2022.09.12
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「NIEノート」で日々ニュースを探究(前編) 西宮市立浜脇中学校 社会科授業リポート

2022年7月11日、西宮市立浜脇中学校3年5組では「NIE 教育に新聞を(Newspaper in Education:新聞を教材として活用する活動)」の取組の1つとして、社会科の授業内で「住み続けられるまちづくりアイデアミーティング」が行われた。

NIEの授業で使われる「NIEノート」とはどのようなものなのか。NIEの授業を続けることで、生徒たちにどのような変化が起きているのか。今回の授業リポートでは、同校で実施されているNIEの取組を紹介する。

授業概要

学年・教科:中学校3年生・社会科(公民的分野)
テーマ:住み続けられるまちづくりアイデアミーティング(SDGs目標11)
授業者:渋谷 仁崇 教諭
使用教材・教具:電子黒板、書画カメラ、パソコン(生徒一人一台)、NIEノート、ワークシート

NIEノートを確認

「パソコンの準備をしてください」
渋谷教諭の指示で、生徒たちがカバンの中から小型のタブレットパソコンを取り出した。

「起立」「礼」「着席」チャイムと共に号令がかけられる。

「それでは、前後でペアを組んでください!」
生徒たちが前後の席でペアを組み、ノートやパソコンを見せ合い始めた。開いたノートには新聞記事の切り抜きが貼ってあり、そのまわりには空白を埋めるようにびっしりとコメントが書き込まれている。

西宮市立浜脇中学校では、一週間に一つ、新聞記事の切り抜きをノートに貼って感想やアイデアを書き込む活動をしており、そのノートを「NIEノート」と呼んでいる。毎週最初の社会科の授業の初めの10分で、生徒たちが準備してきた新聞記事の内容や感想を発表し合うそうだ。

生徒たちがノートに貼ってきた新聞記事は「出産前後 母親の孤立防ぐ」「人型ロボットがiPS培養」「ツイッター買収」と、テーマは身近な話題から科学、政治、医療など、多岐にわたるが、この日は生徒の半分近くが安倍氏銃撃の記事を切り抜いてきた。

渋谷教諭が生徒のNIEノートを順番に見て回り、記事にハンコを押していく。ノートではなく、パソコン画面をペアの相手に見せながら説明している生徒もいる。渋谷教諭が一人の生徒のNIEノートに何度もハンコを押した。一人で25記事も切り抜いてきた生徒がいるようだ。すぐ隣の席の生徒も、同じくらい多くの新聞記事を切り抜き、NIEノートに貼ってきたそうだ。

号外って何?

この日は週明けの月曜日。先週の金曜日には安倍元首相が銃撃され、突然のこの大きなニュースに日本中が震撼した。日本だけでなく世界中でも同様に大ニュースとして報道されたばかりだ。

「安倍元首相の件で神戸新聞の号外が出ました。号外って何?何部配ったでしょう?」
渋谷教諭の質問に様々な数字が飛び交う。「答えは2,000部です!」

「この号外、何時に配ったでしょう?」渋谷教諭の質問が続く。
「事件が起きたのは11時半。両面印刷した2,000部の号外を配ったのは13時半です!」

渋谷教諭の説明に黙って耳を傾ける生徒たち。2時間で事件の事実確認をし、記事を書いて印刷し、配布する。そのスピードで号外の新聞を出すことがいかに大変なことか、生徒たちは静かに聞き入っていた。

アイデアミーティング

時事についての話が終わり、授業は今日のテーマへと移った。

電子黒板にパワーポイントが映し出される。
「テーマはSDGsの11番『住み続けられるまちづくり』です」
このテーマに合うニュースについて調べ、ノートに新聞記事を貼って感想やアイデアを書いてくることが、宿題になっていたようだ。

「今から配るプリントの片面は班内の発表用に、裏面はクラス発表用に使ってください!全く同じプリントがドライブにもあります。そこに直接入力してもらっても構いません」
渋谷教諭が記入用のワークシートを各生徒に一枚ずつ配布し始めた。

プリントが全員の手にわたると、それぞれ班に分かれて記事の内容、感想、アイデアを発表するよう、生徒たちに指示が出される。司会、記録、発表、計時、ムードメーカーと、班内で役割分担を決める時間だ。

「班隊形になってください!」渋谷教諭の指示で、生徒たちが机を動かし、6名前後の班に分かれていく。

「役割が決まったら司会者中心に進めてください!」誰が司会で、誰が記録をとるのか。誰が発表し、誰がタイムキーパーをするのか。誰がムードメーカーとして班を盛り上げるのか。各班で話し合って役割を決めていく。

役割が決まった班から、生徒が一人ずつ、NIEノートを開いて班内での発表を始めた。1人あたり1~2分の持ち時間で、次々と発表していく。新聞記事の切り抜き内容を発表した生徒に対して、同じ班の生徒たちが意見を出していく。発表ごとに生徒たちから拍手が起こった。

「妊婦専用バー期間限定オープン ノンアルカクテルでリフレッシュ」「イタリア、アンデス山脈雪崩」「医者がいる学校」など「住み続けられるまちづくり」というテーマに沿った新聞記事が次々と発表されていく。
「この意見についてどう思う?」という生徒の質問に、他の生徒たちがそれぞれの意見を言い、話題はさらに広がっていく。

20歳未満の子どもが親のクレジットカードを使ってオンラインゲームに高額課金をしてトラブルになるケースが急増しているという内容の「オンラインゲーム高額課金 トラブルに注意」という記事には、「定期的に、スマートフォンにカード情報が登録されている場合はプレイ中に次々と課金されてしまうこと等を教える講習会を行うといいのではないか」という意見が出された。渋谷教諭から配られたワークシートに、生徒たちが発表内容を次々と書き込んでいく。

USB紛失問題については、「自治体の印象が悪くなった」「印象が悪くなったなら、変えないと」「まずは市民から意見を集めて、その中から方針を変えていったらどうかな?方針を変えることで悪くなってしまった印象を変えていく」という意見が出された。

安全なまちづくりを考える

「みんな、座席を元に戻してください!」渋谷教諭の合図で机を一斉に元に戻し、生徒全員が前を向いた。
「じゃあ1班から発表してもらいます!みんなはシートの裏にメモしていってください」

班の記録係が電子黒板に自分のタブレットパソコンの画面を映す。記録係の生徒はノートではなくパソコンに班の生徒全員分の発表内容を記録していたようだ。班の生徒全員分の記事の内容、感想、アイデアが電子黒板に映し出され、次々と読み上げられていった。

直前に起きた事件だったこともあり、銃撃されることのない安全なまちづくり→「住み続けられるまちづくり」という視点で多くの生徒は安倍元首相銃撃事件を選んでおり、「SPで囲む」「選挙カーにもボディガードをつける」「360度スノードーム式で囲む」「危険物が見える眼鏡を作る」といったアイデアが紹介された。

その後、アメリカの銃問題について調べてきたという生徒が前に出てきた。書画カメラでNIEノートを電子黒板に映す。「アメリカでは銃撃事件は日常茶飯事です」という発表を、生徒全員が集中して聴く。

発表が終わると、渋谷教諭が生徒たちに質問をした。
「この事件が起きたとき、周りの人たちが何をしていたか知っていますか?」
生徒たちは黙ったままだ。

「周りの人たちはスマホで写真を撮っていたそうです。アメリカの記者がコメントを出していましたが、アメリカ人ならすぐに逃げるかしゃがむか、そのどちらかだそうですよ!」

発表でも言われていたように、アメリカでは銃撃事件は頻繁に起こっているため、市民の警戒心は強く、銃声には敏感に反応する。学校や幼稚園でも銃乱射対応訓練が行われてる。

「大きな音がしても、日本人は銃とは思わないからね」日本とアメリカの違いが一つのニュースからでも浮き彫りになる。渋谷教諭の補足が終わると、授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。

後編では、渋谷教諭にNIEの取組についてインタビューした内容をお届けする。

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取材・文・写真:学びの場.com編集部

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