2008.02.06
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忘れたくない小さな心遣い

横浜市立中田中学校 英語科 教諭   石山 等

 我が家にはもうすぐ4才になる雄の柴犬がいます。3年半前に教師を辞めて時間的な余裕ができた私が、我が家の愛犬龍馬と地域を散歩して回るうちに、多くの人々と気軽に挨拶を交わすことの大切さを痛感したという話を、以前このつれづれ日誌でも披露させていただきました。ところが、犬の散歩は地域社会の大きな問題点とも向き合わせてくれます。そうです、街のあちこちに犬のウンチが放置されているのです。各自治体は、それぞれに条例を定めて、散歩中の犬のウンチを放置することに罰則を科していますが、実際に取り締まりを受けたという人の話は聞いたことがありません。様々な場所に設置された、飼い主に注意を促す看板も、ほとんど効果がないようです。それどころか、これ見よがしに、看板の真下にウンチを残していく、悪質な飼い主もいるほどです。
 
 ウンチの放置は、雨や雪の日には特にひどい状況になるようです。傘を差しながら後始末をするのが面倒くさいからなのでしょうか。放置されたウンチは、雨水に流され道路に広がります。また、雨に濡れた後でからからに乾燥したウンチは、もろい粉状になって風に乗って地域に飛ばされます。アレルギー体質の子供たちが、その粉末を吸い込んだらどうなるでしょう。最近は、「犬も歩けばウンチに当たる」という悲惨な状況なので、ときどき犬用の特別なシューズを作って、龍馬にはかせようかと思うこともあります。一人一人の飼い主が、自分の犬のウンチを片付けるだけで、地域がどれほど清潔になるか知れないのに、全く困った話です。こんな大人たちの非常識を見て育っている子供たちは、どんな価値観を持つようになるのでしょうか。

 話は変わって、ある中学校の印刷室でのこと。他のどの学校でも目標に掲げているように、その学校でも、印刷済みのプリントの裏面を有効に活用することが課題になっていました。印刷室には、余ったプリントや印刷ミスのプリントを保存しておくための箱が置かれていました。ところが、箱の中に投げ込まれるプリントは、ほとんどゴミ同然の扱いなので、表も裏もありません。裏面に連絡事項を印刷しようと思ったら、中からごそっとプリントを取り出して、まずは印刷されていない面を上にして整理することから始めなければなりません。用紙の大きさもまちまちですし、あきれたことに中にはすでに両面とも印刷されたプリントまで混じっています。小規模校で職員数も少なかったために、どの先生も毎日目が回るような忙しさだったのでしょう。人間は、自分の仕事に追われているうちは、周囲への気遣いがどうしてもおろそかになりがちです。でも、「情けは人のためならず」という格言があるように、自分がしでかす心ない言動は、やがては別の場面で自分自身に返ってくるものです。

 印刷室でのトラブルはまだ他にもありますが、ときどき印刷後のインクまみれの原紙をそのままゴミ箱に投げ込む人がいますね。裏面印刷用に保存してあるプリントに包んで捨てれば、掃除の時間に生徒がゴミ箱に手を突っ込んで、ジャージやワイシャツの袖をインクで汚す心配もなくなるのに、そのちょっとした気遣いもできないというのは、いくら忙しい学校にあっても寂しい気がします。

 自分の生活を維持するのが大変な時代にあって、どの立場の人たちも自分の頭のハエを追うことで精一杯になっている。意図的に他人に迷惑をかけてやろうと、反社会的な発想を抱いている人はごくまれだと思いますから、ほとんどの人は周囲に気遣いをする余裕をなくしているのでしょう。でも、そのちょっとした「無関心」が積み重なって、職場や地域社会を住みにくい場所にしているのかも知れません。そして、子供たちは、学校で受けるどんな道徳の授業よりも、現実の世界の大人たちの「無関心」や「非常識」により敏感です。大人から注意を受けることが多い、多感な思春期にある子供たちは、大人たちの一挙手一投足を注意深く、かつ批判的に観察しているからです。

 身も心も疲れ切ってしまってそれどころではないという人もいるでしょう。そういうときは周囲の比較的元気な人間たちが、小さな心遣いを積み上げることにすればいい。「自分一人が正しい行動をしても焼け石に水だ」とあきらめてしまったら、子供たちに対する地域の教育力は影も形もなくなってしまいます。

石山 等(いしやま ひとし)

横浜市立中田中学校 英語科 教諭
52歳。4年半のブランクを経て、教育界に復帰しました。最初に担任したのが3年生の素晴らしい子どもたちで、昔の元気一杯だった自分を思い出させてくれて、心から感謝しています。

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