2008.03.05
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学級通信

横浜市立中田中学校 英語科 教諭 石山 等

 採用2年目で初めて担任した中学1年生のクラス。新入生と同じかそれ以上に、希望で胸をふくらませていた弱冠25歳の私は、子供たちの一人一人が、文字通り宝石のように輝いて見えたものです。まるで、翌日に遠足を控えて興奮した小学生のように、早くクラスの子供たちに会いたくて、なかなか寝付けない夜もありました。若いエネルギーというのは大変なものですね。教員を長く続けていれば、逆に朝が来て欲しくないような疲れた日々も経験することになるわけですから(笑)。
 子供たちと接する毎日が楽しくて仕方なかった私は、自然と学級通信を書くようになりました。当時はまだワープロなどがなかった時代なので、手書きの通信一枚を仕上げるのに、結構な時間がかかったような気がします。それでも、1学期のうちは毎日のように通信を書き続けました。経験のない若い教師は、自分のエネルギー配分などはちっとも気にしないものです。次第に疲れがたまってきた私は、2学期になると、さすがに毎日通信に向かう気力はありませんでした。「継続は力」という格言がありますが、一定のペースで続ける作業は長続きしても、不定期の作業を続けるのは至難の業です。4月に張り切って書き始めた学級通信が、やがてペースダウンして、年度途中で自然消滅するという情けない経験をしたことのある先生は、決して少なくないでしょう。

 学校という世界では、「継続」ほど大切なものはありません。教育という行為自体が、地道な努力をこつこつ続けることを要求するからです。子供や保護者の信頼を得るためにも、一度始めたことは、粘り強く最後まで続けることが大切です。どんなに情熱的なエネルギーも、短期間で燃え尽きてしまったのでは、かえって周囲の期待を裏切ることにもなりかねません。かといって、常にマイペースで新しいことに情熱を注ぐことがなければ、魅力的な先生になることもできないでしょう。そこが、教師という仕事の難しさです。

 どちらかと言えば「短距離走」タイプの私が、仕事の効率を徐々に上げながら、上手にペース配分をしようと努力するようになるまでには、ずいぶん長い時間がかかりました。と言うよりも、教師にとっては「瞬発力」よりも「持続力」の方がはるかに大切なのだということを理解するのに、それだけ長い時間がかかったと言った方が正しいかも知れません。学級通信にも毎年チャレンジしましたが、ある程度の余裕を持ちながら、途切れない通信を実現するまでに6年ほどかかったでしょうか。そして、できるだけ数多くの通信を発行するために、私は味のある手書きの通信を捨てて、ワープロを使った通信に切り替えました。英語が大好きで、高校生の頃からタイプライターをいじっていた私は、ブラインドタッチのキーボード入力で文書を作成すると、手書きの10倍以上の速さを実現できたのです。その代わりと言っては何ですが、イラストやスタイルの違った記事を貼り付けるレイアウトの技術は一生懸命磨きました。失ってしまった「手書きの味」を少しでもカバーするためです。どちらが理想的かという議論はあまり意味がありません。大切なのは、自分のペースをよく考えて、より良い方法を選択することだと思います。

 毎日のように学級通信を書いていると、「どうやって毎日通信を書いているのですか」という質問を受けることでしょう。答えは「継続は力」という格言の中にあります。毎日書くことで、学級通信が日常の習慣になって長続きするわけです。例えば、歯磨きは毎日の習慣になっているから面倒を感じないだけで、磨いたり磨かなかったりしたら、きっと面倒くさく感じるようになるに違いありません。もちろん学級通信は歯磨きのような単純作業ではありませんから、通信の内容や自分が抱えている仕事の量を考えながら、負担の少ないペースで発行した方がいいでしょう。完璧主義で芸術的な通信を書こうとすると、1回の負担が増大し、結果的に通信の寿命を縮めることにもなりかねません。

 春の足音がだんだん近づいて来ました。4月に新しいクラスを持つ先生たちは、自分のうちに湧き出る新鮮なエネルギーを感じることでしょう。学級通信のタイトルは何にしようかと、何日も迷う担任の先生もいるはずです。いずれにしても、創刊号に手をつけるときには、かなり緊張させられますね。創刊号が出れば、読み手は1年間の定期購読を当たり前のように期待するわけですから。

石山 等(いしやま ひとし)

横浜市立中田中学校 英語科 教諭
52歳。4年半のブランクを経て、教育界に復帰しました。最初に担任したのが3年生の素晴らしい子どもたちで、昔の元気一杯だった自分を思い出させてくれて、心から感謝しています。

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