2008.03.19
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

チームワーク

横浜市立中田中学校 英語科 教諭 石山 等

 「教育つれづれ日誌」への投稿も、いよいよ今回が最後となります。教育関係者の貴重な生の声を募るという、大変有意義な企画に、執筆者の一人として参加させていただき、本当にありがとうございました。本来ならば、執筆の継続を自ら願い出たいところなのですが、仕事の都合で、どうしてもペンを置かなければなりません。ちょうど学校の卒業式の季節に重なるせいか、寂しさもひとしおです。どうか、関係者の皆様には、これからもくれぐれもご自愛の上、執筆に編集に精出していただけますよう、心からお祈り申し上げる次第です。

 さて、最終回は「チームワーク」の大切さについて話を進めようと思います。現役教員時代の私は、どうもこの「チームワーク」というのが苦手でした。仲間と協力して仕事をすることが嫌なのではなく、職場の仲間に仕事を頼むのが苦手だったのです。リーダーとしての素質がなかったのかも知れません。自分の考えを周囲に理解してもらって、効果的な役割分担をする面倒を避けて、何でも自分一人で背負い込んでしまう方が楽だったのでしょう。しかし、冷静に考えてみれば、一人の人間にできることなど、たかが知れています。自分一人が大仕事を抱えて、独善的になることを避けながら、最後まで全力疾走しようとするのは、非常に危険です。
 
 我が家のトイレのカレンダーには、月ごとの教訓が書かれていますが、3月の教訓は偶然にも「独りよがりになるべからず」というものでした。トイレに行くたびに、過去の自分を反省することしきりです。4月になるまでは、反省の繰り返し。「孤軍奮闘」という言葉はいい意味で使われるものだと思いますが、度が過ぎると独善的になり、自分一人だけが頑張っているような気持ちになりがちです。そして、やがては自分の考えだけが正しくて、他人の考えはどこかおかしいと思いこむようになる。そうなると、なぜ周囲は自分の努力を評価してくれないのかという不満ばかりがたまることにもなりかねません。現役時代の私は、まさにそんな落とし穴に何度も陥ったような気がします。

 「十人十色」という言葉がありますが、人はそれぞれに価値観や判断基準が異なります。だからこそ、チームを作って仕事をすることには意味があるのでしょう。いろいろな考え方をぶつけ合うことで、より客観的な作戦を練り上げることができるからです。そして、複数の人間が一つの仕事に関われば、誰かが失速気味になっても、お互いに助け合うことができるというわけです。「教育」が壮大な仕事であることを考えれば、教育現場にはまさにチームワークが必要だということになります。

 あるとき、下校中の女子生徒が露出狂に出くわす件数が急増しました。ソフトボール部の顧問をして、いつも最終下校ぎりぎりまで練習に明け暮れていた私は、部員が被害に遭うのを阻止するために、下校時間にバイクで地域を回るようになりました。職員会議であれこれ対策を論じている暇があったら、一人でも早く動いた方がいいだろうと勝手に判断したのです。確かに「善は急げ」の作戦は功を奏し露出狂の出現回数は減っていきました。でも、たった一人の見回りに、長期的な効果など期待できるはずもありません。最終下校まで残っていることが多い職員で手分けをすれば、負担も最小限にとどめることができたでしょうし、何より「職員の団結力」を示すことが、露出狂への最大の抑止力になったに違いありません。そしてその「チームワーク」が、下校途中の子供を守ろうとする地域全体の運動につながったかも知れないのです。

 教室の美化に関しても似たようなことが言えるでしょう。教室に観葉植物を置くことで生徒たちの心が癒されるだろうと考える担任は少なくないはず。私も一生懸命教室に緑を増やす努力をしました。でも、もっと大きな視野で考えれば、一部のクラスだけではなく、どのクラスも緑豊かになれば、効果は絶大でしょう。学年会議や職員会議で教室の緑化を提案して賛同が得られれば、担任が自腹を切って鉢植えを買う必要もなくなるでしょうし、長期休暇のときの水やりの工夫もできるに違いありません。また、全職員が一丸となって一つの目標に向かっているのだという気持ちは、教員が陥りがちな孤立感から私たちを救ってくれるでしょう。

 普通の人間は、常に活力がみなぎった状態で居続けることは不可能です。元気が少しなくなってきたときこそ、職場のチームワークがものを言うわけです。「えっ?それ本音で言ってるの?」昔の私を知る先生たちは、目を丸くして言うかも知れませんが、職場を去ってしまってから、大切なことに気づくというのは、何とも皮肉な話ですね。自分の英会話学校を立ち上げて、何とか細々と仕事を続けている今の私は、まさに「孤軍奮闘」の日々のように見えます。でも、本当は家族や知人の温かい支えに甘えながらの不十分な奮闘です。自分が情けなくなるときも多々ありますが、今の私は「チーム」の一員として少しでも役に立てる方法を、粘り強く探っていこうと思います。

石山 等(いしやま ひとし)

横浜市立中田中学校 英語科 教諭
52歳。4年半のブランクを経て、教育界に復帰しました。最初に担任したのが3年生の素晴らしい子どもたちで、昔の元気一杯だった自分を思い出させてくれて、心から感謝しています。

同じテーマの執筆者

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop