浜脇中学校 渋谷仁崇教諭

―渋谷先生とNIEとの出会いについて教えてください。

渋谷仁崇(敬称略 以下、渋谷) 浜脇中学校に赴任して今年で4年目になります。今から約20年前、産休・育休の先生の代わりに講師として社会科の授業を担当した際に「新聞ノート」の取組を引き継いだのが、NIEとの最初の出会いでした。発表の時間になると「そのニュース、知ってるよ!」「今日も授業でニュースを発表するの?」と、社会科が苦手な生徒たちも前向きに発言する姿を目にし、この取組の継続を決めました。

―今回のテーマはどのように選定されましたか。

渋谷 SDGsの「⑪住み続けられるまちづくり」をテーマに選びました。2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)協会の方と生徒たちで教育プログラムを行う機会があり、その際にSDGsという言葉が何度も出てきたのですが、それ以来、環境やSDGsに関する新聞記事を選ぶ生徒が増えたことが選定理由です。また、本校は西宮市で一番古い学校で、歴史ある西宮神社や甲子園球場がすぐそばにあります。将来この街に帰ってきてほしいという願いや、住みやすいふるさとづくりについて考えてほしいという気持ちから、このテーマを選びました。

NIEから家庭や地域へも広がる変化

―毎週、週明けの社会科の授業の初めの10分間をNIEの時間に充てているとのことですが、「NIEノート」についてご紹介ください。

渋谷 「NIEノート」とは、生徒各自が興味を持って選んだ新聞記事を貼り付け、感想を書き込むノートのことです。社会の動きに対する興味や関心を高め、世界に目を向け、社会的な思考力を持って自分の意見やアイデアを表現できる人物の育成を目指しています。政治、経済、スポーツ、科学、宇宙、環境など、新聞に載っている記事であれば分野は自由です。生徒たちは記事を毎週一つ選んでノートにまとめ、社会科の授業の冒頭に電子黒板上でプレゼンテーションを行います。生徒たちには、お互いに発表内容をメモにとるよう指導しています。

―年間を通じた取組によって、生徒にどのような変化がありましたか。

渋谷 進んでたくさんの記事を調べたり、記事の内容を発展させたり、深く内容を掘り下げる生徒が増えてきました。興味がなかった分野の記事に、他の生徒の発表を聞いて興味を持つケースも多く見られます。休み時間にNIEノートのことを話すなど、生徒同士の交流も深まりました。選ぶ記事の数は毎週一つとしているのですが、NIEノートが楽しくて毎日複数の記事を貼り付けている生徒や、家族みんなで話し合いながら記事を選ぶ生徒、将来は新聞記者になりたいという生徒まで出てきています。本校のNIEの取組を知った地元企業から新聞スタンドの寄付をいただくなど、当校から地域にも変化の波が広がりました。

生徒の関心事は?

―NIEの発表はどのような内容ですか。

渋谷 2021年度はコロナ禍や東京オリンピックの関連記事、2022年度はロシア・ウクライナ問題、観光船沈没、自然災害、KDDIの通信障害などの時事問題の記事が多かったですね。

―学年によって発表内容に違いはありますか。

渋谷 1年生はコロナ対策に関する記事、2年生は社会科で大阪・関西万博の教育プログラムと連携した授業を行った影響で、SDGsに関する記事を選ぶ生徒が多いですね。3年生では、公民の授業で学習した「衆議院選挙」や「国際連合本部で、BTSがSDGsについて講演」に加え、「地元の神社に吹奏楽の石碑(関西吹奏楽功労者の碑)が建てられた」「『カブトムシが夜行性ではなかった』という小学生の研究がアメリカの学会で発表された」などの実生活や関心事についての発表が多く、多様性が感じられました。特別支援学級でも、2022年度は週1回、社会科でそれぞれの生徒が「毎日小学生新聞」から記事を選び、内容をまとめて感想を書き、発表する、また、神戸新聞社の「週刊まなびー」のワークシートの記事を読み、質問に答えるという活動をしています。SDGsに関わって「未来型ホテル」など自分の興味あるものを中心に調べていました。

―GIGA端末の導入によって変化はありましたか。

渋谷 令和2年度末に配布されたタブレットパソコンを活用する生徒は多いですね。当校は2020年からNIE推進指定校になったため新聞が無料配布されていますが、約半分の生徒はパソコンで記事を調べています。その場ですぐに記事を調べられるというメリットは大きいのではないでしょうか。同じ記事を複数の新聞で比較し、多角的・多面的に読み込む生徒もいます。その反面、SNSで情報を得るケースも多く、その情報が正しいものか、見極めの大切さを教えることも重要だと感じています。

―他教科との連携の例を紹介してください。

渋谷 家庭科との連携では、野菜の廃棄をなくすための取組に関する記事を調べました。国語との連携では、200字で表現した意見書を国語の先生に確認してもらい、神戸新聞の紙面に掲載してもらいました。総合的な学習としては、大阪・関西万博の教育プログラムとの連携を行っています。阪急阪神フォールディングスや大阪ガスとオンラインミーティングを実施し、SDGsをテーマに各社の取組について講義してもらいました。それ以来、SDGs関連の記事を選ぶ生徒が増え、興味や関心が高まっているようです。

NIEでの新しい挑戦

―今後、NIEで構想している新しい取組はありますか。

渋谷 Society5.0「創造する社会」の実現に向けて、未来を担う生徒たち一人ひとりがアイデアを持ち、それぞれに活躍する人間の育成を目指すことを目標にしています。当校は創立75年以上の歴史があり、地域との関わりが深い学校です。コミュニティスクールのように、地域のみんなで双方向にアイデアを出したり意見を言ったりできるようになればと考えています。地域の新聞や他のメディア、各学校行事、地域行事でアイデアを発信し、文化活動発表会でのプレゼンテーションに加え、ジュニアEXPOへの参加も目指しています。

―NIEを始めてみようという先生にアドバイスをお願いいたします。

渋谷 生徒たちの学校生活の中でNIEが「日常化」するためには、教師側も無理をすることなく、生徒と共に楽しめる環境を創り出していくことが大切です。ニュースから川柳をつくったり、年間流行語の投票をしたり、教師も生徒たちも楽しいと思えるような取組を続けることで新聞を読むことが当たり前となり、NIEが自然と「日常化」していくのではないでしょうか。

記者の目

生徒が様々な分野の記事を選び、ノートいっぱいに感想やアイデアを書いていることに驚いた。全国平均と変わらないくらい新聞を読まなかった生徒たちが、今は当たり前のように新聞を読み、大人顔負けのアイデアを出し合っているとのこと。ニュースの出来事を身近なこととして捉え、どうすべきかを懸命に考えることで、世界を身近に感じているようだ。NIEによって自分の興味の分野が何か気付き、これから進路を選んでいく際の助けにもなると思われる。生徒たちの中から将来の新聞記者が何人も生まれるのではないだろうか。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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